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宇宙の歩き方

The Astrogators' Guide to the Charted Space.

宇宙港 ~未知への玄関口~ 第3集:港内施設と宙港街

2022-06-16 | Traveller

 宇宙港はその星の「顔」であるため、ほとんどの港では可能な限り清潔で整然とした状態を保とうと心がけています。例外は鉱石の積み込みのために建てられたような工業港ぐらいです。荒れ果てて整備が行き届いていない港は、訪れるのに危険なだけでなく、その星の政府や経済状況が荒れ果てていると見られます。そのため地元政府も、他の支出を切ってでも宇宙港への財政支援をやめないのですが、その結果、綺麗で効率的な宇宙港と荒廃した下町との間に激しい落差が生じることもありえます。
 訪問客の関心を惹くために何十、何百といった企業が競い合う宇宙港では、広告や呼び込みも派手になる傾向があります。注目を集める色や音だけでなく、人やロボットも時に活用されます。当然、行き過ぎた宣伝行為(客引きなど)は負の感情を呼び起こすので宇宙港当局も規制に乗り出しますが、いつの世もその規制のぎりぎりを攻める業者が最終的に勝つため、よほど厳格な統制が行われない限りは、港内は常に騒々しくも賑やかな様相を呈します。

■商業施設
 Cクラス以上の宇宙港には何らかの商業区画があります。ここで宇宙港で手に入る物やサービスを列挙するのは無理ですし、そもそも意味はありません。なぜなら旅人たちは、今、自分が必要な物があるかないかを知りたいだけなのですから。
 基本的にA・Bクラス宇宙港では、その経済規模と店舗の数ゆえにあらゆる商品(小物から宇宙船まで)を提供できるはずです。簡単に手に入らないのは、あまりに遠方の星で産出されるような稀少品か、違法な物か、レフリーの都合が悪い物ぐらいでしょう。
 逆にDクラスの小規模港では、商店の存在も含めて望む商品があるかどうかは運次第で、大抵はあっても地場産の土産物店程度です。Eクラス港に商店はなく、XT線を越えて街まで出掛けなければなりません。
 Cクラス港はその中間で、星間物流でありふれた商品や地元産品といった入手が容易な物なら手に入れられるでしょう。
 理髪店、修理屋、銀行などのサービス業は港の経済力に左右されます。大規模港には様々な業者が揃っていますが、小規模港では運輸会社の券売所しかないか、もしくはそれすらないかもしれません。
 なお帝国の宇宙港では基本的に関税がかからないため、港内の「免税店」というものもありません。

■宿泊施設
 旅行者が多くの時間を過ごすことになる宿泊施設は、休息と取引と社交と密会と陰謀の場です。多くの宇宙港では乗り換え客やしばらく滞在する人のために宿泊施設が用意されています。そのほとんどは港務局と契約した民間業者によるものです。
 宇宙港内にある宿泊施設は港の雰囲気に応じて様々であり、港の規模に比例して大型化・豪華化していきますが、粗末だが安い宿の需要がなくなるわけでもないので、探せば自分の身の丈に合った宿はきっと見つかります(Dクラス港以下では何もないことが多いので、近隣の街まで向かう必要はありますが)。

 「簡易宿泊所(Hostel)」は最低限の寝床を最低限の値段で提供する場所です。宿泊客は寝台と小さな私物入れ、共同のトイレとシャワーと洗濯機を利用することができます。経営形態によっては個室ではなく四人部屋、それどころか多数の寝台を一つの大部屋に並べてカーテンで仕切っているだけのこともありえます(団体は同じ部屋にしてくれますが、保証はありません)。衛生面などの理由から食事は提供されませんし、外部から持ち込むことも許されません。ただし港内の宿泊所は宙港街の安宿と違ってその衛生面には気を配っており、過度に不潔な人は(警告を経て)返金無しに警備員に追い出されることもあります。宿泊料は1泊10クレジット、1週間で50クレジットが定番です。長期滞在はお勧めできない環境ではありますが、禁止もされていません。また、民間の慈善団体や宗教組織が運営している場合は寄付金で運営されているので、無料か館内清掃の手伝いで宿泊できます。この手の慈善団体は隣接して無料の炊き出しを行っていることも多いのですが、全ての港長が風紀などの理由でこういったことに寛容というわけでもありません(逆に、公然/非公然に資金面等で支援する港長もいます)。

