春遅々と六十ともなれば声激し ビタミン剤ぶちまけられて春遅々と コンビニの奥のいさかい春遅々と 巨樹となり大木となり春遅々と 春遅々とかつて傷痍軍人二十万 春遅々と肝臓癌なら助からぬ 春遅々と「逆(さか)世界史」に没頭す 春遅々と醤油むらさき味良けれ 春遅々と辛口コメント封印す 春遅々と元ちとせは二女の母
春鴨の無念成層圏を浮遊せり 放水路までの暗澹鴨去りぬ 火の鳥を見た春鴨はもう帰らず 残る鴨ディープ・インパクトは生きている ポールシフトはこれで3度目鴨残る 引き鴨の引き際を見て我れも引く 春鴨は不在の貼り紙誰も見ず 引き鴨の引くとき大放水の続きをり 春の鴨天上に上がる水しぶき 鴨帰る道すじパネルに太く画く 天上に人生の帰趨通し鴨
進撃の巨人雛段に鎮座せり 吊し雛空遠くなりもう見えず バーベルは誰も背負わず雛祭る 雛段に未熟といふこと犇めけり 紙雛吹かれるままに倒れけり この恋は未完雛段の崩れ落つ 放火魔はこの中にゐる雛納め グランドピアノはまだ生きてゐる雛祭 「気狂いピエロ」の空へつづく海雛まつり ホームレス死す雛祭を中断す
春愁は至極大事を家訓とす 長閑さや世界大戦の報聞かず ツイッターの恋暖かさなんてあるものか ゴジラ映画二十三本春休み 春鶏の二度鳴いたとき恋失なふ うす紅梅「東京やさぐれ女」とあり 特攻機は啓蟄の日も飛んでいた 浅春や白鳳の引退早すぎる 朧夜の空砲はただ一度きり シュタイナーの人智学第一章御神渡り
観梅のこと死活の旅のこと 梅探るまだ人類は未熟なり 盆梅や生前葬などもってのほか 空につづく海の明るさ梅の花 梅一輪無縁社会を生きてみよ この途方もない切なさ梅の花 梅真白人間にあってはならぬこと それらの武蔵とお通探梅行 母とゐて母はるかなり梅の花 語学留学生の一団梅月夜 散るさまを見たし梅林の奥の奥 釣銭の百円多し梅花展