背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

薄幸のジェニファー・ジョーンズ

2005年10月06日 22時22分48秒 | アメリカ映画
 ジェニファー・ジョンーズは、地味でいかにも幸の薄い感じのハリウッド女優だった。代表作の「慕情」と「終着駅」は、どちらも悲恋を描いたドラマチックな作品で、彼女にはこのヒロインのイメージが付きまとっているのかもしれない。そしてもしこの二作がなければ、彼女はとっくに忘れ去られた存在になっていたにちがいない。
 ジェニファー・ジョーンズは決して美人ではなかった。グラマラスで性的魅力のある女優でもなかった。しかし、何ともいえぬ不思議な魅力があった。それは、苦労した女のいぶし銀のような輝き、とでも言おうか。彼女は賢そうで貞淑な雰囲気があった。確か彼女にはインディアンの血が混ざっていると聞いたことがある。「慕情」では中国系の女性役を演じていたが、小柄で顔立ちもどことなく東洋人的なところがあった。彼女みたいにチャイナ・ドレスが似合うアメリカ人もそうザラにはいないと思うのだ。そんな点も彼女が特に日本人に好まれた大きな理由の一つだったのだろう。逆に、こうした異国情緒を漂わせた一見とっつきにくい女優がアメリカでは人気を得られなかったのも納得がいくように思える。アメリカではやはりマリリン・モンローやシャーリー・マクレーンのような開放的な明るさが好まれる。誘えばついて来る女、押せばすぐに落ちるような女がアメリカ人好みなのだろう。
 「終着駅」は暗く悲しい白黒映画だった。ジェニファー・ジョーンズは旅行中に若い男と恋に落ちた人妻役を演じているが、これはまさにうってつけの役だった。場所はローマ駅。男と別れる決意をして、帰途の旅につこうとする女。引きとめようと駅まで追ってくる男。この男を若きモンゴメリー・クリフトが演じているが、彼の偏執的な演技が実にいい。男の熱意に後ろ髪を引かれる女。「終着駅」は行きずりの男女の別れを凝縮したドラマで、イタリア人の監督ビットリオ・デ・シーカの名作の一つである。
 「慕情」の後、ジェニファー・ジョンーズはヘミングウェイ原作の「武器よさらば」に主演したが、残念ながらこの映画の評判は良くなかった。(看護婦役の彼女が素晴らしかったし、良い映画だったと私は思う。)以後彼女はハリウッドで活躍の場を失ってしまう。夫(プロデューサーのセルズニック)にも先立たれ、睡眠薬と酒浸りになって、精神的にもボロボロになってしまったという。十数年後、再起してパニック映画「タワーリング・インフェルノ」に出演したが、私は見ていて、端役の彼女のあわれな姿に目を覆いたくなる思いだった。
<終着駅>


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