メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

ルルージュ事件 エミール・ガボリオ/著 国書刊行会

2023-06-06 16:20:12 | 
2008年 初版 太田浩一/訳

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


【注意】
トリックもオチもネタバレがあります
極上のミステリーなので、ぜひ読んで犯人当てをしてみてください










“本書は世界初の長編ミステリであり、ガボリオとコリンズはその創始者”



てっきりルコック刑事が主に活躍するのかと思っていたら
推理するのはタバレ老人

この素人探偵もクセがある
召使いや近所から変わり者、呆け者として写っているが
前半でいきなり確信に迫る直感型

父との不幸な関係がノエルとやけにかぶるのは偶然か?

しかも嬰児すり替えまで関わっている

被害者として話しているノエルより
急にショックな話をされても
実の母を思いやる心を見せたアルベールのほうがはるかに人格者と分かる

アルベールを犯人と思わせて、実はノエルの仕業では、というのが私の推理

彼がボロを出すとしたら一番の弱みである愛人がきっかけになりそう
愛人に始まり、愛人で終わる運命だとしたらなんと皮肉な

婚約者の名誉のために、自分が有罪になるのも厭わないという展開は以前読んだ
同じ本を借りてしまったかと疑ったほど

法律も無視できるほどの権力を持っていた貴族が
革命や自由主義の台頭で権力、金、影響力も失いかけていた
時代の移り変わりも興味深い



【内容抜粋メモ】

登場人物

クローディーヌ・ルルージュ 未亡人
ダビュロン 予審判事
ジェヴロール パリ警視庁の治安局長
ルコック 刑事
タバレ(チロクレール) 素人探偵

ノエル・ジェルディ 青年弁護士
ヴァレリー・ジェルディ
コマラン伯爵
アルベール・コマラン子爵
クレール・ダルランジュ
ダルランジュ侯爵夫人
ジュリエット ノエルの愛人
クレルジョ 高利貸し


■第1章
1862年 マルディ・グラ(謝肉の火曜日)の翌々日
ラ・ジョンシェール村の女5人が警察署を訪れ
ルルージュ夫人の様子を見てほしいと懇願

仕方なく家に入ると、部屋は荒れ、背中を刺されたルルージュを発見

よそ者でよく知られていないが、2年前引っ越して来た
船の事故で夫を亡くしたほかはプライベートを明かさない

お金に困っている様子はなく
「その気になればそれ以上手に入らないこともない」と漏らしていた

鉄道員風の若い男、褐色の髪の大男の恋人がいた

予審判事のダビュロン、警視庁の治安局長ジェヴロール
ルコック刑事が捜査にあたる

金目当てと思われたが、お金は残され、書類が消えている

ルコック刑事はチロクレール(解明するという意味)に協力させることを提案
かつて公営質屋で働いていたことがある
本名はタバレという素人探偵

褐色の髪の大男は粗暴なふるまいが知られていた
ルルージュにはジャックという船乗りの息子がいて随分会っていない

少年が大きなイヤリングをした小柄の老人に頼まれて、ジェルヴェ船長に
ずらかる準備をしろと伝言を頼まれたと証言







■第2章





タバレは60歳前後 小柄で痩せている

タバレ:
これは物取りではない
未亡人と犯人は顔みしり
犯人は若い男 背が高く、上品な身なり
鋭利な凶器で背中を刺してから首を絞めて殺した
目当ての書類を見つけて燃やしてしまった

石膏で足跡をかためて、シルクハット、葉巻、ホルダーなどの
状況証拠を次々あげて、近くの川から見つけ出す

タバレはダビュロンに警察に協力しはじめたきっかけを話す

45歳まであらゆる楽しみを犠牲にして暮らしていた
質店に勤めていて、25歳の時、父が無一文になったと来た
一緒に暮らし、20年間養ったがついに満足させることは出来なかった

父が亡くなった日、2万フランの年金が出てきた
息子の将来を思い、倹約を教えるためだった
家も父の名義だと知らずに家賃を払っていた

その後、仕事を辞め、警察に関連した本を読み漁った
警察は神にも似た比類なき機構だ
こんな素晴らしい仕事があったとは!


