メランコリア

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乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10 9 樽 F.W.クロフツ 集英社文庫

2023-01-02 15:19:52 | 
1999年初版 二宮馨/訳

「ジュヴェナイル」カテゴリーに追加します


【注意】
トリックもオチもネタバレがあります
極上のミステリーなので、ぜひ読んで犯人当てをしてみてください


クロフツは以前読んだな

天才肌の探偵によるひらめきではなく
警察がたくさんの証言を集めて
いろんな仮説を立てていくのはリアル
その分、何度か繰り返しが出て、長くなるけど

事件も余計な生臭さや、怪奇現象などなくても
樽から女性の死体と金貨が出てきたというだけでゾッとする

<半分まで読んだ考察>
二転三転して、ものすごい作り込まれた話
最初に疑われた者が樽の移動とともに
別の人物が疑われる
フェリックス→フランスの友人→夫

今の時点で私は夫が嫉妬で殺して
フェリックスに罪を押し付け
ショックを与えようとしたと思う

帽子の留めピン、バッグを持たずに出かけるのはおかしいから
夫が持ち出して行方不明に見せた

最初のドアの音も夫
アメリカ人と会った話はウソ

「アリバイ崩しの名手」という前フリがあって
あまりアリバイが完璧すぎるのもウソくさい

章や舞台が変わるごとに語り手が移るのも面白い趣向


【内容抜粋メモ】

登場人物

<ロンドン>

I&C汽船
社長エイヴリー
主任ウィルコックス
トム・ブロートン
ハークネス

レオン・フェリックス 画家
マーティン
クリフォード弁護士
勅撰弁護士ヘップンストール
ジョルジュ・ラ・トゥーシュ私立探偵

バーンリー警部

<パリ>

ル・ゴーティエ
デュマルシェ

ラウール・ボワラック ポンプ会社社長
アネット・ボワラック 妻
ピエール・ボンショーズ 従弟

ショーヴェ パリ警視庁部長
ルファルジュ刑事


第1部 ロンドン

●奇妙な積送品
I&C汽船の主任ウィルコックスは社長エイヴリーから命令されて
トム・ブロートンに港で樽を確認するよう指示する

他の樽と違う頑丈なつくりの樽を見つけて
割れ目からおがくずが出ていることが気になり
ハークネスと一緒にちょっと開けて見ると
1ポンド金貨がたくさん出てくる

さらにこじ開けると、女性の手首が出て来て驚く

荷は「彫像」とある
パリのデュピエール商店からレオン・フェリックス宛

フェリックスと名乗る男が樽を引き取りに来て
事件性があるため、さり気なく引き留めて
ブロートンが社長に電話する間
ハークネスに樽を見張るよう言いつける

社長は警察に預けようとすると、フェリックスが社に来て
待てないからとメモを書くと便せん・封筒をもらったフェリックスが
職員に渡したのは空の封筒だけ

バーンリー警部が事件を担当
船長に聞くと途中で樽の中身をすりかえることは不可能

ハークネスが出頭
社長が「問題ないが住所まで同行するように」と書いた偽のメモを見せられて信用し
馬車に乗ったが、途中でパブに寄り、酒を飲んでいる間に
馬車、樽、フェリックスとウォッティという部下は消えていたと話す

「ジョン・ウォーカー」
普段から探偵に憧れて、人間観察をしている警官ジョン・ウォーカーは
馬車を見て、緊急手配のものと気づいて後を追う
馬車はペンキで塗られて社名を消してある

屋敷に着いて、小屋の屋根にのぼって様子を見ていると
ウォッティは最初に言われた額じゃ気に入らないと言い
余分にもらうが、樽の中身が怪しいと睨んで、影に隠れる

友人マーティンがブリッジに誘い、フェリックスが家を出たので
ウォーカーは警視庁に連絡

バーンリー、ブロートンらとともに屋敷に行きフェリックスから話を聞く
中に金貨が入っていることを言うと、ワケを話すフェリックス

フェリックス:
フランス人で、数年ロンドンに住んでいる
仕事でパリによく行く

カフェ・トワゾーン・ドールで友人ル・ゴーティエが
宝くじを買わないかと誘い、しぶしぶ買ったら

その後、タイプで打った手紙が来て、5万フラン当たったから
約束通り折半だが、友人デュマルシェと
中身を偽った樽を疑いを持たれず引き取れるかという賭けをした

その後、ハガキが来て
“もう樽は送った 君がそれをあける場に立ち会えないことだけが心残りだ”とある

I&C社が疑っていることが分かり
社長が書いたと偽った手紙を書いて
ハークネスを騙して家に持ち帰った

話を終えて、樽を見に行くと消えていた

いつも徹底して捜査するバーンリーは屋敷周りをよく観察し
金てこのようなものでカギをこじ開け
変わった形の梯子で侵入した足跡を見つける

バーンリーは労働者に扮して、ウォッティ(ウォルター・パーマー)が勤める運送業に行くと
カギを開けたスパナ、馬車を見つけ
ウォッティに正直に話せば侵入罪は目をつぶるとうながす

