しばやんの日々 (旧BLOGariの記事とコメントを中心に)

50歳を過ぎたあたりからわが国の歴史や文化に興味を覚えるようになり、調べたことをブログに書くようになりました。

若狭湾の400年前の津波の記録と原子力発電所の安全性について

2011年06月02日 | 自然災害

5月27日の日経の朝刊に、今から400年以上前に若狭湾津波とみられる大波で多数の被害が出たとの記録があるという記事が目にとまった。

記事によると、
「…敦賀短期大学の外岡慎一郎教授(日本中世史)が4月上旬、敦賀市の依頼を受けて調べたところ、京都の神社の神主が戦国~江戸時代に書きつづった日記『兼見卿記(かねみきょうき)』に、1586年に『丹後、若狭、越前の海岸沿いで家々が波に押し流されて人が死亡した』といった内容の記述があった」
「…また当時来日していたポルトガル人宣教師ルイス・フロイスが記した『日本史』にも『山のような波が押し寄せて家や人が流された』といった記述が見つかった。」と書いてある。

早速この時の地震に関するルイス・フロイスの記録を探してみた。



該当部分は「完訳フロイス日本史3」(中公文庫)の第60章にあった。
少し長くなるが、重要な部分であるので紹介したい。

「本年1586年に、堺と都からその周辺一帯にかけて、きわめて異常で恐るべき地震が起こった。それはかって人々が見聞したことがなく、往時の史書にも読まれたことのないほどすさまじいものであった。というのは、日本の諸国でしばしば大地震が生じることはさして珍しいことではないが、本年の地震は桁はずれて大きく、人々に異常な恐怖と驚愕を与えた。それは11月1日のことで、…突如大地が振動し始め、しかも普通の揺れ方ではなく、ちょうど船が両側に揺れるように振動し、四日四晩休みなく継続した。
人々は肝をつぶし、呆然自失の態に陥り、下敷きとなって死ぬのを恐れ、何ぴとも家の中に入ろうとはしなかった。というのは、堺の市だけで三十以上の倉庫が倒壊し、十五名ないし二十名以上が死んだはずだからである。
その後四十日間、地震は中断した形で、日々過ぎたが、その間一日として震動を伴わぬ日とてはなく、身の毛のよだつような恐ろしい轟音が地底から発していた。」(中公文庫p196-197) 

とここまでは、フロイス自身が体験した地震のことを書いている。フロイスは主に堺に居住していたので津波については体験していない。この文章に続いて、フロイスらが目撃者などから聞いた近江や京都や若狭や美濃や伊勢などの情報が付記されている。

それぞれ興味深いのだがすべてを引用すると長くなるので、若狭の津波に関する記録だけを紹介したい。
「若狭の国には海に向かって、やはり長浜と称する別の大きい町があった。そこには多数の人々が出入りし、盛んに商売が行われていた。人々の大いなる恐怖と驚愕のうちにその地が数日間揺れ動いた後、海が荒れ立ち、高い山にも似た大波が、遠くから恐るべき唸りを発しながら猛烈な勢いで押し寄せてその町に襲いかかり、ほとんど痕跡を留めないまでに破壊してしまった。高潮が引き返す時には、大量の家屋と男女の人々を連れ去り、その地は塩水の泡だらけとなって、いっさいのものが海に呑みこまれてしまった。」(同書p.198) 

東京大学の「大日本史料総合データベース」にアクセスすると、同時期の様々の史料を記録された日付けを絞込んで読む事が出来る。この地震の記録は新聞で紹介された「兼見卿記」だけではなく多くの史料で確認できるので、もし興味のある方は次のURLで確認することができる。
http://wwwap.hi.u-tokyo.ac.jp/ships/shipscontroller
このデータベースで、フロイスがイエズス会のインド管区長ヴァリニャーノに宛てた書簡が「イエズス会日本書簡集」にでているが、ほぼ上に紹介した「フロイス日本史」と同様の文章だ。フロイスは地震の日付けを11月1日と書いているが訳注では(11月29日の誤記)と書かれ、若狭の記述部分の「長浜」は「(小浜」の誤記か)と訳注が付されている。

