私は幸福について考えるたびに、ミレーのこの絵を思い出すことにしてる。
一日中、大地と戦う、その激しい労働と汗の生活はつらいにきまっている。夕暮れの祈りはそれから開放された一瞬である。家へ帰ると、この農夫の妻には食事や育児の仕事が待っている。夜遅くまで働かなければならない。わずかこの一瞬にだけ心の安らいがあるが、幸福とはそういうものではなかろうか。
実にささやかなものだ。一見甘そうに見える絵だが、ミレーのつらさがこの一瞬ににじみ出ているようだ。わたしは一例としてあげるのだが、このささやかなものを愛する人が、実はほんとに幸福をつかんでいるのではなかろうか。(亀井勝一郎)