 Cクラス以上の一般的な宇宙港ホテルの一般的な客室には、快適に過ごすための清潔で平凡な調度品と映像投影媒体、通信回線への接続口が備えられています。よく「宇宙港ホテルの客室」と言われるものの9割方がこういった部屋で、特に軌道港では画一的な規格として建設されています。これにより建設期間が短縮され、価格も安価で済むのですが、多くの旅行者は行く先々で出くわす同じような部屋に飽き飽きし、より趣のある部屋を求めるようになります。このような部屋は1泊50クレジットで、1週間以上の滞在で1割引となります。

 宇宙港にいることを忘れるような最高級の部屋となると、豪華な浴室、大きな寝台、壮大な景色(本物か立体映像)、美食を誇るレストラン、様々な娯楽設備、24時間体制のルームサービス(ロボット化されている場合もあり)を備え、非常に広くて快適を極めます。こういった部屋の有無は港の交通量や経済力に左右されますが(主にBクラス港以上)、意外にもDクラス港でも不意の賓客に応対するために「貴賓室」の1つはあることもあります。この手の部屋は1泊250クレジットが最低線で、富裕層向け保養地の超豪華スイートルームともなると青天井です。
 余談になりますが、こういった豪華な部屋は星々を股にかけた詐欺の舞台にもなります。詐欺師たちはえてして、ジャンプ-10ドライブや超光速通信機や大裂溝の貴金属鉱山への投資を呼びかける際に、地元の人々に感銘と説得力を与えるためにここを利用するのです。

 長期滞在者向けの貸し部屋は、一般の賃貸物件を利用するほどでもない、数週間程度宇宙港やその近辺に滞在する必要のある出張者(遠方から派遣された建設現場の監督など)のために用意されています。部屋の広さや備え付けの家具は場所と料金次第で様々で、最低2週間の利用が求められます(早期退出は返金されないこともあります)。

■遊技施設
 賭博事業は宇宙港運営において、多大な利益も問題ももたらします。良い面は、賭博は収益性が高い上に諸経費が安く付きます。悪い面は、莫大な量の現金が動くことで詐欺や窃盗、賭博中毒の温床となることです。しかし、賭博を排除しても結局非合法賭博が開帳されるだけ、という考えもできますし、規制の中で運営される合法賭博の方が安心して遊べるともいえます。実際、合法カジノには「社交界的な」雰囲気があり、警備員によって暴力沙汰も抑止されているのは事実です。
 賭博事業を許可するかどうかは港長の判断次第で、大規模港の5%程度が禁止しています(その半分は軍基地からの要請です)。帝国宇宙港のカジノは全てが民間業者によるもので、その約7割はプロヴァース(Provace)、フィレンツェ(Firenze Ltd.)、シュバルツブッフ・レクリエーションズ(Schwarzbuch Recreations, LIC)といった星間大手遊技企業によって運営されています。なお、現地の法律を尊重するため、賭け事が禁止されている星系の住民は港内カジノを利用することはできません。

■娯楽・飲食施設
 劇場、映画館、水族館、展望台、音楽堂、格闘興行、庭園、美術館、水泳プール……、宇宙港の規模が大きくなり人通りが多くなれば多くなるほど、提供される娯楽も多種多彩となります。また、その星が観光業に力を入れているのなら、宇宙港から観光名所に向かうための旅行代理店や案内所もあることでしょう。
 同様に、飲食施設もDクラス港では軽食・立ち飲み程度だったのが、Aクラス港ともなれば宇宙各地の高級料理を堪能することができます。大衆向けの星間チェーン店も多く、ブリューベック(Brubek's)やアストロバーガー(Astroburgers)は各地の港で見かけます。

