愛犬耳袋

 コーギー犬・アーサーとの生活と喜怒哀楽

アーサーが来た日

2006年09月25日 | 愛犬紹介
 またもや思い出話。
 母犬の飼い主さん一家と約束をかわし、愛犬アーサーが我が家に来たのは、2005年12月5日のことだ。
 兄弟のうちの女の子1頭は名古屋の親戚のところへもらわれることが決まっており、送り届けるついでだからと、我が家にも約束した緑のリボンの仔犬を届けて下さることになった。
 アーサーと妹犬はダンボールを改造したケースに入れられ、一緒に部屋までやってきた。名古屋までの道のりは長いため、妹犬の休憩も兼ねていたのだ。

 さて、我が家では名前はすでにアーサーと決めてあったため、母犬さん一家も緑の子をそう呼んでくださっていた。
 ひと月ぶりに会ったアーサーは、さらに大きく、前足もぶっとくなっていた。





 しかも部屋に降り立つなり、フカフカのこたつ布団でいきなりオシッコをした。なんだか会うたびにオシッコしてるな。コイツ。
 このオシッコ癖の悪さ(?)は、後々までも我が家の悩みの種になり、トイレが完璧になるまでかなりの時間を要する事になるのだが、生後2ヶ月で早くもその片鱗を見せていたと言える。
 これに対して、名古屋にゆく妹犬は環境が変わって驚いているのか、なかなかダンボールから出ず、トイレもしない。アーサーの為に用意した部屋に、ひとまず2匹一緒にいれ、水などを飲ませて休ませようとするが、アーサーは飲んでも妹は口をつけない。なんとお行儀のいいことか。
 後で聞いたことだが、この妹犬はもらわれた先で、いきなり決められたトイレでちゃんと排泄し、賢い子だと評判を取ったと言う。栴檀は双葉より芳し。きっと今頃は聞き分けの良い、気だてのいい娘さんに育っている事だろう。

 振り返ってみると、犬の正確というのは、母犬、そして仔犬時代にかなり現れていると確信できる。イギリスのトレーナー、キャロリン・メンティースは犬のしつけDVDの中で、
「子犬を選ぶ時には、仔犬たちの前でオモチャなどで気を引いてみてください。真っ先に近寄ってくる子と、怖がって逃げる子は避けた方がいいでしょう。様子を見ながら近寄ってくる子がしつけやすい子です」
 と言っていた(細かい文脈は違うかもしれないが、まあそんな内容だ)。
 アーサーはまさに、先頭切って近寄る子であった。そして好奇心が強く、気になったものには恐れず駆け寄り、リーダーシップを取りたがるになってしまった。これは旅行やドッグラン、カフェなどには向いていたが、躾の上でかなり手を焼く気質である。

 しかしこの頃は、知識不足とに加えて、初めて飼う犬ということで舞い上がりきっており、そんな先の事までは考えられなかった。
 目の前でトコトコと部屋のあちこちを探検して回る、小さな(といっても月齢にしてはデカかったが)アーサーに夢中であった。



我が家、最初の夜に。
今見ればどことなく心細げ。


 アーサーの様子に安心した飼い主さん一家は、飼育についての注意などを説明してくださる。血統書を頂き、こちらからは事前に決められた額をお渡しする。その額はいわゆる市場価格よりもかなり低いものだった。
「必要な額はお支払いしたいので、どうぞ、その分ご請求下さい」
 と申し上げたが、頑なに受けて頂けなかった。
 飼い主さんは値段を決めて募集した時、その安さからブリーダーや他の飼い主さんに
「価格を高くした方が可愛がってもらえる。安い子はそのようにしか見られない」
 と散々言われたそうだ。
 しかし子犬の譲渡を利益を上げる商売にしたくないという気持ちが強く、この額に収まったと言う。

 残念ながら只でもらった犬は病院もドッグフードも勿体ない、逆に高い犬だから死なせる訳にはいかない、などと考える人がいるのは確かだ。仔犬が大切なら高い価値をつけることも、またその将来を安全にする一つの手だてかもしれない。
 その気持ちは、ハムスターを繁殖させた私でもよくわかる。安い命というなら、ハムスターはこの上なく安価である。それゆえ人手に渡す時の不安は大きかった。
 ハムスターの為に的確な餌を与えてくれるだろうか。病院にいってくれるだろうか。実際、適当に餌を与え、必要なものは用意せず、最後は飽きて面倒をみなくなった例を身近に知っている。
 うちで産まれた子はそういうことにならぬよう、しっかり見極めが出来た方にだけ差し上げていたが、それでも「引っ越すから」と安易に戻しに来た人もいた。
「他に里親探すより、元の飼い主さんの方がいいと思って」
 と飼い主の子はニコニコしていたが、釈然としないものが残った。
 そういう経験をしてきて、命の重さに高い安い、大きい小さいは無いと感じていた。正直にその話をし、家族のひとりとして、共に暮らしていくと約束して、アーサーを任せていただけた次第である。

 飼い主さん一家はこの後名古屋までの移動があるため、妹犬を抱き上げると、早々と席を立たれた。
 里親探しのセオリーにのっとたのか、至極あっさりとアーサーとの別れを済ませられたが、一家のちいさな娘さんだけは、玄関先まできたところで、ポロポロと涙が溢れ出していた。
「もういっかい、バイバイしてくる?」
 そう訪ねると彼女はこっくり頷き、きびすを返して犬小屋に駆け寄った。サークル越しに
「ばいばーい」
 と言うとアーサーの鼻にチョンと触れた。そして今度は一度も振り向かず、玄関の外へ駆け出していった。
 アーサーはあの小さな別れの儀式を、今も覚えているだろうか。
 忘れていたとしても、お嬢さん。あなたの子供らしく時に荒っぽい愛情のおかげで、アーサーは子供、そして小さな生き物が大好きな子に育っています。ありがとう。





 その夜、小さな(といっても結構デカい)アーサーは、一人きりになってあちこちを探検し、遊び回ると、パタンと倒れるように眠ってしまった。私の腕枕で。その寝顔は月並みな表現であるが、まさしく天使であった。

 しかし、天使のようにかわいらしい子犬は、悪魔のように聞き分けが無いと、翌日から嫌と言うほど気付かされていくのであった。