Wikipediaによると、この日の地震は「天正大地震」とよばれ、震源地は岐阜県北西部でマグニチュードは7.9~8.1と推定されている。現在の愛知県、岐阜県、富山県、滋賀県、京都府、奈良県に相当する地域に跨って甚大な被害を及ぼしたと伝えられ、この地震は複数の断層がほぼ同時に動いたものと推定されている。
具体的な被害として紹介されているのは、越中国木舟城が倒壊、飛騨国帰雲城が山崩れで埋没、美濃国の大垣城が全壊焼失、近江長浜城が全壊など城郭の損壊が中心である。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E6%AD%A3%E5%A4%A7%E5%9C%B0%E9%9C%87



フロイスの若狭国についての文章に戻るが、この現象は地震による「津波」であることは、誰でもわかる話だと思う。しかし、関西電力はこの記録が存在するのを知りながら「信憑性がない」と社内で判断し、地元民には「若狭湾は、津波による大きな被害の記録がない」と説明して、14基もの原子力発電所若狭湾に建設してしまった。
これでは関西電力は、近隣住民の安全よりも、原子力発電所を建てることにすべてを優先させたと言われても仕方がないだろう。また建設を許可した国にも、このような重要な史実を看過した責任はないのだろうか。



若狭湾に限らず、他の原発においても今後何も起こらないという保証は何もない。本来原子力のような、万が一の事態が発生した場足に国全体あるいは世界全体に多大な影響を及ぼすような物質を扱う場合には、過去の地震や津波などの記録を調査してそのレベルの災害にも耐えられる設計をしておくことが基本だと思うのだが、どこの原発も充分な検証がなされているのか。 過去の自然災害が耐えられる設計がなされていたとしても、もし「想定外」の地震や津波や火災があった場合においても、住民に被害を及ぼさないための二重三重の安全対策がなされているのだろうか。

今年度における政府全体の原子力予算は4330億円で、内約2300億円が研究開発などの原子力推進のために使われ、その内の核燃料サイクル関連の予算は520億円。一方で安全関連の予算は570億円なのだそうだが、この数字を見ても原子力推進にお金をかけ過ぎているように見える。

以前、他国と日本の原子力関連予算を調べて驚いたことがある。



原子炉の数が多い国は①アメリカ104基②フランス58基③日本54 基の順なのだが、原子力を考える会の「よくわかる原子力」というHPを見ると日本の原子力関連研究開発予算が他国比突出している。何故原子炉の多い国よりも日本の予算がべらぼうに多いのか。次のデータはやや古いが、日本の予算はアメリカの約8倍、フランスの約7倍もあるのだ。
http://www.nuketext.org/mondaiten_yosan.html

慶応大学の岸博幸氏は、今回の福島の原発事故については東電に責任があることは言うまでもないが、政府にも重大な責任があり、双方の責任を安易な電気料金の値上げや増税で処理するのではなく、東電は徹底的なリストラをし、政府も今まで蓄積してきた「原子力埋蔵金」を放出して返済原資に充てるべきであると説いている。
http://diamond.jp/articles/-/12124



その「原子力埋蔵金」は岸氏によると、「政府が原子力推進を当面の間棚上げにすれば、そして特にもんじゅや六ヶ所村再処理工場に代表される“核燃料サイクル”を断念すれば、数兆円単位の資金」があるのだそうだ。ほかにも「(財)原子力環境整備促進・資金管理センターには、電力会社が積み立ててきた2種類の積立金(再処理積立金、最終処分積立金)が合計約3兆5千億円」あり、さらに原子力関連の独立行政法人や公益法人は様々あって、それら法人の剰余金は賠償金に使えるとしている。

岸氏は続けて「甚大な原発事故が起きた以上、国民感情を考えれば原子力推進などとても無理なはずですので、予算の執行を停止して、原子力推進のための予算のうち全額は無理でも例えば半分を賠償に転用するのは、原発事故の責任を負うべき政府として当然の対応ではないでしょうか。」と説いているが、全く正論だと思う。