■礼拝施設
 ほとんどの大規模港には、数十~百名が収容可能の礼拝施設(通称「チャペル」)が少なくとも2つは用意されています。一つは無宗教で、旅行中に誰でも休憩したり瞑想したりできる簡素で静かな部屋です。もう一つは、様々な宗教の象徴物(もしくは立体映像)を配した部屋で、要望があれば特定の宗教の礼拝所に早変わりできます(※近隣にいれば聖職者も呼び出せます)。
 公共の礼拝施設は港務局が管理していますが、特定の宗教団体が港内の区画を借りて運営することも認められています。このような施設は建前上利潤を生むものではないため、賃料は港長の裁量で減免されることが多いです。その代わり、港内の一等地に置かれることもないでしょう。
 港内の礼拝施設には、他の公共空間とは異なる作法が存在します。中で静寂を破ったり、武器を公然と身に着けることは大変な無作法とされます(世の中には決闘の儀式がある宗派もありますが、それでも他者と同じ場にいる際には作法があります)。また商談や謀議など、精神的・宗教的なこと以外の雑談も無作法とされます。
 礼拝施設は罪人の逃亡先ではなく、もし逃げ込んでも警備員が実力で排除します(が、自首をしに来たのであれば別です)。また、港内で銃撃戦に巻き込まれた際に逃げ込み、自分が「無関係の第三者」であることを表明することもできます。このように非常時には人々が助けを求めてくる傾向があるため、所によっては耐火構造にしたり壁や扉を厚くするなど、安全面の配慮が行われることもあります。
(※『トラベラー』と宗教については後述します)

■求人施設
 全ての宇宙港には、失業中の乗組員と人手を求める船舶を引き合わせるために「斡旋所(Hiring Hall)」があります。Dクラス以下の宇宙港では、求職者が自分の資格や連絡先を載せるための単なる電子掲示板に過ぎませんが、大規模港になるとれっきとした就職案内所になり、その場で求職者が面接を受けることもできますし、帝国商務省から派遣された担当者が労働条件などの相談や苦情を聞いてくれます。
 ただし、多くの世界(特に辺境)では雇用主が零細の独立商人に偏りがちであることに注意が必要です。商船企業は一定の経済規模のある星にしか立ち寄らないからです。
(※ちなみに、技術者の人手不足と離職率の高さはいつの世も変わらないらしく、〈エンジニアリング〉技能持ちは宇宙船と宇宙港の双方で人材の奪い合いが起きているそうです)

■工場
 港務局が自ら工場を設置することはまず考えられませんが、土地を借りた民間業者が港内に、例えば輸出製品の製造工場を置くことはありえます。

■造船所
 恒星間宇宙船や小艇の建造・整備・改装・年次全般検査(オーバーホール)を行う機能を備えた施設です。役割の重複を避けるために造船所はほぼ民営化されており、平時は帝国海軍の軍艦すら民間企業に発注が行われていますが、基地司令官には有事の際に造船所を接収する権限があります。
 ほとんどの造船所は主要世界の周回軌道上(もしくは軌道港内)にありますが、真空の惑星・衛星の地表、または小惑星に置かれていることもあります。建造能力が小艇のみなら、地上港に併設されているかもしれません。

■重要区画
 「重要区画」とは、発電所(核融合・恒星光・風力…等々)、中央通信所、監視施設、管制塔など、そこが失われれば宇宙港の機能が著しく低下しかねない施設のことです。そういった区画は港の他の場所よりも警備が厳重になっています。
 宇宙港の設計段階から、重要区画はまとめて停止しないように分散して置かれる傾向がありますが、初めからテロや軍事攻撃が想定される場合は警備の負担を和らげるために集中されることもあります。

■通信回線
 帝国の宇宙港内には通常、地元の通信網に接続するための公共端末が(少額料金で)提供されています。これらの端末は普通はコンピュータを兼ねていますが、低技術世界では昔ながらの公衆電話に置き換えられています。
 ちなみに宇宙港内部の通信回線はこの公共回線とは別系統になっていて、公共端末で今いる宇宙港に関する様々な基本情報は得られても、内部の機密情報を直接見ることはできません。なお港務局職員は、基本的にTL10以上の無線機器で常に連絡を取り合っています。

