イランのアスガー・ファルハディ監督によるサスペンスドラマ。カンヌ国際映画祭で男優賞と脚本賞、アカデミー賞では監督が2度目の外国語作品賞を受賞しましたが、トランプ政権に抗議し、授賞式をボイコットしたことも話題になりました。
セールスマン (Forushande / The Salesman)
ファルハディ監督の作品は、これまで「彼女が消えた浜辺」「別離」「ある過去の行方」と見てきましたが、私にとってはイランの現代社会への扉であり、そこに生きる人々の普通の暮らしや背景となっている文化、とりわけイスラムの信仰や思考に触れられる貴重な機会となっています。
監督の作品を通して見るイランは、女性も自分の主張をもつ民主的な社会で、意外にも私たちの生活となんら変わらないことに驚かされます。しかし物語はサスペンスタッチで展開し、イスラムならではのメンタリティが、重要なカギとなっています。2つの異なる世界観が起こす化学反応に、私はいつもうならされます。
さて本作は、隣の建設工事のせいで集合住宅が倒壊しそうになり、住民たちが慌てて避難する...という騒ぎからはじまります。高校教師で劇団俳優のエマッドと、妻で劇団女優のラナも住む場所を追われ、友人の紹介で、急きょ仮住まいに引越しますが、その後まもなく、夫の留守中に、ラナが何者かに襲われるという事件が起こります。
すぐに警察に届けようというエマッドに対し、事件が表ざたになることを恐れるラナ。ラナの気持ちを尊重しつつも、犯人への怒りを抑えきれず、残された車の鍵から独自に犯人探しをはじめたエマッドは、とうとう犯人をつきとめますが...。
最初は、これだけ証拠が残っていて、目撃者もあり、あきらかに傷害事件とわかるのだから、すぐに警察に届ければいいのにと思いましたが、警察に届けることで、よけいな詮索をされたり、自分の不用心を責められたり、事件が明るみになることでかえって傷つくことをラナは恐れたのでしょう。
一方で、ラナの気持ちを尊重して、警察には届けなかったものの、なんとか犯人を見つけ出して謝罪させたい、なんらかの罰を与えたいというエマッドの気持ちもよくわかります。
相手を痛めつけたところで納得できるわけはなく、かといって罪を赦したところで割り切れない思いはいつまでも残るでしょう。思いがけないなりゆきで事件は幕を閉じますが、夫婦の間の気持ちのずれと、葬られた真実は、これから先もしこりとなって残るような気がしました。
ラナとエマッドが所属する劇団の演目は、アーサー・ミラーの「セールスマンの死」。映画の中でも劇中劇として登場し、本作のストーリーとリンクしていることを暗示しています。映画化もされているようなので、近いうちに見てみたいと思います。
【関連記事】セールスマンの死 (2017-07-26)
いつも過去記事も見てくださって、ありがとうございます。
イスラム圏の作品、私にとっても最初はなかなかとっつきにくかったのですが
今ではファルハディ監督は好きな監督さんのひとりになりました。
宗教的・文化的な制約もあるのかもしれませんが
スリリングな心理描写や、
見る者に想像させ、考えさせるところがすばらしいな~と思います。
ブログトップの写真は、私が作ったお料理ではないですよ。^^
ブログサイトで用意されているテンプレートなんです。
今までのチョコレートがちょっと重いかな~と
春らしいものに変えてみました。
食いしん坊なのでつい食べ物のテンプレートにしてしまいます。^^
先日は拙宅にコメントをいただき、いつもありがとうございます!
いつもながら過去記事にお邪魔します(;^_^A
イスラム圏の作品は私には遠い存在に感じられて敷居が高いので
なかなか観るまでに至りませんでしたが
この作品のサスペンス要素を知ったので観てみました。
被害者とその夫、そして加害者、三人三様の心理描写に引き込まれました。
私は観てないのですが
セレンディピティさんの『セールスマンの死』も拝読しましたら
>金縛りにあったように目が離せなくなる、不思議な磁力を感じました
と書いていらっしゃったので
同じ様に観る人をグイッと引き込む作品なのでしょうね。
興味が湧いて来ました。
また面白い作品選びの参考にさせていただきます♪
余談ですが、ブログトップのお写真、リニューアルされました?
またまた美味しそうですね(^_-)-☆
日本でもそうですが、被害者である女性側の非がとられることがあり
ラナも警察に期待がもてないと思ったのかもしれませんね。
ラナと犯人の間に何があったのか、はっきりとは描かれていなかったので
推し量るしかないですが
ラナは相手の家庭をめちゃくちゃにしてまで、罪を問うことを
求めていなかったのではないかと思います。
2人にとってはなんとも後味の悪い結末でしたね。
「セールスマンの死」今、家にあります。見るのが楽しみです☆
でも誰が言ったか記憶にないのですが、警察は何にもしてくれないという台詞もありましたね。
ラスト、泣きながら一人で立ち去るラナ。あの後、エマッドとの間はどのようになったのか?ちょっと気になりました。
私も劇中劇の「セールスマンの死」って一度見てみたくなりました。
ファルハディ監督の最新作ということで、私も楽しみにしていました。
イランといっても、意外なほど私たちの生活と変わらないのですが
登場人物のちょっとした行動や考え方にイスラムの影響が垣間見えて
はっとさせられます。
おそらく規制もあるのでしょうが、全部見せずに想像させるところが
かえってサスペンスとして生きているなーと思いました。
残念ながら都内では渋谷・新宿でしか上映がないのですが
いつか機会がありましたら☆
これ面白そうですよね~。
イラン映画でミステリーとはなかなか見る機会がないだけに、是非見たい作品です!
時間がとれたら劇場に行きたいのですが、長く上映してくれると良いな~。
銀座でやってくれてると助かるんだけど。(>_<)