冬夕焼皆が見ている信じたし 冬耕すかつて地主の子と呼ばれ 冬耕やガーデニングも農なりき 何もかも捨てて冬田の暗がりに 冬景色あの世はたぶんこんなふう 泥んこで生まれたばかり蓮根掘 蓮根掘る巨大なブーツ蠢めけり 蓮根掘見たことのなき景色見ゆ 人間の臭いと違ふ蓮根掘 蓮根堀泥にまみれた人ばかり
虎落笛誰かの腕ちぎれ飛ぶ 人間に生まれて遠し虎落笛 地獄まで聞こえて来そうな虎落笛 虎落笛この世に生まれてわかること ストリート・ミュージシャンにも聞えているはず虎落笛 ひゅーひゅーと亡母の呼ぶ声虎落笛 人参をクレソンと呼び丸かじり 山茶花や母の系図に我れもをり 早過ぎる焚火に誰か黙しけり 人生は一度と知らず冬の虹
人間の死は一瞬のこと冬満月 冬三日月一日二日は忘じけり 兄妹なれど音立つるなき神渡し 凍星の凍つるにまかせ空仰ぐ 寒凪や愛とはアガペの愛のこと 北風を拒む姿勢で父待てり 冬凪や恋愛不能症候群 ウチナーグチここでは寂し報恩講 寒オリオン人間探求話尽く 関西弁で好きとは嫌い空っ風 ながいながい坂道のあり虎落笛 絵に描いたやうなやさぐれ雪女郎 レノン忌の時雨は強く一度きり
冬晴の爆音隣家に子のひとり デスマスク冬日にかざす夢なかば 冬晴やマツコ・デラックスといふ白さ 寒晴や生涯小男を通す 冬日満つ二十一世紀の虚子はなく 死者のごとく追いつ追われつ冬日中 人類は滅ばず凍空の続きをり 凍雲や十五で上京恋あまた(Tさん) 冬の雲流れて故郷捨てし過去 終電のどこかで続く冬の月 人生に指針はなくて寒暮中
冬の日の師は八十五歳うつつなり 冬の日や夢あれば夢ほとばしる 冬暁の何の伽藍ぞ馬奔る 寒暁のこの道たどれば滅ぶ家 冬晴の上野に蒼き兵馬俑(国立博物館で開催中) 短日や本所松阪吉良邸址 短日の渋谷に佇てばもののけす 金龍香一本燻らす霜夜かな 暴走機関車寒夜のビデオ店揺らす ファミレスの二人影なす寒暮かな 寒夜行「おおかみこども」の続編あり 夜半の冬白夜に続く闇夜あり