■XT線
第7条 帝国領における治外法権
 帝国に譲渡された宇宙港および領土の統治と運営は、帝国に留保される。このような領土と加盟星系との間の物体および知的生命の移動は、その移動を管轄する帝国法に従い、加盟星系によって制御されるものではない。そしてこのような領土は加盟星系の管轄からも除外されるものとし、いかなる物体および知的生命も、その領土を管轄する帝国当局の明確な同意なしに立ち入ってはならない。
――帝国暦0年001日、「建国の勅令」より

 治外法権(extraterritoriality、略してXT)とは、主権国家内のとある場所が法律上他国の領土である、という概念です。大使館とその敷地が最たる例ですが、宇宙港の境界線内でも同様にその惑星の法律ではなく帝国法が取って代わります。
 その境界線(XT線)を表すものは、友好的な世界では簡易的なフェンスで事足りますが、そうでない世界では厳重に警戒された巨壁となるかもしれません。いずれにせよ、XT線は港長にとって最も複雑で頭を悩ませる問題の種です。
 もしも帝国と地元政府との間に政治的な摩擦が加熱したなら、港長には経済封鎖という奥の手があります。自らの権限で宇宙港を閉鎖して旅客や物流を止めることで、帝国市民が紛争に巻き込まれるのを抑止したり、武器類の流入を阻止したりするのです。ただしこれは同時に食料など生活必需品も滞ることになり、住民はおろか宇宙港職員も危険に晒すため、滅多に行使されません。そしてそれでも関係の悪化が止まらない場合は、港長は最後の手段として海兵隊の出動を要請することとなります。

 帝国への亡命を希望するなら、単にフェンスを掴んで「保護を!」と叫ぶだけでは不十分で、実際にXT線を越えなくてはなりません。港の警備員は、地元当局に追われている亡命者がこちらに向かって発砲でもしてこない限り、亡命の邪魔をすることはまずありません。ただし、亡命が受け入れられるかは帝国の判断次第であり、地元当局に引き渡される可能性も十分あります。治外法権の概念は、各宇宙港が帝国文明の前哨基地となるためのもので、少なくとも(帝国法上の)犯罪者を匿うためのものではないのです。

「クレオン・ズナスツによる帝国建国から1000年以上経った今、我々は彼が帝国を成功させるために行った小さな事を見逃しがちである。例えば星系への不干渉原則、そして宇宙港の治外法権のような些細な事を。この2つを併せ、私は『クレオン・ドクトリン』と呼びたい」
「彼の天才性は、世界の統治をその世界の住民に任せると同時に、各世界に帝国の存在を確保する方法を編み出したことだ。クレオンは、自由放任主義と父権主義を両立させる方法を見出したのだ」
――ノリス・イーラ・アレドン公爵
聖リジャイナ大学での講演より

 治外法権の原則は第一帝国の時代にまで遡りますが、その教訓はクレオン1世にも受け継がれていました。恒星間国家では貨物が目的地まで複数の星系を経由して運ばれるものですが、もし経由地ごとに関税が課されることを許していては、最終価格が莫大なものになってしまいます。そのため宇宙港は「自由貿易特区」である必要があり、更にこの関税停止権が、地方自治権を例外的に無視するための法的根拠となったのです。
 この治外法権は貿易以外の問題でも有用であることが示されています。いざという時に地元住民が帝国の庇護を求める亡命先になりますし、人道支援団体が安全な活動拠点を確保することができます。帝国企業が星系政府の干渉を受けずに商売を行うことで、その星系への影響力を高めるだけでなく、宇宙規模の視点で活動を調整することができます。そして、帝国当局の秘密諜報活動もよりやりやすくなるのです。

 他国の大使館もXT線内に設置される傾向があります。特にスピンワード・マーチ宙域でのゾダーン大使館に顕著で、これは帝国市民の過去の辺境戦争の記憶や超能力に対する偏見から、大使館職員の安全を気遣っての措置です。