今回の原子力災害に関しては消費者には何の責任もなく、ただの被害者にすぎない。したがって、電力料金の値上げや増税で被災地の被害者の賠償金原資の捻出をはかるというの議論はどう考えてもおかしい。
ペナルティを課すべき対象は、第一義的には原子力推進を図って来た東電や政府ではないのか。この際原子力利権そのものに大きなメスを入れなければ、問題解決をすることにはならないと思う。
岸氏が主張する通り、政府さえその気になれば数兆円単位の賠償原資の供出が可能であり、東電も役員報酬や管理職の給与カットや厚生施設売却などまだまだやるべき事がある。また、既存の原発の安全対策にも大きな追加投資が早期に必要なはずだ。
そういう議論をほとんどせずして、電気料金の値上げや消費税増税の議論が先行すべきではないと思う。

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BLOGariコメント

しばやんさん、こんばんは!

今回の『兼見卿記』における天正大地震の際の若狭湾での津波発生の記事は、決して鵜呑みにはできない情報ですね。
私自身、ちょうど天正大地震の事も調べていたので、今回のこの情報は地震の範囲や規模を改めて認識させてくれる大きな要因となっています。

さて、しばやんさんは『大日本史料総合データベース』を上げておられましたが、私も入手した情報から

[古代・中世] 地震・噴火史料データベース(β版)
http://sakuya.ed.shizuoka.ac.jp/erice/

というのを照会させて頂きます。古代から中世までですので、江戸時代初期までのデータベースですが、ご参考まで!
 
 
御堂さん、貴重な情報ありがとうございました。

いろんなデータベースがあるのですね。驚きました。歴史家が何年も史料を読んでやっと得られる情報が、素人でも即座に分かるのは凄いことです。データベースを公開してくれた静岡大学に感謝ですね。

『大日本史料総合データベース』と取扱っている史料が異なるようなので、両方を併用すればかなりの事が見えてきそうです。
 
 
しばやんさん、こんばんは!

追加の情報を1つだけ…

若狭・小浜地方に室町時代から活躍した豪商の組屋が代々残していた『組屋家文書』という史料があります。

組屋自身、日本海側の海運業を営んでいたはず、もしかすれば天正大地震の情報や被災状況を事細かに記載していたりするのではないでしょうか。

この時期の当主は組屋六郎左衛門宗円という人物です。

たぶん、『小浜市史』などに収載されているかもしれません。
 
 
御堂さん、これも貴重な情報ありがとうございます。

朝からネットで調べてみましたが、「組屋家文書」のテキストは見つかりませんでした。秀吉の頃から活躍した人物のようですが、天正地震の頃はどの程度活躍したか、文書はいつの時代から残されているか、どこに住んでいたかすら良くわかりませんね。
もし、天正地震の前から豪商として活躍していたら、海に近い商業の中心地は津波で流されて、文書も残されなかったかもしれません。

フロイスが津波らしき記録を残している「長浜」という地は「小浜」の誤りとされていますが、もしそれが正しかったとしても、地図で見る小浜は内外海半島と大島半島にはさまれて、津波の入り口は狭く湾が広いので、今回の東北のような大きな津波被害はなかったのかもしれません。

組屋家文書は小浜市が管理しているようですが、テキストを一度読んでみたいですね。
http://www.city.obama.fukui.jp/section/sec_sekaiisan/Japanese/data/246.htm
 


日本は自分で国を守れないから、アメリカにたかられ、中国、ロシア、果ては韓国にまでいびられるわけでなぜ核武装しないんだろうって思っていました。 しかし、石破さんのTVでの発言をきいて、ちょっと考えが変わりました(どの番組だったかよく思い出せないのですが。。) 日本が核武装を目指すというと、ウランを売ってもらえなくなる、というのです。もし、ウランや石油を売ってもらえなくなってしまうと確かに日本は追い詰められますね。太平洋戦争前の日本の再現です。現在、ウランを燃やしてできたプルトニウムを再利用するべく大量に溜め込んでいるわけですが、これは諸外国の意向に左右されないエネルギー政策をとるのに非常に重要な役割を果たすと考えられているようです。太陽光発電など自然エネルギーが実用化されるまでのつなぎとして、核燃料サイクル(MOX燃料の使用)という考えがあってもいいんじゃないかという気がしています。
私もこの分野は知らないことが多すぎて、自分の考えに確信が持てないのですが、日本人は今回の原子力発電所の事故で、二度と原子力発電所は新設できないような気がしていますし、核燃料サイクルも同様ではないかと思います。
「絶対安全だ」と東電がいくら主張してもこれからは誰も信用しないでしょうし、それだけ安全というのなら東京で作れと言われても仕方がないと思います。そうなると東京の住民は反対するに決まっています。
万が一のことがあれば、何世代にもわたって住めなくなったり、賠償金を払い続けることを考えれば、別の方法で発電する方が正しいと思います。
日本列島の廻りには良質なメタンハイドレードがありますし、オーランチオキトリウムも有望ではないかと思います。
いずれも、発電コストはそれほど高くなくCO2の排出も多くはありませんし、現状の火力発電所の設備がそのまま使えるメリットもあります。その利用の目途がつくまでは、安全度の高い一部の原発の稼働を再開する程度の事は必要だと思いますが、政府はその移行スケジュールを明らかにすべきだと思います。
 