■第3章





素人探偵をしていることは周りにも召使にも言ってないため
おぞましい放蕩者と思われるままにしてある

唯一付き合いのある借家人はジェルディ夫人
15年前に夫を亡くし、愛息で弁護士のノエルと2人暮らし

ジェルディ夫人との結婚を考えたこともあるが
断られるのが怖くて言ってない

ノエルを包括受遺者に指定している

ジェルディ夫人を訪ねると先月から体調を崩していて
夕食後、ルルージュ事件の記事を読んで大声をあげて倒れてからは危篤状態

ノエルはジェルディ夫人が実母でないことを知り
ルルージュがかつて乳母であったと話す


■第4章
実の父は死んだのではなく、コマラン伯爵
ジェルディ夫人は彼の愛人だった

知ったのは3週間前、ルルージュから聞いた
コマラン伯爵からジェルディ夫人への手紙を読んだ

家同士で決めた結婚した妻と、ヴァレリーとの間の子どもが同時期に生まれると知り
嫡子ノエルと私生児アルベールをすり替える計画を立てた

協力したのは、召使のジェルマンとルルージュ未亡人

だが、その後、ヴァレリーには他に愛人がいると知って縁を切った
アルベールが実子かどうかも疑う

タバレはノエルが持つ手紙から1通抜き取る

ノエルはコマラン伯爵に会いに行くと留守で、アルベールにすべて話すと
ジェルマンは亡くなり、父に話すと約束する

感動したタバレはノエルに1万2千フランを渡す


■第5章





ノエルは愛人ジュリエットに会いに行く
ノエルとジェルディ夫人の資産も使い果たして豪奢な生活をしているが
8000フランの取り立てをされて早く支払ってくれと愚痴を並べる

ノエルはすでに40万フランも使いこんで一文無しなのに
まだ金持ちだと信じている

自分を恥ずべき存在とみなし、友人にも紹介してくれないとこぼす
ノエルが別の女性と結婚を考えているのではないかと疑い調べようとする

ジェルディ夫人が危篤で、友人の医師エルヴェを呼ぶ
彼もまた借金にあえいでいる





(この時代のお金の使い方って、なんだか計画性がなくて、
 とんでもない多額の借金だな/汗

エルヴェ:病人は大きな悲しみで脳炎をおこしている

わけを聞かれて、実母ではなかった事情を話す



■第6章
「偶然に勝る警察官はいないな」
タバレはノエルから事情を聴いて
すっかりアルベールを犯人だと信じてダビュロンに話す
(はたして偶然だろうか?

