メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 1『スタイルズ荘の怪事件』 アガサ・クリスティー/著 早川書房

2022-10-16 16:01:23 | 
2003年初版

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


【注意】
トリックもオチもネタバレがあります
極上のミステリーなので、ぜひ読んで犯人当てをしてみてください



本書を読んでからもう一度『カーテン』を読めば
もっと感慨深かったに違いない

これが最初に書かれた長編小説だとするとものすごい才能だな!
ポアロやヘイスティングズの人物描写もすでに完成している

ホームズとワトソンの出会いは運命的だけれども
ポアロとヘイスティングズの最初の場面は
ぶつかりそうになると言うシンプルなもの

すでに相当親しい友人関係で
どうしてそういう間柄になったかは語られていないのが残念

ポアロが定年退職してから
戦争になってベルギーを追われた

もと名刑事だったのが私立探偵になってからの話だと
解説を読んで知ったけれども
もっと若いのかと思っていたから意外

ヘイスティングズとポアロは大体同じ年齢と思っていたが
この時のヘイスティングズがとても若いとしたら
定年後のポアロと相当歳が離れていることになる
その後、長いシリーズになるなんて思いもしなかったろうね



今作にはヘイスティングズと
後に結婚するシンシアの出会いについても知ることができる

『カーテン』によると遺伝性のアルコール依存症で亡くなったとある
この下宿で初めて会った時の回想が美しい描写で描かれていたけれども
本書を読む限りそれほどインパクトがない出会い

ヘイスティングズがシンシアよりメアリーに惹かれているのが興味深い
それなのに、泣き出したシンシアに
いきなりプロポーズしてフラレている

半分まで読んで私の推理はジョンがあやしい
女主人が話していた相手はジョンではなかったか?

読み終えて、まさかの展開にビックリ
まんまとアガサの手法に騙された!!!
だから推理小説は面白い



【内容抜粋メモ】

<登場人物>
エルキュール・ポワロ
ヘイスティングズ

エミリー・イングルソープ スタイルズ荘の女主人
アルフレッド・イングルソープ エミリーの夫

ジョン・カヴェンディッシュ エミリーの息子 血はつながっていない
メアリ・カヴェンディッシュ ジョンの妻
ローレンス・カヴェンディッシュ ジョンの弟

バウアスタイン博士 毒物学の世界的権威
エヴリン・ハワード エミリーの友人
シンシア・マードック 薬剤師 エミリーの学生時代の旧友の娘
ドーカス メイド
ウィルキンズ エミリーの主治医




『スタイルズ荘の怪事件』によせて マシュー・プリチャード
インフルエンザで寝込んだアガサが読む本がないと母に言うと
「自分で書いてみたら?」とすすめられた

本作にはポアロが初登場する
滑稽な外観、ヨーロッパ風の仰々しさで巧みに隠蔽され
犯人に安心感を抱かせる小男
生命の尊さを尊重し、不愉快な人間も生きる権利があると信じている

