背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

芥川全集を買う

2010年04月11日 20時48分50秒 | 
 きのう、方南町のブックオフで「芥川龍之介全集」(岩波書店)全12巻を買う。1970年代に出版された箱入りの豪華装丁本で、これがなんと1冊300円の超特価。しかも全12巻揃っている!締めて3600円。ばら売りしていたのだが、大きくて重い本なので、1冊も売れず、どんどん値下げてしていったようだ。箱に値段のシールが三枚重ねて貼ってあり、1冊1200円から800円、さらに300円になっていた。神田の古本屋なら、全巻揃いで2万円はするだろう。大変な得をした気分だ。
 今日は、第1巻を早速読み始める。芥川がデビューした大正3年から大正5年に書かれた小説と随筆を拾い読みする。有名な短編では、「羅生門」「鼻」「孤独地獄」「虱」「酒虫」「手巾」。これらを、45年ぶりに再読した。中学1年の頃、読んで以来だ。その頃、中央公論社の「日本の文学」が発刊され、青い箱に入ったこのシリーズがなぜか気に入り、作家を選んで時々新刊を買っては読んでいた。忘れもしない。初めて買ったのが、「日本の文学」の「芥川龍之介集」だった。中学1年生が読むには、芥川は難しいと思うのだが、かなり熱中して読んだ記憶がある。よほど面白かったのだろう。今、また45年ぶりに芥川の短編小説を読んでも、その頃と変わらず、大変面白く感じる。読み出すと止まらないから、半日ずっと読んでいた。芥川の小説は、登場人物が異様でユニークである。「鼻」の禅智内供という坊主、「虱」の森と井上という二人の侍、「酒虫」の劉という主人公とエセ坊主。みんな変人だが、自分で変人とは思っておらず、非常に真面目なところがおかしい。
 「手巾(ハンカチ)」は現代物だが、この小説のアイディアは親友の久米正雄が出したもので、芥川が久米の承諾を得て、それを拝借したとのこと。主人公の長谷川先生は、新渡戸稲造がモデルだという。
 この他に読んだものは、小説では「老年」「ひょっとこ」「父」。随筆では、「大川の水」「私の文壇に出るまで」など。
 芥川は、東京京橋生まれの東京人で、子供の頃から大川(隅田川)を眺めて育った。だから、大川に対する愛着がとても強いと語っている。
 芥川の、子供の頃から一高時代までの読書遍歴が興味深い。小学高学年の頃は講談本を読み漁り、家の近くの貸本屋にあった講談本は全部読んだという。その流れで、馬琴、一九などの江戸の戯作本を読む。その後、「西遊記」ほか中国の小説を愛読。日本の文学では、徳富蘆花、泉鏡花に影響を受け、鴎外、漱石の作品も全部読んでいる。外国文学も、当時流行のツルゲーネフ、イプセンから、英米、フランスの文学に及ぶ。芥川は、中学時代は歴史家に、高等学校時代は英文学者になろうと思っていたという。学生時代の芥川は、いわば「本の虫」で、ほとんど部屋に籠って読書に耽っていたようだ。フランスの小説や詩は、英訳したものを読んでいる。東京大学英文科に入って、アナトール・フランスの短編を翻訳し、「新思潮」(第三次)に発表。これが全集の第1巻の最初に載っている。
 芥川が漱石を初めて訪ねたのは、大正4年12月のことで、芥川が大学3年の時。漱石に逢って感服し、すぐに門下に入る。漱石にとって芥川は最後に近い門下生で、その才能と教養の深さを高く評価し、他の誰よりも可愛がったようだ。「新思潮」(第四次)に載った芥川の「鼻」(大正5年)を、漱石が読んで絶賛したことはよく知られている。漱石はわざわざ芥川宛に長文の手紙を書いて送った。これが大きな励みになって、芥川は小説家を目指すことになる。が、漱石はその年(大正5年12月)、死去。芥川が漱石に私淑したのはわずか一年にすぎず、芥川にとって漱石の死ほど心残りなことはなかったという。
 

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