 
今後については、確かに原発の新設は難しいんでしょうね。ただ、MOX燃料の利用については、既存の原発でも計画されていました。WikipediaのMOX燃料の項にも記述があります。そのため白紙に戻していいかについては慎重な議論があっていいと思います。
今後の代替エネルギー資源の開発はもちろん、重要だと思います。しかし、そのどれも実用レベルになっていない以上、そのつなぎの技術として原子力に頼る部分があってもやむをえないのではないでしょうか。今後、何が有望かは私にもよくわかりません。
メタンハイドレードももちろん、今後、開発していく必要のある資源ではありますが、研究も始まったばかりで実用化にはまだまだ時間がかかると思います。
オーランチオキトリウムに関しては、私も最初、聞いたときはこれが実用化されればと思いましたが、計算してみると原料になる有機物がまったくもって足りないんですよね。日本全国の下水から有機物を回収してオーランチオキトリウムで石油を生産させたとしても輸入している石油の3%程度の資源回収にしかならない。それで筑波大学の渡邉先生に直接、メールをして聞いてみたんですが、ご心配は全くそのとおりです、という答えが返ってきてしまったんですよね。それで、渡邉先生からの回答では有機物はほかに植物を培養して得ることを考えているという話だったんですが、エネルギー保存則がなりたってますから、同じ太陽光からエネルギーを得るのなら、太陽光エネルギーを光合成をして有機物をつくり、有機物を分解して石油をつくり、石油から電力を作る、という周りくどいことをやるより太陽光エネルギーを直接、電力に変えたほうがロスが少ないと思われます。そのため、おそらく将来にわたってもオーランチオキトリウムによる石油生産が主要な電気エネルギー源になることは無いと思います。ただし、ジェット燃料などの高級燃料の代替としては希望がもてると思います。なにしろ量は少ないにせよ、今まで下水処理場で微生物に分解させて捨てるだけだった有機物を活用できるわけなので。
 
 
よく勉強しておられるのであまり議論にならないかもしれませんが、太陽光発電に関しては、変換効率がまだまだ低いので効率が良くないと言うことではなかったかと思います。
個人的には、福島県の一部のようにで放射能汚染数値の高い地域では当面農業生産も困難なので、電力会社が土地を買うなり借り入れて太陽光発電プラントを設置し、放射能汚染数値が低レベルになるまで電力生産して、被災地の地主に地代を払うかたち等で被害地域の人々の生活を援けるようなことができないかと考えています。
MOX燃料の件は、政治家がどう国民を説得することが出来るかがカギですね。他国の息のかかったマスコミも曲者です。