アルベールの婚約者がクレール・ダルランジュと聞いて心底驚くダビュロン
こないだ失恋したばかりの最愛の人だった





ダビュロンは毎日のようにダルランジュ侯爵夫人を訪ねていた
貴族以外の人間は存在しないと思っている生きた亡霊

目的は孫娘のクレール 17歳
侯爵といっても内情は火の車なため、クレールの結婚に頭を悩ませているという夫人に
自分なら金も持っているし、名も汚さないと申し出る

身分の差に笑いつつ、本人が承諾したら反対はしないと言う言葉に有頂天になり
クレールに告白すると、兄や父のように慕っていたと言われる

クレールにはアルベールという婚約者がいるが
家が貧しいため、相手の父が反対している


■第7章
クレールに友人関係でいようと言われて茫然自失となり
アルベールへの憎悪に変わり、ピストルで撃って、自分も死のうと思うが
目前にして臆病になり止める

犯罪とは狂気のひとつの形態を言うのではあるまい
自分も罪人と同じ運命になっていたことを噛み締める

それからは仕事に専念したが
突然、アルベールの運命が自分の手にあると気づいて悩む

陪審員の賛同を得るには確固たる証拠が必要だ
死刑にしり込みする陪審員も多い

誤認逮捕は警察の信用を落とすため、逮捕は時期尚早と伝えるが
朝、不意をついて逮捕すれば自白すると押すタバレの勢いに負けて逮捕に踏み切る

その代わり、タバレはノエルや周りに知られないために
協力していることは伏せてほしいと頼む


■第8章
アルベールは父コマラン伯爵にノエルの話をする











■第9章
縁が切れた時、手紙を処分すればよかったと後悔するコマラン伯爵
だが、より核心にふれる手紙はまだバレていないと気づく

アルベール:私は嫡子のためにいさぎよく身を引きます

コマラン伯爵:
お前は少なくとも私が死ぬまで子爵なのだ
20年前からずっと自分を責め続けてきた
コマランの名が汚されることだけは避けねばならぬ

アルベール:
ノエルは必ず黒白明らかにするのを望むはずです
今後は父のお金に頼るしかありません
クレールに話したら、何が起きても私の妻になると約束してくれました

アルベールはこれまで子爵の立場を有利とか
社交場が楽しいと思ったことはなかった

タバレらは早朝に訪ね、アルベールをルルージュ殺しの容疑者として逮捕する


■第10章





重罪裁判所の独房に入れられたアルベール

ダビュロンは1人ずつ証人を呼んで事件について詳しく聞く
書記コンスタンが漏らさず記していく

まずはノエル
ジェルディ夫人は危篤で、回復しても精神に異常が残ると言われた

ダビュロンからアルベールが容疑者と聞くと驚く(わざとらしいな



■第11章
愛息が逮捕されて、卒中を起こしたコマラン伯爵は
すっかり心情をさらして子どものすり替えを話す

ダビュロンが状況証拠しかないと分かるといくらか体面を取り戻し
不利な証言をするつもりはないと突き放す

父の手紙を持ってきたノエルと会い
よそよそしい態度のまま馬車に乗るよう指示する

その後、召使に話を聞くと、あることないことを噂する
貴族は常に30人もの目に見られていて、聞き耳をたてられている

事件のあった夜、アルベールは出かけた
逮捕時に「これでおしまいだ」と漏らしたことも重要な証言

ダビュロン:そうか、裁かれるのは自分のほうかもしれないな



■第12章
(ようやく出てきたアルベールの絵がもっさりした姿で笑ったw





独房にも覗き窓があり、監視されている
ダビュロンに問い詰められても、あくまで無実を通すアルベール

だが、肝心の火曜の夜、どこにいたかは明かさない
タバレの「犯人は完璧なアリバイを作っているはず」という説にそぐわないため驚くダビュロン

あらゆる状況証拠を見せられて、偶然の一致に驚くアルベール
ダビュロンは違和感を覚える

そのやりとりを供述書で読んだタバレは「彼は無実です」と持論をひるがえす

タバレ:
犯人には必ずアリバイがある アルベールにはない だから白なのです
いつでも反対の証拠を出すことができる
捜査の網からもれている人間 若い男が犯人でしょう
あんな目に遭わせたのは自分だ 自分の手で救い出してやる



■第13章
召使はアルベールが老婆のほかに少女もばらばらに切り裂いたなどと
根も葉もない噂話までしている/驚

コマラン伯爵はノエルに対して、これからは名前に恥じない生活をするよう指示するとともに
アルベールは変わらず子爵のままと伝える

ノエルは噂が消えるまで待って、その間に弁護士の仕事を片付けること
アルベールの弁護をすると提案

ジェルディ夫人は蛭に血を吸わせる治療を受けている

(怖すぎる・・・
 医学を何年も勉強した医師がみな芥子軟膏、吸い玉を使ってるんだから
 現代医療も根底から疑ったほうがいいな

エルヴェ医師の知り合いの修道女は司祭を呼ぶ





高利貸しクレルジョをノエルに教えたのはジュリエット
2万2000フランをどうしても今日、返して欲しいと迫る






クレルジョ:
あなたは女の扱いをご存じない
あの女はあなたが破産したら、あなたを置き去りにして、新しい男を探しますよ

ノエルはコマラン伯爵の金もあてにして、2万4000フランの新しい手形を書いてもらう
クレルジョはノエルが金持ちの女と結婚するのだと思い込む


■第14章
“犯罪が誰に利益をもたらすかをさぐれ”という文句に立ち返るタバレ


■第15章
クレールがアルベールの無実を訴えにダビュロンを訪ねてきてうろたえる

友人を救うために事件を担当してくれたと信じていたが
有罪の証拠があると言うと、2人で1つの運命共同体であると伝える

火曜の晩、アルベールは祖母の目に隠れて、クレールに会いに来た
アルベールは彼女の名誉を守るために隠していた

ダビュロンは早速、部下に足跡などを調べさせる



■第16章
クレールは次にコマラン伯爵を訪ねて、アルベールの無実を訴える
ノエルがアルベールの弁護をすると聞いて、なぜか不安を覚える
(女の勘は捜査より早いね

2人はジェルディ夫人に会いに行くと、軍人の兄が来ている
すっかりやつれた夫人は急にギー(伯爵)との思い出を話し始める

苦学生を装っていたが、伯爵と知って、金目当てと思われないか悩んだ日々
本妻も伯爵を愛していたために短命に終わったこと

2人を引き裂いた心ない噂は兄のことだった
子どもの入れ替えに反対し、息子を自分の手で育てたいと訴えたこと

ジェルディ夫人:
やがて天罰がくだるでしょう
子どもたちからしっぺ返しを食う日がやって来る

そこにノエルが入ってきて「人殺し!」と叫んで絶命する
みなはアルベールのことを言ったと思う

兄はコマラン伯爵を許す



■第17章
クレールの証言をとったと話すと、会ったことを認めるアルベール

ついにイヤリングの男が証言に来る
マリ・ピエール・ルルージュ ルルージュ未亡人の夫は生きていた!