ウォッティは樽が怪しいと睨み、盗めばフェリックスを恐喝できると思った
あまりに重いため、馬車に入れっぱなしにして
親方から別の仕事を頼まれて出かけた間に消えた

運ばれた先に行くと、ようやく樽が見つかる
全員で開けると、中からイブニングドレスを着た女性の死体が出てきて
「アネットだ!」と叫んでフェリックスは失神して病院に運ばれる

死体には「君が貸した50ポンドを同封の上返却する」とメモが留めてある
これもゴーティエのタイプと同じ部分が磨滅していた


第2部 パリ
解剖結果で、女性は既婚者 男に絞殺されたと分かる
バーンリーはパリに行き、以前一緒に事件を解決したルファルジュをまた指名する

行方不明者リストを見ると、この5週間でパリで女性6人が行方不明(多くないか?驚
その誰にも該当しない

「ル・ゴーティエの証言」
フェリックスは正直な男 宝くじを買ったが当選発表はまだ
タイプで打った手紙は自分じゃない、お金を借りたこともない

デュマルシェに聞いてもゴーティエと賭けなどしていないと全面否定
カフェにはその他大勢がいて、思い出せる友人に尋ねてもなにも出てこない

「デュピエール商店」
美術品の輸送も行っていて、フェリックス宛てに3つの女性の彫像を送った
その際、特製の樽に入れた
輸送途中で中身を入れ替えるのは不可能

手がかりが途絶えたため、懸賞金を出すと広告を打つと
アネット・ボワラックにドレスを売った店が分かる(スゴイな!
夫はラウール・ボワラック

ラウールを呼ぶと写真を妻だと確認
2週間前の土曜日、ディナーパーティーに呼ばれた夜に妻が消えた
事故があり、ラウールは中座した
帰りはバートンというアメリカ人の知人に会い遅くに帰宅

執事のフランソワは熱があって寝ていたが
少し前、玄関ドアの音がしたと言う
フェリックスの所に行くから忘れてくれと置手紙があった

メイドのシュザンヌに聞くと、帽子などがなくなっていた
フェリックスも同じパーティーにいた 夫婦とは友人関係

ラウールの屋敷を調べると、博物館のような彫像のコレクションがある

ルファルジュはカーペットに樽の跡とおがくずを見つける
ラウールに聞くと、デュピエール商店で買ったが
樽から開けたのは月曜日、樽は店に返却した


第二の樽
店から姉妹品が買われた
受取人はジャック・ド・ベルヴィルという黒いヒゲの男

同じ樽がパリとロンドン間を行き来したのでは?と推理するバーンリー
黒いヒゲを生やしているのはフェリックスだけ(付けヒゲでは?

絞殺は凶器がないため嫉妬にかられた無計画な殺人
犯行はパリでなく、ロンドンでは?
となると疑わしいのはボワラック

メイドのシュザンヌは帽子の留めピン、ハンドバッグが残っているのはおかしいと証言

ルファルジュはボワラックの足取りを調べる
ボワラックはベルギーの弟夫婦を訪ねたが
旅行でいなかったため、ホテルに一泊して帰宅
(ショックだった割にアリバイを全部覚えてるのは不自然だ

バーンリーはフェリックスの屋敷をもう一度くまなく調べると
イスの後ろからアネットのブローチ
スーツから愛人と思われるエミーの手紙が見つかり
とうとう逮捕状が出される

(こんなに物的証拠が多いのもフシギ


第3部 ロンドン、パリ

「クリフォード」
フェリックスの親友マーティンは記事を読んでショックを受け
友人のクリフォード弁護士に助けを求める

高額な費用を出してもいいという言うマーティン
自分は無実と誓うというフェリックスを信じて話を聞くと
フェリックスとアネットが昔愛し合っていた事実を知る

画学校仲間のピエール・ボンショーズは
いとこのアネットを紹介して2人は愛し合い
フェリックスはプロポーズしたが
家柄を気にした父に反対され、傷心の末、ロンドンに来た
後、ボワラックと結婚

ボンショーズは賭け事で多額の借金をしていた
フェリックスはボンショーズに命を救われたことがあり金を貸した

彫刻の個展で知り合ったボワラックの妻がアネットと知って2人は驚いたが
初対面を偽った

いつもは家で絵を描き、派出婦ブリジット・マーフィが朝食を作る
事件前後のアリバイがまったく証明できないことに失望するクリフォード

パーティーの夜、アネットを最後に見たのはフェリックス
11時に別れて、ボワラックが帰宅した午前1時には消えていた


「勅撰弁護士ヘップンストール」
クリフォードは勅撰弁護士ヘップンストールと相談
ボワラックがアネットを追ってロンドンで殺害して樽に詰めたと推定して
ボワラックのアリバイをもう一度調べ直すため私立探偵を雇う


「ジョルジュ・ラ・トゥーシュ私立探偵」
ジョルジュはロンドン一の評判で、奇怪な事件が大好き
ルファルジュが調べたことをなぞるが新たな事実は出てこないため
ニセの手紙を打った人物を真犯人としてタイプライターを見つけることにする