オーランチオキトリウムはテレビでは日本の石油需要を賄うレベルに持ち込むには遊休田の一部を利用する程度だとの説明ではなかったかと記憶していますが、藻に与える栄養素までは考えていませんでした。
太陽光発電の変換効率が低いのはおっしゃるとおりで、まだまだ研究レベルの段階で補助金で量産化を助成する段階ではないと思っています。いくつか参考になるサイトをご紹介します。 NEDOと呼ばれる組織が、エネルギー自給率を高めるための研究資金を提供しています。そこの報告書などに、現状や将来、どのようにエネルギーを賄う予定でいるのかについて書かれています。
NEDO再生可能エネルギー技術白書
http://www.nedo.go.jp/library/ne_hakusyo_index.html
技術戦略マップ2010
http://www.nedo.go.jp/library/roadmap_index.html
太陽光発電ロードマップ
http://www.nedo.go.jp/library/pv2030_index.html
彼らのロードマップでは、2030年で7円/kWh程度(これは現在の原子力発電のコスト6円/kWhに肉薄します)を目指すそうです。実際、理論上は75%まで効率をあげられることを示した最近の研究も存在します。
http://www.qdot.iis.u-tokyo.ac.jp/press.html
http://www.nanoquine.iis.u-tokyo.ac.jp/newspaper/news2011/news20110425-1.pdf

エネルギー密度が低いのは確かで、ケンブリッジ大のDr.Mackayの試算によると、 イギリスのすべての家屋・建物の南側の屋根に太陽光パネルを設置(1人あたり10m^2、20%効率の太陽光パネル)したとしても、 一人当たり1日5kWhの発電しかできないそうです。イギリスはピーク時(真冬)の電力消費は一人当たり1日24kWhとなるため、効率がたとえ倍になってもまだ足りません。イギリス全土の電力を賄うには膨大な面積の土地が必要になりそうです。日本はイギリスよりやや南側に位置していますが状況は似たようなものでしょう。 http://www.withouthotair.com/download.html

オーランチオキトリウムは、おっしゃるとおり休耕田(の一部)で培養できればという仮定の上での話しなので、培養に必要な有機物の調達については述べていないことに注意する必要があります。
 
 
詳しい情報ありがとうございます。

原子力のコストは含まれないコストが相当あるので私はあまりあてにはしていません。今回の原子力災害の様な事があっても債務超過にならないようにある程度引当を当てていなければ経営とは言えないでしょう。今回の損害賠償コストや除染コストや、廃炉コストなどを発生確率で乗じて原子力発電のコストに入れれば、火力発電や水力発電よりも高くなるのではないでしょうか。

太陽光発電も安くなればいいですね。今の効率と価格では、面積を食うばかりであまり魅力を感じません。
何度もすみません。いちおう、原子力発電にかかるコストに廃炉コストは含められていますよ。原子力資料情報室という原発反対側の人が計算した発電コストでは、原子力部会の計算で6円/kWh程度だったものが7円/kWhになっていますが、そう変わりません。火力と比較を難しくしているのは、燃料となる石油の価格、原子力発電所を何年で廃炉にするか、稼働率をどうするかに依存するからです。
http://cnic.jp/files/cost20060612main.pdf
日本は、安全管理が妙なところで厳しくって毎年、何度もいろんな部分を分解して定期点検する必要があり稼働率が低いそうです。妙なというのはその安全点検をやっても安全性に寄与しないと思われているからです。また原子炉の耐用年数も短いです。一方、アメリカは60年に延ばすことを決定しています。

今回の被害で4兆円の補償が必要になったと政府が試算しているそうですが、毎年、4兆円の補償が必要だとして、発電単価を計算しなおすと12円/kWh(太陽光発電の発電単価並み)になるそうです。また、この4兆円は大きく見積もられ過ぎではないかというふうにも書いてあります。福島県の農業産出額は年間2450億円でしかありませんし、4兆円という額は10万人に一人4000万円の慰謝料を出せるだけの金額だからです。
http://agora-web.jp/archives/1363422.html

それと、原子力発電所(3割→0)を停止して、火力発電所(6割→9割)を再開させると、大気汚染による死者が3000人、生じるという試算があります。
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51817203.html
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51842863.html

太陽光発電は、基本的に屋根の上の3分の1ぐらいの面積にとりつけることが試算されていますが、それでも将来的には発電全体の2割以上を賄える量になるので、期待しています。蓄電も基本的には、水の電気分解で水素を作って高圧タンクに貯めておけば、燃料電池として利用できるはずなので発電コストが下がれば、いろいろな問題が解決するのではないかと思います。
 