推理小説は別名フーダニット(誰がやったのか)と言われる
犯人捜しが大きなテーマ

マシュー・プリチャード:アガサの娘ロザリンドの息子
クリスティー財団の理事長を長く務める


【内容抜粋メモ】

●スタイルズ荘
ヘイスティングズは傷病兵として前線から本国に送還され休暇をもらう
15歳上の旧友ジョンに偶然出会い、スタイルズ荘に呼ばれる

ジョンの母エミリーは最近20歳も年下のアルフレッドと再婚してゾッコン
財産目当てだと噂されても気にしない

エミリーを慕うハワードはアルフレッドを目の仇にして
とうとうケンカして、ヘイスティングズに
アルフレッドに気をつけろと忠告して家を出て行く


●ポアロとの再会
郵便局から出た所でぶつかる
エミリーがポアロらベルギー人を救い、宿で泊っている

7月16日月曜日
エミリーとアルフレッドがケンカしているのをメイドのドーカスが聞いた

夜、毒物学の世界的権威のバウアスタイン博士が転んで泥だらけで現れ
スタイルズ荘に泊まる

アルフレッドがコーヒーを淹れて、みんなが呼ばれる


●悲劇の夜
エミリーがひどい痙攣を起こして死亡
みんなが起きて目撃するがアルフレッドだけ出かけていない
主治医のウィルキンズは働きすぎによる心臓発作と診断






ヘイスティングズは毒を盛られたと推測し
ポアロに秘密裡に捜査させるようジョンに提案

家まで迎えに行き、事情を話すと、エミリーが食事をとったか聞かれる

ストリキニーネ中毒なら即効性があるから
夜飲んだコーヒーに入っていたら、朝5時に痙攣を起こすのは遅すぎる


●不審な点
エミリーの寝室をくまなく見るポアロ







ロウソクのしみ、ボルト錠についた緑色の糸
夫人が大切な書類を入れていた文書箱
ココアを飲んだこと、踏んで粉々になったコーヒーカップなどを調べる

暖炉で焼かれた紙片は遺言状だったと分かる

ドーカスはエミリーがなにか夫婦関係について喋り
手に手紙のようなものを持っていたと証言

寝る前に飲むココアを持って行く時
お盆に粉が落ちていたのを拭いたと言うと
それこそストリキニーネだと推理するヘイスティングズ

エミリーはコーヒーを飲まなかった
アルフレッドはコーヒーを飲まない
シンシアはコーヒーに砂糖を入れない

前日、エミリーに呼ばれた弁護士ウェルズが来る
以前の遺言状はジョンが不動産、ローレンスはお金をもらうはずだったが
再婚したことでアルフレッドがもらうことになった

庭師の2人に聞くと、エミリーが新たに書き直した遺言状にサインしたと言う

あまり悲嘆に暮れる家族がいない中、ハワードが戻り涙の跡に気づくポアロ

文書箱からなにか犯人に不利なものが盗まれたと気づいて悔しがるポアロ
興奮すると目が猫のように緑色になるって面白いw

エミリーが何度も書いた“possessed”は悪魔に憑かれたのではなく
遺言状を書き直す際に綴りを忘れてメモしたもの

皆がアルフレッドを疑う中、ポアロだけ無罪を示す証拠がいくらでもあると言う

ポアロ:私どもベルギー人にとてもよくしてくださった御恩があるんです
とここで初めて涙を浮かべて、必ず犯人を探すと誓う



●検死審問
当時の法だと公判の前に陪審員の前で関係者が証言する所があるんだな

エミリーのココアからは毒は検出されなかった
とても苦いため、コーヒーになら紛れこませることができるが証拠はない

エミリーは強壮剤を飲んでいて、それにも少量のストリキニーネが含まれるが
突然死を引き起こすことはない

エミリーとアルフレッドの会話を近くで聞いていたはずのメアリは
読書に夢中で聞いていなかったと言う

最近、薬局に来たばかりのメースが
アルフレッドにストリキニーネを売ったと話す
サインがあるが、筆跡が違うし、アルフレッドに扮した別人と分かる

その時間、アルフレッドはアリバイをハッキリ話さず
ミセス・レイクスとの浮気を匂わせる


●スコットランドヤードのジャップ警部とサマーヘイ
ポアロの腕を高く買うジャップ警部はアルフレッドを逮捕しようとしていたが
ポアロが否定したためいったん止める

ポアロ:
現実の証拠は漠然としているが
今回はあらかじめ用意したように整然としている

ローレンスは医学の勉強をしていたのに自然死と言ったのも変
バウアスタイン博士も朝からキチンと身支度をしていて何をしていたのか?
シンシアは隣りで寝ていたのに何も聞いていないのも変