父から散々反対されたが、結婚し、その後、悪妻ぶりに気づいても遅かったと後悔する
コマラン伯爵の召使から乳飲み子を預かってくれと言われて、金に目がくらんで承諾

その後、ジェルディ夫人から子どものすり替えを止めたら
今すぐ1万フラン渡すと言われて、両者から金を取ることを思いつく

ピエールは阻止しようとして、一方の子どもの腕に切り傷をつけて
みんなに一筆書かせた

妻は愛人を作り、湯水のように金を使い、足りなくなると
コマラン伯爵、ジェルディ夫人に無心した

ピエールは子どもを連れて家を出て、夫は死んだことにしてくれと頼んだ
息子が大人になり、結婚するのに署名が必要で訪ねたところを目撃された



■第18章





部下を使ってしらみつぶしに犯人の目撃情報を集めたタバレ
とうとうノエルが犯人だと気づいて激しく後悔する

ノエルの家からクレルジョが出て来て
ジュリエットや一文無しのことを聞いてさらに驚く
ノエルのことを聞くために家に来たジュリエットの馬車を追う
(60歳の男が走って追いかけることが出来るってのんびりした時代だなあ

ノエルの親友と言って話を聞き出す
火曜の晩、一緒に芝居を観に行ったが途中で抜け出した

傘、財布、葉巻ホルダーをなくしたことも分かる
それらは列車の車室から出てくる










■第19章
真実を聞かされたコマラン伯爵はノエルを罵倒する
罪を洗いざらい書いて署名し、ピストルで自死することを迫る

ノエル:
その種をまいたのはあなただ
逃亡に必要な金を用立てていただきたい

8万フランをもぎとり、コマラン伯爵を倒して家を出る
ずっと恐怖に怯えた日々が終わると思うと平穏すら感じるノエル
そして、金を失う原因を作ったジュリエットと一緒に逃げようと思いつく

コマラン伯爵の手紙を偶然見て、幸運が来たと思ったが
ジェルディ夫人からすり替えは行われなかったことを聞いた
腕に傷があるノエルは実の子

ジェルディ夫人を説得しても、コマラン伯爵から金をとることには反対
アルベールに罪をかぶせたり、子爵になろうという気はなかった

ジェルディ夫人は息子が殺人犯と分かり体調を崩した
タバレが警察関係者であることも知っていた

ジュリエット:
私のために殺人を犯した!
私を愛しているからね!

ジュリエットは逆に愛を感じて、一緒に逃げることに同意
だが、もう警察に家を取り囲まれる

自死しようとするノエルを止めようとして腹部を撃ち、さらに苦しむことに

ジュリエット:
牢に入れられても、逃げる方法はある
番人を買収すればいい
2人でアメリカあたりで幸せに暮らすことができるはず

ノエルは再び心臓を撃ち抜く
それでも、罪を告白し、署名までしてから死ぬ

やっぱり女を見る目がなかったんだな・・・










■第20章





アルベールとクレールは結婚
アルベールはダルランジュ侯爵夫人の借金を支払い
コマラン伯爵は全財産を息子に譲った

ダビュロンは辞職し、田舎に引っ込む
ジュリエットはノエルからもらった8万フランで新しい生活を始める

タバレは死刑廃止の請願書に署名し
無実の貧しい被告人を救済する団体をつくろうとしている



訳者あとがき
エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』が探偵小説のパイオニア
本書は世界初の長編ミステリであり、ガボリオとコリンズはその創始者

エティエンヌ・エミール・ガボリオ
1832年フランス南西部の町ソージョン生まれ
公証人になることを期待されるも、軍隊に入団
退役後、新聞連載小説として発表した本書で脚光を浴びる
1873年、41歳の若さで急逝

1830年代に始まったフイユトン「新聞連載小説」
薄利多売の収入源のため、広告を導入したジラルダン
読者層を拡大するため、大衆を引き付けるために用いられた
他紙もこぞって小説の掲載を始めた

怪盗ロカンボールのシリーズは大当たり
テライユが他紙に引き抜かれ、後釜を探していた

過重な労働のせいで、ガボリオは急逝


ロマン・ポリシエ
英語のdetective novel「警察小説」に相当するフランス語

ルルージュ事件はわずか5日間の出来事(!

ルコック刑事はかつて前科者で、その後法を守る立場に転じた

19世紀、退職した警察関係者の多くが回想録を出版
みな夢中で読んだ

黒岩涙香は、フランス語が分からず英訳書から重訳
翻訳というより大胆な翻案 『人耶鬼耶(ひとかおにか)』

ルルージュ未亡人はお傳、ダビュロンは田風呂、チロクレールは散倉(w
と日本化されている
本格的に紹介された西欧ミステリとしておそらく日本初

その他も抄訳がつづき、完訳は今回が初(!これは貴重な掘り出し物だったv

これまで不当に無視されてきた観のあるガボリオ
再評価が進行しているなら嬉しい


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