背寒日誌

2019年7月12日より再開。日々感じたこと、観たこと、読んだことなどについて気ままに書いていきます。

新宿のピットインでジャズを聴く~松下美千代トリオ

2010年04月14日 20時13分18秒 | ジャズ
 最近またジャズを聴きなおしている。
 きのうの午後は久しぶりに新宿のピットインへ行き、生演奏を聴いてきた。友人の娘さんが出演するというからだ。その友人というのはチャンバリスト・クラブ(チャンバラ映画の愛好会)の仲間で、先日飲み会で彼と隣り合わせで飲んでいた時のこと。
「学生時代はジャズばかり聴いていて、ジャズ評論家にでもなろうかと思ってたんだけど…」と私が言うと、
「あっそうだったの。ジャズ、好きなんだ。実はさ、うちの娘、ジャズピアノ弾いてるんだよ」
「えっ、ほんと?で、有名なの?」
 私の質問に彼は、少し照れくさそうに、でも親馬鹿ぶりを発揮して、
「そこそこかな。時々クラブとかにも出演して、CDも出しているんだけど…。ホームページもあるし、ブログも書いているみたいだよ」
「じゃ、今度聴きに行くから、紙に娘さんの名前書いてもらえる?」
 といったわけで、20回以上も一緒に飲んだことのある彼から初めて、娘さんがジャズ・ピアニストであるという話を聞いたのだった。
 娘の名前は、「松下美千代」。本名だという。早速、仕事場へ帰ってから、パソコンで彼女のホームページを調べる。WELCOME TO MICHIYON’S WEBSITE、いかにも女の子らしいホーム・ページである。

http://www.tim.hi-ho.ne.jp/michiyon/

「美千代」だから、愛称「みちよん」。自分でも気に入っている呼び名らしく、ホームページに本人もその名を使っているほど。プロフィールに写真も出ている。可愛いではないか!出演スケジュールも詰まっているし、あちこちで活躍しているようだ。
 でも、演奏を聴いてみないことには、と思いながらも、生演奏を聞く機会を楽しみにしていた。きのう、その日が来たのだった。
 新宿のピットインへ行くのは、2年ぶり。前回は山下洋輔トリオだった。往年の山下洋輔とは違い、いささか失望した。サイドミュージシャンが若くて、しっくり行っていないと感じた。
 松下美千代トリオの出演は午後2時半から。ピットインの昼の部は、若手のジャズミュージシャンが多い。平日のこの時間帯、客も少ないにちがいない。掲示板で夜の部の出演者を見ると、まだやっているのかとびっくりするようなミュージシャンの名前が並んでいる。渡辺貞夫、峰厚介、佐藤允彦、渡辺香津美、辛島文雄など、昔の名前が出ているのだ。
 2時ちょっと過ぎに店に着く。開場2時というのに、CLOSEDの看板が店の前に出ている。待っている客は私を含め3人。2時30分少し前に開店。客はやっと10人。カウンターで、ドリンク付き入場料(1300円)を払う。アイスコーヒーをもらい、前から5列目の左端の席に着く。ここからは「みちよん」の顔は見えないが、ピアノの鍵盤はよく見える。ジャズファンとしてはピアニストの指の運びが見えることが大切なのだ。

<ピットインの店内。五列目の左端に座った>
 ステージの左脇に出演者の控え室があったので、彼女に挨拶くらいはしておこうと思った。ドアが開いていたので、中を覗くと、小柄な女の子が立っている。こげ茶色の長袖のTシャツに、グレーのベストを身につけ、下はサブリナというのか、細めのパンツ。ショートヘアで、昔で言うマッシュルームカット。薄暗闇で見たせいもあるが、ひょろっとしていて、なんだか不思議の森に生えている地味なキノコのよう。写真とは違うが、この子がきっと、かの「みちよん」にちがいない。
「松下さんですか?」
「はい」と、素直な返事。が、小首をかしげている。
「お父さんの知り合いでチャンバリストのFです。聴きに来ました」
「あっ、あ~、どうも」と、彼女、ちょっと驚きながらも心当たりがある表情。父親から私が訪ねにくることを聞いていたようだ。大きな目が輝いている。
「じゃ、またあとで」と、開演前なので、そそくさと席へ戻る。
 演奏が始まった。一曲目を聴き始めてすぐ「おっ」と驚き、「なかなかやるなあ」と思い、「いいじゃないか」と感心した。ベースとドラムの息も合っている。このトリオで何度も演奏しているのだろう。
 一曲、二曲と聴いて、新鮮で爽快な気分になった。ポップ調とゴスペル調を融合したようなライト・ミュージック的なジャズで、ノリも軽快だ。ホーム・ページで好きなミュージシャンに確か、オスカー・ピーターソンとキース・ジャレットを挙げていたが、後者の影響が強いようだ。黒人のジャズに特有なブールス・フィーリングは感じない。でも、日本人のやるジャズはこれでいいのだと思う。ソウルフルなジャズを日本人が真似ようとしても無理だし、猿真似になってしまう。
 二曲演奏して、みちよんが挨拶。
「こんなお天気のいい日に、地下の暗いところへわざわざお越しくださって、ありがとうございます」
 続いてサイドメンの紹介があり、ベースの工藤精さん、ドラムスの斎藤良さんに、暖かい拍手が送られる。
 ファーストステージでは、リチャード・ロジャースのスタンダードと、ベーシストのスティーブ・スワローとチャーリー・ヘイデンの曲を演奏。へぇー、ずいぶん珍しい選曲だなと思う。四曲目はゴスペル。メロディーラインを小学生が音楽の時間に使うピアニカで演奏していたが、面白いアイデアだし、ピアニカの音色も意外なほどゴスペルのメロディに合うなと感じる。
 休憩時間にみちよんと5分ほど話す。私のジャズ体験を一方的にしゃべったので、きっと「なに、このオジサン」と思ったことだろう。
 セカンドステージは、リラックスした雰囲気になる。みちよんのしゃべりも好調。親友をイメージして彼女が作った「加藤けいこ」(タイトルも親友の名前そのまま)が、変拍子でなかなかの傑作。「けいこ」という名前はどういう字を当てるのか知らないが、彼女もジャズ・ピアニストだそう。自分と誕生日も同じで双生児みたいだと言っていた。ほかに彼女のオリジナル曲を2曲ほど披露。BREAKSHOTという曲が良かった。
 演奏が終わり、客席に来た彼女に、「とっても良かったよ」と言う。若い人が何かに対しひたむきに情熱を注いでいる姿を見ると、嬉しくなりいつも感動してしまう。年を取ったせいもあるが、応援したい気持ちなる。こういう時は励ましの言葉だけでなく、ご祝儀を渡すのがいちばんだと私は思っている。包み紙に、私の会社名と氏名を書き、「ホーム・ページもあるから、今度覗いてみて!」と言葉を添えておく。
 みちよんに包み紙を手渡し、彼女のCD、「TURNING POINT」も買って帰る。MICHIYON TRIOのファースト・アルバムである。ベースとドラムスも同じメンバーで、6曲入り。今、彼女のCDを聴きながら、このブログを書き綴っている。




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