美女のタイプライターが新品と気づいて調べると
殺人のあった日に雇われ、前のエロイーズ・ランベールは
ボワラックに難癖をつけられてクビにされた

タイプライターの中古屋でとうとう事件に使われた器械を見つけて買う
売ったのはボワラックのポンプ会社(全部記録に残ってるってすごいな

次は馬車屋に広告を出して、樽を運んだ御者を探す


ことわざ「誰の得にもならない風は吹かない」


黒ひげの男の手には火傷跡があったが
フェリックスにはなくボワラックにある

電話交換局に問い合わせると、ボワラックがカレーから電話したことが分かる
これをルファルジュが調べなかったのは意外

御者ジャン・デュボワを見つけ
黒いヒゲの男が樽のラベルを細工したのを見たと証言する
樽はボワラックの自宅から運ばれていた

フランソワから新たな事実を思い出したから屋敷に来て欲しいと手紙が届く
ボワラックの罠かもしれないから部下を連れて行くと
ボワラックが出迎えて、広告を見て、探偵に追われているのを知り
自分も探偵を雇い、ラ・トゥーシュらの動きを探っていたと話す



「ボワラックの告白」

ボワラック:
私は家内を殺しました
家内とフェリックスが恋仲であり、父親が結婚を認めなかったことを知った
私たちの結婚は最初から失敗だった

その後の2人の仲は友人同士だったことを認め
ボワラックは慰めの愛人を持ったが別れた後に病死した

アメリカの友人の話はウソ
パーティーの後、帰宅すると2人が親し気に話しているのを見て誤解し
悪魔が憑りついて妻を絞殺して樽に入れ
フェリックスに送ることで復讐しようとした

妻がフェリックスを追ったと思わせる手紙を書き
帽子などをスーツケースに詰めた

玄関ドアを閉める音をフランソワに聞かせて
フェリックスの名で2つ目の樽を注文し、そちらを店に返却した

ロンドンからの手紙の切手を貼って出したり
付け髭で変装してフェリックスを装い
フェリックスの屋敷に侵入して吸い取り紙に細工したり
イスの影に妻のブローチを置いたり、エミーの手紙をスーツに入れたり
ベルヴィルの名で樽を受け取った

警察がフェリックスを疑うように賭けの話をでっち上げた
カフェにボワラックもいた

突然明かりが消えて、部屋を出てカギを閉めて逃げるボワラック
2人を閉じ込めて火を放つ
ソファをドアに叩きつけて出た所で気を失う2人


●終局
もう1人の部下が見張っていたため、2人が出てこないから警察に連絡
ボワラックは余裕でクラブにいたが、逮捕されると分かってピストルで自死

その後、ヘップンストールがフェリックスに絵を依頼して
娘と出会い結婚した(!




解説

英米ミステリー黄金時代
クロフツが登場した1920年は、アガサが『スタイルズ荘の怪事件』でデビューした年

フローマン・ウィルス・クロフツ
1879年 アイルランドのダブリン生
大病による長期療養で小説を書き始めた
初めて出版された長編作が本書

初めて日本に紹介されたのも本作
持ち込んだのは井上良夫


井上良夫
明治41年生
戦前のミステリー界に海外作品を紹介・評論・翻訳した
クロフツにかなり惚れこんでいた

戦争と敗戦による混乱が翻訳ミステリの空白期間を生み出した

クロフツの長編33のうち31作が翻訳された


●クロフツの日本人作家に与えた影響
蒼井雄『船富家の惨劇』『瀬戸内海の惨劇』

アリバイ物の名手、鮎川哲也
時刻表を駆使した鉄道ミステリ
『黒いトランク』

“トラベル・ミステリ”源泉の1つ

●『樽』について
「アリバイ物」というサブジャンルを産んだ
大きな特徴はアリバイトリック

●クロフツの探偵
フレンチ警部が有名
コツコツと足を使って調査する

ホームズら“超人探偵”に対して“凡人探偵”と呼ばれたが
凡人ではないことが分かる

●江戸川乱歩とクロフツ
乱歩はクロフツを「リアリズム推理小説の最高峰」と賞賛
犯人側のアンリアルな部分に惹かれたのではないか

『クロイドン発十二時三十分』



鑑賞 ドーバー海峡への憧れ 夏樹静子
「世界推理小説全集」は装幀もステキ
海外旅行がまだ一般的でない60年代に
花のパリ、霧のロンドン、二都を結ぶドーバー海峡に憧れた

日本の青函連絡船も昔、貨車と1、2等寝台車は
そのまま海を渡った

洞爺丸事件
アメリカ進駐軍の幹部が乗った「白帯」と呼ばれた専用車両だけが
車両甲板に乗り入れて、船とともに海底に沈んだ

1994年 イギリスのアシュフォードとフランスのカレーの間に海底トンネル開通

現在「ユーロスター」はわずか20分でドーバー海峡をくぐり
ロンドン・パリ間を3時間で結ぶ

足は便利になったが、二都をめぐる現代の探偵たちの暗躍は
はるかに激務に違いない(w




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