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保田與重郎の「小説全無智上人伝 雑譬喩経義疏私案を発意さるる話。」というむにゃむにゃな話のあとには、薄井敏夫の「土手道づたひ」という彼のこれまた音楽小説が載っている。
シューベルトを詠うお嬢さんをからかい、浄瑠璃が軍人芝居をやっていることをくさし、友人(安彦)が帰朝して新進ダンサーとして「火の鳥」を踊ったのを日本は甘いと言い、彼をけなした批評家をも批判する。その結果、今度の安彦の舞台に期待すると言って……
――[…]何でもスエルシエニエーヴィッチとか云ふ長い名前の新進作家のものだそうで、マンドリンの求婚舞踊と云ひます
――マンドリルの求婚舞踊?マンドリルの求婚舞踊?ずゐぶん変な名前ね、マンドリルつて一体何?スペインあたりの新しい芸術家の名前じゃない
――さう思ひますか。所が実はこのマンドリルと云ふのは世界で最もグロテスクな怪物なんです、猅々の一種ですがね。顔が一面紺青色で獅子の鬣のような頭髪を持ち力はゴリラほどある云ふ奴です
この仲良し談話みたいな話、ストラビンスキー以降を受け止めかねている当時の様子が知れて面白かった。がっ、マンドリルの顔は、最初のお嬢さんの「青と白のドレス」に対応してるみたいでもあり、結局、これは求婚みたいな話なのかもしれないが……
「親のかたき、覚えたか。」
と言いながら、はさみをふり上げて、猿の首をちょきんとはさみではさんでしまいました。
――楠山正雄「猿かに合戦」
昭和7年、全体主義の進行するなか、マンドリルのお話は勇気があった。上の猿のお話よりは……。