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また、桜の国で

2017年12月19日 | 

須賀しのぶさんの「革命前夜」が気に入ったので、他の作品も読んでみたくなりました。第2次世界大戦時のポーランドを舞台に、ロシア人の父をもつ日本人外交官の奮闘と運命をドラマティックに描きます。第4回(2016年)高校生直木賞受賞作。

須賀しのぶ「また、桜の国で」

1938年、ロシア人の父をもつ棚倉慎は、外交書記官としてポーランドの日本大使館に着任します。彼にとってポーランドは、少年時代に出会ったポーランド人孤児カミルの記憶につながる大切な国でした。ナチスドイツの台頭とともに戦争への足音が高まる中、慎は母国日本、そしてポーランドの戦争回避に向けて尽力しますが...。

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ショパンの”革命のエチュード”にのせて描かれる、ポーランドを舞台にした歴史小説。史実の中に織り込まれるように展開する物語はフィクションながらリアリティがあり、スリリングな興奮を味わいました。戦争という抗えない運命の中で、ひとりの人間として生きようと奮闘する主人公の姿が心に響きました。

ポーランドがドイツとロシアという2つの強国にはさまれ、過去に何度も過酷な運命にさらされてきたという歴史は多少なりとも理解していましたが、日本とも深いつながりがあったことを、本作を読んで知りました。1920年頃、日本はシベリアで劣悪な環境におかれていたポーランドの戦災孤児たちを受け入れ、しばらく保護していたのです。

慎が少年時代に孤児カミルとすごしたのはほんの数時間。しかし自らのアイデンティティに悩んでいた慎にとって、カミルとの出会いは、その後の彼の生き方を左右するほどの大きな力となったのでした。慎がその後、外交官への道を進み、ポーランドに配属されたことに、運命の不思議を思います。

物語は、ワルシャワに向かう列車の中で出会ったユダヤ人のヤン、日本大使館で働くポーランド人のマジェナ、元戦災孤児でポーランドの地下活動を率いるイエジ、アメリカ人ジャーナリストのレイ、彼が思いを寄せるユダヤ人のハンナなど、さまざまな背景をもつ人たちが登場し、慎の人生と関わっていきます。

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本作を読みながら私が何度も思い出したのは、映画”戦場のピアニスト”。特にワルシャワの重厚な街並みがことごとく破壊される風景は、映画で見たシーンがオーバーラップしました。ドイツの圧倒的な軍事力の前になす術のないポーランド。頼みの綱のイギリスやフランスにも見捨てられ、人々の悲痛な叫びが胸をえぐります。

日本はドイツの同盟国となりますが、慎はポーランドの人たちの信頼を裏切ることができず、イエジたちの地下活動に身を投じ、ポーランドの人々とともに戦う道を選びます。冷静に考えたら、え??という展開ですが、歴史を動かす熱いうねりの中で、慎の決断と行動がごく自然なものとして共感できました。

思えば杉原千畝さん(本作にもちょこっと名前が出てきます)にしても、日本の外交官ではなくひとりの人間として、数多くのユダヤ人たちを救済したのですものね。慎のような気概をもった人がいたとしても不思議ではないかもしれません。

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