■港内での武器所持について
 帝国では熱核兵器と生物兵器以外の武器は誰でも所有することができるので、理屈の上ではXT線の帝国側の治安レベルは実質1です。しかしながら、国営施設内での武器所持は禁止されています。宇宙港やその関連施設内では(軌道港では特に)厳格な管理が行われていますが(治安レベル7~9相当)、例外は存在します。宇宙船に搭載された各種兵器は当然問題ありませんし、荷物として適切に梱包された武器も同じですが、それは特定の重要施設や公共空間には持ち込めない決まりです。もちろん爆発物は厳禁です。違反があれば武器を没収された上で退去処分となりますし、その情報が共有されて今後は各地の税関でより厳しい検査が行われるようになります。
(※護身用の拳銃や短剣の所持が仮に許可されていても、常に鞘に入れ、周囲からそれが見えるようにして携帯しなくてはなりません)
 一方で、港長は独自に治安レベルを引き下げる裁量を持っています。例えば、地上港の屋外空間でのみ治安レベルを地元星系と揃えて、武器類の港外との搬出搬入時に無駄な確認作業を省くことができます。誰もが銃器を常時携帯しているような星系、もしくは警備員の手が足りない小規模港では、公共空間の治安レベルを下げることもあります(仮に発砲があれば警備員が即座に制圧できるようにはしていますが、誰が騒動の発端で誰が善意の加勢者かを識別するのは厄介です)。

■宙港街
 「宙港街(Startown)」とは宇宙港近辺にある特殊な街区の総称で、安宿や薄汚れた酒場、違法賭博場、怪しい店舗などがあり、地元社会にも港にも属さないが双方に関わる人々、つまり失業中の乗組員や港湾労働者、小悪党や詐欺師、売春婦、逃亡者、各方面に顔が利くと称する者、はたまた彼らを食い物にする元締めなどが巣食っています。ここでは多額の現金を持ち歩きがちな旅行者を狙った商売や犯罪が広く営まれていますが、旅行者にしか需要のなさそうな商い(例えば旅人特有の病気を診る医師)や、仮に合法であっても地元では後ろめたい職種(身体改造など)もここに店を構えます。その独特の雰囲気は、旅行者のみならず地元住民にとっても「刺激的な」街と見られています。それゆえに宙港街は、噂や情報を得たり、仕事を見つけたり、人材を確保したりするのに適した場です。
 宙港街、という(蔑称めいた)一般名詞は星間旅行や貿易に関わる人なら誰でも知っているものですが、当然そこには地元住民から呼ばれる地名もあります。多くの場合、それは宙港街の成立、時には港の建設前からあるもので、皮肉なことに遥か昔に過ぎ去った華麗なる理想――キャッスルヒル、パークサイド、シルバーグローブ等々――を表していることも多いです。そして住民が「本当の名前」で呼ぶことにこだわるのは、醜い現状を認めたくないか、酒場での喧嘩の口実を求めているかです。

 ほとんどの星系政府は宙港街を俗悪と考えていますが、治安当局がよほどの弾圧でもしない限り自然発生するのが宙港街というものです。賢明な政治家や港長なら、人々が文化を越えて移動する(つまり帝国から地元へ、またはその逆)際に必要な「玄関口」の機能を果たしているのを理解しています。
 意外にも宙港街は宇宙港に隣接しているとは限りません。外世界での風聞や体裁を気にした星系政府が宇宙港から見える範囲の「いかがわしい店」を徹底して排除した結果、数キロメートル先に宙港街が成立することもあります。他に、宇宙港の隣にその星唯一の集落があるような場合、街全体は宙港街にはなりませんが、それでも一本の通りだけが独特の空気感を漂わせたりするのです。
 港務局が望まずしてXT線内もしくは線を跨ぐように宙港街が発展していることもあります。理由としては、港務局が既存宇宙港を引き継いだ時点で街が存在していたか、地元政府が宙港街の成立を帝国の責任にして押し付けたことが考えられます(※他に、宇宙港の拡張で宙港街が取り込まれたとか、何らかの理由で巨大港の一部がスラム化したとか色々あるでしょう)。こういった宙港街には地元政府の法律がもちろん一切及ばない上に、帝国法は元々必要最小限のものしかないため、ここを訪れるには細心の注意と度胸と交渉力が必要となります。また、こういった港での税関や警備部の職員は、交通や物流の規制などで大きな課題に直面しています。

