3.11の死の確かさを凝視せり 無謬なるもの大切に空うごく 綺羅星のぶちまけられて一本道 世紀の恋の一部始終をほふりけり 未熟ということ言葉にならず雲ながれ たましいの中心空洞に白髪婆 どうしても生きていたいと猫を追う フライパンのダンス誰もが生きている 火も空もただそこにある黙示劇 イスラムデー人間に杭打ち込まれ
マジックミラーで覗く未来に春はなし 人たりし一片の記憶春の闇 春疾風私の顔が砕け散る 春こんこんわが血は抜かれ塵となる そのことは誰にも言うな春告鳥 トンネルを抜ければ無風地帯がある 夢の続き渋谷109は円柱なり
啓蟄の犬と猫とがいさかへり 啓蟄の日の浅間山荘白さます 啓蟄の日の佳子(かこ)さまに驚嘆す 啓蟄やかつて解体作業試掘編 まだ人間でいたし啓蟄の日の終る くろぐろとまた白々と啓蟄日 啓蟄やまだ寒かろう暑かろう 啓蟄などなかった新宿歌舞伎町 啓蟄や醤油たっぷり貧しけれ 高田渡の「生活の柄」啓蟄日
啓蟄や北乃きいなら知っている 啓蟄のかたまってなほ影持たず 啓蟄の悪源太義平もの申す 啓蟄を虫けらと呼ぶ偽キリストたち 啓蟄の穴をたどればただの闇 啓蟄の鳩はいらぬと絶叫す 遠景の富士は合成啓蟄日 虫に問ふ啓蟄とは絶望か希望か 啓蟄の日に人類は何故をらぬ 眠ければ死ぬまでねむれ啓蟄期
俺はアルコール依存症水温む 道頓堀に飛び込む姿勢水温む 大鴨をかもさんと呼ぶ水温む 火の鳥を見たければ見よ水温む 犬と猫に河馬も加わり水温む 胸かゆく背中もかゆし水温む 額の蝶宇宙を翔べり水温む 想い出の渚は絵空ごと水温む 仮設の灯また一つ減り水温む 太宰忌は彼方にありて水温む