みんなを集めて「メダム・アンド・メシュー」と話し始めるポアロ
ヘイスティングズを向かいの棟に立たせて
エミリーのテーブルを倒した音が聞こえなかったことを検証

ポアロ:
直感は常に大切にしなければなりません
動機のない殺人はありません


●変装
ポアロが推理した通り、収納箱から変装用に使った顎髭が見つかる
薬局でストリキニーネを買ったのはアルフレッドに変装した誰か

ヘイスティングズが寝落ちしている所に
ジョンとメアリが来てケンカを始める
ジョンがメアリとバウアスタインの仲を疑うと
メアリはジョンの浮気を責める

ヘイスティングズはジョンに犯人はバウアスタインではないかと告げる

シンシアはメアリに嫌われていると思い、エミリーは何も残さなかったし
ここにいていいものかと悩みを打ち明けて泣く

ヘイスティングズはいきなりプロポーズして断られる

バウアスタインはスパイ容疑で逮捕されるが新聞には載らなかった

ポアロから頼まれてハワードが見つけたハトロン紙に書かれたイニシャルはL

メアリは結婚後すぐに夫婦仲が壊れ
ジョンと別れて自由になりたいとヘイスティングズに話す

ローレンスはポアロに言われて、なくなったコーヒーカップを見つける

ポアロはシンシアの仕事場にあったストリキニーネの瓶から
ローレンスの指紋があることを調べる



●ジョンの逮捕

ヘイスティングズ:旧友が犯人だとは信じがたい
ポアロ:どんな殺人犯も誰かの旧友なのでしょう

ポアロはメアリがとても嫉妬深い人だと見抜き
ジョンは無罪釈放されると推測する

ポアロ:鎖の最後の環が欠けている

エミリーと口論していたのはジョン

ヘヴィウェザー卿は金に困っていたジョンを尋問
ストリキニーネの瓶をジョンの部屋から見つけたジャップ警部

ローレンス宛ての小包の中身は変装用の顎髭
ローレンスも怪しいと陪審員に思わせるヘヴィウェザー

ポアロ:すべて情況証拠でしかない

煮詰まって、トランプで家を建てているポアロに
ヘイスティングズが何気なく言った言葉が大きなヒントになり
慌てて家から出て行く



●最後の環
再びスタイルズ荘に全員を集めて
緑色の糸はメアリの農業用の裾で
エミリーが痙攣発作を起こした時、メアリがその寝室にいたと話し始める

エミリーの部屋で探しものをするために、シンシアとエミリーに睡眠薬を飲ませた
急に痙攣を起こしたため、驚いてロウソクをこぼした

遺言状を焼いたのはエミリー自身
最初の口論は、ジョンの浮気について

コーヒーは7人分用意されたが片付けた時は6つのカップだけ
1つはエミリーが持っていたが、メアリは自分の睡眠薬のせいで死んだと思い隠した

睡眠薬とストリキニーネを一緒に飲んだことで毒性の作用が遅れるが
エミリーはコーヒーを飲まなかった

死因はいつも飲んでいた強壮剤
毎日飲む瓶の底にストリキニーネがたまり、最後の一服を飲んだせい

本当は月曜日に死ぬはずが、エミリーは演芸会があって飲み忘れた
犯人は共犯者に「心配しなくてもよい」という旨の手紙を書いた

殺人犯はアルフレッド!!



●謎解き
アルフレッドと共犯のハワード!は拘留された

ポアロ:君は考えていることがすぐ顔に出るから、アルフレッドに気づかれてしまう

ヘイスティングズは『カーテン』でも同じことを言われていたな

アルフレッドは一度無罪になると、同じ罪で裁判にかけられない法律を利用した
(これって、よく小説に利用されるから見直したほうがいいのでは?

薬局でストリキニーネを買ったのは変装したハワード!
2人はいとこで姿が似ていたし、ハワードの父は医者でクスリの知識があった

ジョンに罪を負わせようとしたことで逆にボロが出た
ハワードに書いた手紙をエミリーが読んだが
どんな事件に巻き込まれるかまでは予測出来なかった

アルフレッドは手紙を割いてこよりにして壺に隠した

行き詰ったポアロがついクセでマントルピースの置物を直したことを
ヘイスティングズに指摘され、あの中に手紙があると分かった!

ストリキニーネの瓶などをジョンの部屋に置いたのもハワード

ローレンスはシンシアが犯人だと思い、コーヒーカップを踏みつけた
2人は好き合っていた

(あれ? 最初からヘイスティングズと結ばれたのではないのか
 いつから2人は親しくなったんだろう?

メアリとジョンの仲を戻すために
わざとジョンを逮捕させたと自慢気に話すポアロw

ポアロ:一組の男女の幸福ほど大切なものはこの世にありません




解説 ミステリー評論家・数藤康雄
本作はアガサが初めて書いた探偵小説
18歳で書いた習作を隣人の作家イーデン・フィルポッツに読んでもらい批評を受けた
フィルポッツは江戸川乱歩が激賞した『赤毛のレドメイン家』を書いたミステリ作家

20世紀初頭~1920年代前半はショッカー(通俗的なスリラー小説)が主流
ミステリの評価はそれほど高くなかった

アガサの台頭でミステリ黄金時代の幕が開いた

私は晩年のアガサに招待され、別荘グリーンウェイハウスに一泊した
階段からの転落による大腿骨の骨折は完治し杖をついて歩行していた



【ミス・マープルシリーズ】
長編初登場『牧師館の殺人』
書斎の死体
動く指
予告殺人
魔術の殺人
ポケットにライ麦を
パディントン発4時50分
鏡は横にひび割れて
カリブ海の秘密
バートラム・ホテルにて
復讐の女神
最終作は『スリーピング・マーダー』ハヤカワ・ノヴェルズ



【トミー&タペンス】
おしどり夫婦のベレズフォード夫妻
素人探偵だが、探偵小説を読破して、名探偵の探偵術を拝借して謎を解く

『秘密機関』の時は2人合わせて45歳
最終作『運命の裏木戸』はともに75歳
アガサが31歳~83歳までの間に書き上げた

NかMか
親指のうずき


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