 ほとんどの星系政府は、宙港街については「見て見ぬ振り」をする傾向があります。そこで行われる数々の悲喜劇は自己責任や自業自得で済ませ、悪影響が「自分たち」に広がらないよう願っています(所によっては隔離措置も行われます)。しかし、宙港街の悪印象は誇張されて伝わっていることも多いです。確かに宙港街の犯罪発生率が特に高いのは事実ですが、そもそも多くの住民は強盗される価値もないほど貧しいのです。そしてあまりに犯罪が横行すると、いつかは地元政府が法律を盾に介入してくることを弁えています。
 宙港街の中に警察署がある所もあります(が、民間警備会社や傭兵部隊に丸投げされていることも少なくありません)。愚かな旅行者を救ったり、目に余る犯罪行為を止める立場ではありますが、多くの警官が低賃金と過重労働に喘いでおり、賄賂が通用しやすい環境にあります。その結果、警察署の前で堂々と違法行為が行われることも珍しくありません(と言っても、盗品売買など非暴力なものに限られますが)。
 宙港街の外の地元警察は多勢に無勢なのがわかっているので、よほど重要な任務がない限りは突入を避けます。逃げ込んだ指名手配犯の追跡は基本的にプロの賞金稼ぎ(バウンティハンター)に委ねられ、彼らは危険に見合った報酬を得ているのですが、標的がよほど住民に見放されていない限り、賞金稼ぎが宙港街で歓迎されることはないでしょう。
 近くに軍事基地がある宙港街では憲兵による巡回もよく見かける光景ですが、これは治安維持のためではなく、羽目を外した非番の兵士が門限を破らないように見張っているのです。
 一方で「小綺麗な」宙港街も存在します。高治安星系では思想や活動の多様性に不寛容であることも多く、宇宙港を出入りする余所者もその同類とみなされます。そういった星の宙港街には、宇宙港で働いたり地元社会で異端視されたりしている人々が流れ着きます。住民の多くは底辺層ではなく労働者層で、可能な限り町を整えています。裏社会が生じやすいのは同じですが、他に行き場がないことと「町衆の誇り」があるので、怪しい輩の存在を少なく抑えています。こういった街区は「星見町(Starview)」や「港村(Down Village)」と呼ばれていて、一般的な宙港街とは区別されます。

 ほとんどの世界の市民は、地元の宙港街で営まれている不適切な商業活動の大きさを認めたがらないでしょうが(そもそも地下経済を正確に測れてもいません)、どうしても社会には必ず闇が生ずるものです。現実として多くの帝国世界は、農業、工業、鉱業、製造業など何らかの経済活動に特化しているので、とある商品は余り、別の商品は不足することがよくあります。星間市場は無数の文化の集合体なので想像しうる限りの商品が存在しますが、その大部分を「自分たちの文化では不要・不適切な物」としていることもよくあります。
 つまり、ほとんどの世界では欲しい物が作られていないか、欲しくても手に入れられないのです。これを埋めるのが宙港街です。一般商店には公に並んでいない品物が、宙港街に行けば価格はともかく無数に存在するのです。ただし、宙港街での商品取引は一般的なものよりかなり難しいです。まず欲しい物の売り主を(〈交渉〉や〈接触〉で)探さねばなりませんし、物によっては下手をすれば警察の注意を引きます。そして売り主と接触できたとしても、定価の3倍程度から(〈交渉〉や〈貿易〉での)価格交渉が始まります。
 一般的に地下経済は犯罪組織によって統御されています。もし旅人が彼らの顧客を害したり、彼らを騙そうとすれば、強大な敵となるのは間違いないでしょう。逆に、十分な度胸を持って道徳心を脇に置けば、「コスモス・ノストラ(cosmos nostra)」の歓心を得る仕事を見つけることもできるでしょう(その代わり、警察や港務局や税関が敵となります)。


