まう何も言はず行く春消してゆく 春尽くとわが父アッラーの手招きす 大本営跡地とありぬ春の果て 逝く春のコサック騎兵光ます ゆく春の鍔広帽の叫びだす ゆく春のごつごつとあり聖母の地 死後の生あるはずもなく春逝けり 行く春の芭蕉は誰も見てをらず 行く春の上野に故郷喪失譚(「ああ上野駅」記念碑) ゆく春の板橋一丁目処刑場 ゆく春や徴用工の無縁墓 ゆく春の蝶空を得て嬉々とせり 行く春の虚空真っ青なるもて遥か ゆく春や俳句は無音を押し通す ゆく春や大波のあと人死ぬる ゆく春の愛犬に問ふわがガン死 ゆく春の路地に襤褸の声上がる 東京下町中年ニート春逝くか 春逝くやノートルダムの出火とあり