 
原子力発電のコストはいろんな人が書いているのですが、私はもっと高いのにもかかわらず、安く見えるように操作されている印象を持っています。
次のURLでは20円/kWhを超えています。

https://docs.google.com/viewer?a=v&pid=explorer&chrome=true&srcid=0B1xBQ3bNCL-XNDJhOGY1YjgtZjQ4Zi00ZjM1LTljMzctMGY0ZDZiYzk1ZTcw&hl=ja

それと、火力発電と水力発電のコストは、今までは稼働率がかなり低く抑えられていたので、減価償却費のウェイトが高くなっており、コストが高めに見積もられています。稼働率が7~8割であれば、もっと低くなるはずです。

原子力発電のコストの話にもどりますが、この損害賠償コストはもっと高くなってもおかしくありません。
農家は除染が完了しない限り、農産物は今後数十年間作れません。7年程度では済まないでしょう。
また今回の事故でいままでどれだけの国費が投入されたでしょうか。そのコストは加算されていません。
さらに、放射能汚染は魚にも影響が出る可能性があります。
岸博幸氏は海外から賠償請求されることを懸念しています。
以上を考えていくと、原子力のコストはもっと跳ね上がるのではないでしょうか。

次のサイトをぜひ読んでみてください。
http://diamond.jp/articles/-/13837
 
 
ご紹介いただいたリンク先に損害賠償の話がありましたが
同じ論法で、日本は大気汚染による損害賠償を求めることができます。
外国のほうが同じ火力発電でも、日本ほどの環境技術を用いていないのできれいな排気になっていませんし、
中国は特に大気汚染がひどい石炭による発電を行っています。
WHOの報告によると毎年100万人から300万人(そのうち火力発電が3割)が大気汚染が原因で死ぬと見込まれているそうです(2004年で世界174カ国の死者数が「年間」110万人。 http://apps.who.int/ghodata/?vid=34300# )。
その一方、チェルノブイリ事故による「将来にわたった」死者数は、
IAEA チェルノブイリ・フォーラム(2005) 3940人 (60万人中) (0.11/SV)
WHO(世界保健機構)(2006) 9000人 (740万人中 ロシア、ウクライナ、ベラルーシ) (0.11/SV)
IARC(国際ガン研究機関)(2006) 16000人 (5億7千万人中 ヨーロッパ全土) (0.1/SV)
NGOキエフ会議(2006) 3万~6万人 (全世界) (0.05~0.1/SV)
グリーンピース(2006) 9万3千人 (全世界) (0.15/SV)
と推定されています(http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/kek07-1.pdf)。
各団体の見積もる数字は違いますが、それは主に考える母集団の違いに依存しています。
上記の一番、右の数字は1シーベルトの被曝によって将来的に死ぬリスクを表しますが、
この数字は、各団体の間でそれほど違いがありません。
NGOキエフ会議の見積もりの6万人としても、火力発電所が原因の大気汚染による「年間」死者数30万人より少ないですね。
また、被曝による被害をいうのであれば過去の核実験による損害賠償も求めることができるでしょう。
http://search.kankyo-hoshano.go.jp/food/dekigoto.html
1986年のチェルノブイリ事故時と、それ以前のフォールアウトがかなり多いことがわかります。今回の事故でも放射性物質を撒き散らしましたが、放出量はチェルノブイリ事故の10分の1とみられています
 
 
原子力発電所のコスト計算を読んでみましたが、これは計算がひどいと思いました。
なぜ原子力発電所の発電コストの計算に、揚水発電所の建設費用を含めるのでしょう?
べつに使用済み核燃料の生成と再処理するMOXの燃料の数を等しくしなければならない理由はないと思います。
中間貯蔵施設で貯蔵しておけばよいでしょう。
それなのに再処理工場は2つ作ることにして、さらに再利用の難しいMOX燃料を使用した後の燃えカスからも燃料を取り出す前提で計算しています。
そもそも、これらの取り出した燃料は使うことなく、最終処分する計算を行っています。
使わないのであれば、最初から最終処分する価格だけを費用として計算すれば良いはずです。