【付録:『トラベラー』と宗教についての考察】
 元々がSFゲームであり、これまで主に星系の雰囲気作りのために設定が起こされたこともあってか、〈第三帝国〉における宗教というものはほとんどが星系規模の域を出ていません。宇宙を旅するような帝国人はあまり信心深くなさそうだ、というのが推察できますが、宙域規模以上の宗教となると、GDW時代は「星神教会(Church of the Stellar Divinity)」が唯一と言ってもいい存在でした(※星域規模でも『黄昏の峰へ』の「八角教団(Octagon society)」ぐらいでしょうか、絶えてしまいましたが)。
 その後、マングース社の『Supplement 15: Powers and Principalities』(2014年)で宗教設定が大量に紹介されたのですが、これはBITS(British Isles Traveller Support)の『101 Religions』(1998年)の合本再販であり、扱いとしてはほぼ同人誌です(実際、後の設定に影響を与えていません)。加えて、これは、元々『Marc Miller's Traveller(T4)』の「帝国暦0年(Milieu 0)」用の設定集であり、帝国暦1105年で使うには鵜呑みはできません(その調整すらやらない当時のマングース社の姿勢も問題ですが…)。この資料からは「シレア教会(Church of Sylea)」(とその分派)の設定が使えそうではあるのですが、千年後に全帝国規模でシレア教会が信仰されているかどうかは考えものです(少なくとも公式設定に昇格はしていません)。ちなみにこのシレア教会は、シレア人が信仰する「道の書(マール・キ・ゾン)」とは別で、テラ起源の宗教(おそらくキリスト教)の末裔らしいです
 結局のところ、宗教がシナリオに絡むなら自作する(公式設定との整合性が気になるなら星域規模までに留める)、絡まないなら適当に済ます、というのが当面の結論となりそうです。
 ちなみに、ソロマニ連合ではソロマニ主義の影響で信心深い人が多いらしいです。様々な宗教団体が(それも小国規模すら)ありますが、中でもソロマニ・カトリック教会(Solomani Catholic Church)は、ソロマニ圏の帝国側にも伝道されていそうな教団です。


【ライブラリ・データ】
ブリューベック Brubek's
 ソロマニ圏を中心に、主にA・Bクラス宇宙港(稀にCクラスも)に数百店舗を展開するチェーン酒場です。帝国外ではソード・ワールズ領内に20店があります。どの店も間取りや内装は「古き良き」テラ様式で統一されていて(人通りの多い店舗は拡張されることがありますが)、従業員もソロマニ人を優先的に雇用していますが、これは内規があるわけではなく単に店の雰囲気に合うのがソロマニ人だからです。
 ブリューベックは自社でビールを醸造しており、熱心な常連客が付いています(むしろ常連客しかいないと言っても過言ではありません)。人気メニューはハンバーガー、皮付きフライドポテト、オニオンリングといったところで、サラダもありますがあまり売れていないようです。客層はソロマニ人が主体ですが、他の人類や(赤身肉目当ての)ヴァルグルも出入りしています。
 宇宙港酒場にありがちな「乱闘」はここでは御法度です。従業員につまみ出されるなら運がいい方で、常連客から袋叩きにされても文句は言えません。この落ち着いた雰囲気ゆえに、常連客との出会いや人脈作りに最適な場となっていますし、バーテンダーから噂話を聞き出すのもやりやすいのです。
(※原文では、出店先の半分は「Solomani space」とあります。普通に解釈すれば「ソロマニ領」となりますが、帝国企業(もしくは帝国に展開している企業)がソロマニ領内に支店を持っていることは、ソロマニ/ソラー運輸やSuSAG社の例を見ても明らかなようにかなりの禁忌とされています。よって、意図的に「ソロマニ圏」と曲解することで整合性を取りました)

アストロバーガー Astroburgers
 帝国はおろか、既知宇宙最大のファストフード店と言われているのがこのアストロバーガーです。歴代の経営者たちは派手で節操のない広告宣伝と、それに相応しい低価格戦略で(なぜか)大成功を収め、数万店舗に及ぶ今の地位を築き上げました。今では「コルセアバーガー」の商標でヴァルグル諸国にも展開しています。
 また巨大飲食企業の例に漏れず、アストロバーガーも食品産業に進出しています。意外にもその投資計画は倫理的で、弱小な農産業に多額の資金を投入して作物の安定供給を実現しているのです。農場に同社の巨大で恥ずかしい看板を掲げることは、零細農家にとっては土地を守ってきちんとした生活を送ることと相殺されているようです。

道の書 Maar Ki Zon
 現在では省略されてマール・ゾンと呼ばれる『道の書(マール・キ・ゾン)』は、偽書との指摘がありながらもシレア文化の復興に重要な役割を果たした哲学書であり、聖典です。-1866年にシレア(現在のキャピタル)で発見されたこの『道の書』は、ヴィラニ人との接触前の古代王国の宗教に関する書物と思われました。これが当時のシレア語に訳されて出版されると民族主義者の間で大いに広まり、シレア人の間に『道の書』の戒律に従った宗教運動が勃興しました。
 『道の書』はある哲学者の教えと考えられていますが、それが誰なのかは歴史記録が存在せず、謎となっています。『道の書』は全ての人類を霊的に平等な存在と捉え、来世よりも現世を重んじて倫理的な生活を送ることを説いています。『道の書』の信者は「ラン・キ・ゾン(求道者)」と呼ばれ、創造神が宇宙を創造した理由を求めるために高い意識を目指しています。
 敬虔な信者は質素倹約に努め、毎日祈りを捧げ、酒類を断ち、貞操を守り、収入の一部を慈善団体に寄付しなくてはなりません。また、利子を取ることを禁じない一方で「知的財産」から利潤を得ることを禁じています(※ヴィラニ人による搾取的な知財法の反動と考えられています)。暗黒時代には何の問題もなかったこれらの戒律ですが、現在の帝国では古臭く窮屈に思われているのは否めません。そもそも彼らは、非シレア人の改宗にかなり消極的です。

ソロマニ・カトリック教会 Solomani Catholic Church
 トリノ(アルファ・クルーシス宙域 0630)発祥で、現在はアミアン(同 0731)を総本山としている教団です。有名なのはトリノの観光名所にもなっている12基の空中聖堂ですが、一方で彼らはアミアンでは意図的にTL4の質素清貧な生活を送っています。
 元々トリノ星系は、恒星間戦争時代に異星種族の救済を巡る考えの違いからバチカンと袂を分かったカトリック信者が入植してきた星系で、暗黒時代の間にその教義はより強固となって「トリノ教会(Turin Church)」という独自の宗派となりました。
 その後この地域へのソロマニ主義の浸透によって、トリノ教会の人類優越主義宗派であるこのソロマニ・カトリック教会が帝国暦700年代から台頭し、「新ソロマニ聖書(New Solomani Bible)」を掲げてソロマニ圏各地で布教活動や政治的関与を強めています。
(※ちなみにトリノ教会とバチカンは数百年前に和解しており、教義の違いはそれほどないそうです(ローマ・カトリックの方がソロマニ主義に染まったのかもしれませんが…))
(※トリノ教会の分派で最も過激なのが暗黒時代末期に成立した「ファーストクロス教会(Church of the First Cross)」とされていて、ソロマニ人を至上とする教義と強引な改宗で悪名高いです(傭兵ならぬ僧兵部隊すら抱えていて、帝国政府がこれをテロ組織に指定するほど)。このことからソロマニ・カトリックの教義はあくまで「人類のみが神の子である」止まりと思われます)


【参考文献】
・Solomani & Aslan (Digest Group Publications)
・GURPS Traveller: Starports (Steve Jackson Games)
・GURPS Traveller: Humaniti (Steve Jackson Games)
・Starports (Mongoose Publishing)
・Supplement 15: Powers and Principalities (Mongoose Publishing)
・Referees Briefing 3: Going Portside (Mongoose Publishing)
・Solomani Front (Mongoose Publishing)

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