また、どういうわけかガラス固化体にする価格が1本3530万円ではできないとし、1本2.5億円かけて作る計算を行っています。
明らかにおかしな数字です。ガラス固化体は、ステンレス製の容器に使用済み燃料を
ガラスを混ぜて保存するもので、1本500kg程度のものです。
どこに2.5億円かかるのかがわかりませんでした。
http://lib.toyokeizai.net/public/image/2011062000979041-1.jpg
また、この日本の試算しているガラス固化体にして最終処分するのにかかる費用は、
諸外国の試算と比べても決して少ない金額ではありません。
http://www2.rwmc.or.jp/pub/hlwkj201102ed-1.pdf
なぜその7倍もの価格を設定するのかの根拠が不明であり、その価格が妥当に思える合理性が見えてきません。

電源交付金も発電コストを大幅に上昇させる要因にはなりません。
Wikipediaに書いてありますが、出力135万kWの原子力発電所(環境調査期間:3年間、建設期間:7年間、建設費:4,500億円)の立地にともなう財源効果は、環境影響評価開始の翌年度から運転開始までの10年間で合計約391億円、その後運転開始の翌年度から10年間で合計約502億円。20年間では、電源立地地域対策交付金が545億円、固定資産税が348億円で、合計約893億円になると見積もられています。
これによる値上がりは、数十銭/kWhのレベルです。
 
 
福島の農林水産物が数十年間、食べられないのでは?、とのことですが、福島の農林水産物は9割がたは問題なく食べることができます。
ふくしま新発売。というページで調べられた検査結果が掲載されています。

基準値を超えたもの全リスト
http://www.new-fukushima.jp/result.php?start_year=2011&start_month=1&end_year=2011&end_month=9&search_area=&hyoji=over&x=76&y=25

検査された全リスト
http://www.new-fukushima.jp/result.php?start_year=2011&start_month=7&end_year=2011&end_month=9&search_area=&hyoji=all&x=78&y=10

牛肉が汚染されていたという報道がありました。
確かに汚染された牛肉は見つかっています。
クリでも汚染が見つかっています。このリストの中で1件だけあります。
http://www.new-fukushima.jp/result.php?kind_detail%5B%5D=%E3%82%AF%E3%83%AA&start_year=2011&start_month=3&end_year=2011&end_month=9&search_area=&hyoji=all&x=79&y=15

しかし、例えば、モモでは1件も見つかっていません。
http://www.new-fukushima.jp/result.php?kind_detail%5B%5D=%E3%83%A2%E3%83%A2&start_year=2011&start_month=1&end_year=2011&end_month=9&search_area=&hyoji=all&x=49&y=22

福島県が正直に全ての出荷物の検査をしているかどうかはわかりません。
しかし、福島市でも伊達市でも検出限界レベル以下の放射能しか帯びていない農産物がたくさん存在することは確かだろうと思います。
安全基準も暫定値のレベルが高いといいますが、もともと危険性に関して無知であったため高く設定されていたと思います。世界には年間10ミリSVの自然放射線被曝がある場所もあります。そういうところでも昔から住民が住み続けていて問題がないことはわかっています。また現在では、1945年の広島・長崎の例のほか、1986年のチェルノブイリ事故、1970年代から商用利用されたX線CT検査などの例からかなり正確に危険性を見積もることができます。我々はチェルノブイリ事故のときと比べると遥かに多くの知見を得ています。その知見をもとに基準を設定することは科学的で合理的であると言って良いと思います。

日記本文と関係のないコメントを長々とすみませんでした。
 
 
deepwaterさん、コメントありがとうございます。

放射能の問題は、私も正直言って何が正しいのかよくわからなくなってきています。飛行機に乗ればもっと放射能を浴びているそうですし、少量の放射能であれば、健康に良いというデータもあります。私も多分そうなのだと思っています。

政府や東電の初動がいかにも重要な事実を隠しているようだったので、誰もがその発表内容を信用できなくなっています。そのためにテレビや雑誌でいろいろな説が垂れ流されて風評被害は拡がるばかりです。
たとえ福島県の農産物は食べても安全という数字が出たとしても、放射能汚染は同じ町内でも高い場所と低い場所があることは誰でも知っています。そう考えると、子供を持つ親の多くは福島県の農産物は避けようとしてしまいますし、流通業者は大量廃棄に廻る可能性が高い農産物を仕入れられません。結果福島県の農家は大被害を受けます。その被害は、東電や政府が補償しなければならなくなります。

風評被害を止めるのは政治家の役割が大きいのだと思いますが、今までの対応を見ていると、風評被害をむしろ拡大させたように見えます。風評被害を消す方法は、今となれば東電など今まで原子力を推進してきた人たちが、率先して福島の農産物を買って生産者を援け、食べても大丈夫であることをアピールするしかないと考えています。政治家が東電に買い取らせて彼らが食べるか、捨てるかで世論がきっと動きます。
 
 
私も同感です。政府が大規模停電や原子力事故で予想されるパニックを恐れて情報をわざと隠蔽しようしたのは事実だと思います。しかし、そんな小手先の隠蔽をやっても、パニックは防げるものではないと思います。
放射線を測る装置は、福島第一原発だけにあるわけではないです。
大学や国の研究所、民間の会社、研究所、病院、発電所で常時、測っていますし、
それをネット上にリアルタイムで更新しているサイトもいくつもあります。
それに、IAEAや米軍なども放射線量をはかっていました。
それらの全ての数字と整合性をとるようにストーリーをでっち上げることは不可能です。
逆に言えば、政府がどれだけ信用できなかったとしても、その周辺に漏れ出た放射線量の測定値をみれば
政府の言っていることが本当かどうかはすぐにわかります。
国内だけでなく世界中の研究者が各地の放射線量をみて、事故の規模を予想し、ブログ、Twitterなどでも情報を流していました。
原子力発電所での爆発も、観測する人や機械が無数にある現状では隠しようがありません。
その現状に即するならば、情報を隠蔽しようとして人々の信用を失うほうがパニックを誘発しやすいため、
道義的な問題だけなく、実際上も、情報をオープンにするのが一番、良いのではないかと思います。
実際、国民に全く信用されていない中国では、政府がとめようとしても塩の買い占めパニックを早期に収束させることができませんでした。
 
 
スリーマイル島の事故を起こしたアメリカは強い反対運動の中、事故後も原子力発電所の発電量は増大させていますし、
産油国のサウジアラビアでさえも原子力発電所を建設する計画があります。
そういう事実に基づけば、原子力発電所が火力発電所に比べてコスト高で割りに合わないという
話しは専門的な知識がなくとも説得力にかけると思うのですが、そういう話でさえも一般に流布するというのは
それだけ今の日本政府が国民の信頼を失っていることの証拠だと思います。

ふくしま新発売。のようなサイトは、国が立ち上げるべきだったと思います。
国が大規模な検査施設・検査体制を作って公開するべきです。
(東京都は、情報を公開するサイトが早い段階で作られていました。石原都知事の指導力は評価されて良いと思います。
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/datasheet/d-shelter/taiheiyooki_h22.html#anchor08
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/datasheet/d-shelter/taiheiyooki_h22.html#anchor07
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/datasheet/d-shelter/taiheiyooki_h22.html#anchor06 )
どういう形で検査を行っているかを明確にして検査過程を透明化し、
どういう形で検査済みであるかどうかを保証するかを考えて、消費者に安全を担保できるかを明確にするべきだと思います。
その上で、霞が関の食堂なんかで福島の農林水産物を優先的に使用するようにすれば、ずいぶん、風評被害も減るのではないかと思います。
これは、福島の農林水産物だけでなく、海外への輸出品についてもいえることで、同様な情報公開が重要だと思います。補償の金額についてあれこれ議論する前に、どうすれば失った信頼を取り戻せるのか、真剣に議論してもらいたいです。
 
 
同感です。

誰が何を言っても信用されなくなっている事態を収拾するためには、原子力を推進している人々が、率先して東北の農産物を買い、率先して食べる以外に道は開かないように思っています。

「補償」という加害者・被害者の関係でものを考えるのではなく、風評被害で売れなくて困っている農産物や地方の食料品などを買うことから始めて行くべきです。国や電力関係者がそういう取り組みをすれば、世論の風向きは変わるはずです。
汚染がひどくて当面使えない土地は、風力発電や太陽光発電用の土地として借りて地代を払うなど、地震の影響で打撃をこうむった人々に少しでも収入が入る方法をもっと政府や東電は検討すべきだと思います。 




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