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【米軍・自衛隊】「トモダチ作戦」の日常化へ――災害救助への米軍活用を批判する

2011年07月28日 | 米軍・自衛隊
1.はじめに

 去る6月21日に日米両政府間で行われた2プラス2の合意文書には、普天間飛行場の辺野古移設の確認のほか、様々な論点が含まれている。なかでも、あまり注目されていないが、「東日本大震災への対応における協力」という文書には、防災における在日米軍と地方自治体の連携を追求することが明記された点は、見過ごすことのできない問題をはらんでいる。

2プラス2文書にある在日米軍と地方自治体との連携に関する言及は次の通りである。

閣僚は、地方公共団体によって実施される防災訓練への米軍の参加が、米軍及び基地を受け入れているコミュニティとの間の関係の強化に資するとの認識を共有した。

 この文言は「辺野古」に比べれば、さほど重要ではないと思われるかもしれない。また、震災での米軍による「トモダチ作戦」を経た現在においては、むしろ歓迎する声もあるかもしれない。

 実際、横浜市は5月10日に、8月に行う市総合防災訓練の一部を上瀬谷通信施設で行い、厚木基地が参加することを発表した(神奈川新聞5月10日付http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110510-00000052-kana-l14。また、すでに東京都では2001年から毎年、都総合防災訓練を横田基地と連携して行っている。

 しかし、本来戦争に使われるはずの軍隊が、自然災害の場面で登場することに対する議論が十分になされていないように思われる。特に今回の「トモダチ作戦」については賞賛の声が大多数だが、その実情を見ていくと、「救世主」となった米軍の違った側面が見えてくる。


2.「トモダチ作戦」の実態


 一般にメディアで取り上げられた「トモダチ作戦」の姿は、「救世主」そのものであった。行方不明者の捜索・被災地域への援助物資輸送・被災地の復旧活動(瓦礫の除去・給水活動など)・福島第一原子力発電所の事故への対応など、さまざまな活動を展開した。とりわけ注目されたのは、JR仙石線野蒜(のびる)駅と陸前小野駅の瓦礫除去作業を陸上自衛隊と共同で行った「ソウル・トレイン」作戦
(http://www.stripes.com/news/pacific/earthquake-disaster-in-japan/u-s-troops-restore-a-train-station-one-dirt-pile-at-a-time-1.141862)、孤立状態となった気仙沼市・大島に沖縄の第31海兵遠征隊の部隊が上陸用舟艇(LCU)を使って上陸し、東北電力の電源車などを陸揚げした活動である
http://www.asagumo-news.com/news/201104/110419/11041901.html
 これらの事例を各メディアが大きく報道したこともあり、日本社会において在日米軍に対する感謝の念が生まれてきたのは想像に難くない。しかしながら、震災当時の在日米軍全体の動きからは、軍隊の本質が見え隠れする。

 在日米軍は福島原発事故後の3月17日に原子力災害「フェーズ1」を発動し、一部軍人、家族、艦船を安全地帯に移す対応をとった。結果、個人的な脱出を含めると1万人以上の米軍家族が日本から脱出した(石川巌「トモダチ作戦の裏側」、『軍事研究』2011年6月号)。
 重要なのは、「日本を守る」ためにいるとされる在日米軍の主力がことごとく被災地から離れていったことである。横須賀基地を母港とする原子力空母ジョージ・ワシントンは、メンテナンスの最中であったにも関わらず、3月21日に横須賀を出港し、4月5日に佐世保基地に退避した。佐世保基地やホワイトビーチにはその他にも、イージス駆逐艦3隻、補給艦など4隻が原発事故を受けて入港した。また、三沢基地のF-16は韓国へ、厚木基地のFA-18ホーネットはグアムに散開した(同上)。
 もちろん、ある一定の人員(約1万6千人)は「トモダチ作戦」に参加しているが、その内容も日本の市民を守ることを第一にしていたかどうかは疑わしい。例えば、4月1~3日に岩手沿岸で行われた日米共同の一斉遺体捜索に参加した海自隊員によると、「米軍は空母から艦載機やヘリを飛ばすだけで、潜水して不明者を捜索するのは海自の水中処分隊と海保、消防、警察のダイバー」であり、「津波から三週間が過ぎたから、ヘリからの捜索に意味はほとんどなかった」という(「米軍『トモダチ作戦』の代償は『友情の請求書』」、『週刊ポスト』2011年4月29日号)。そしてそもそも、米原子力規制委員会の基準で米軍の活動は福島原発から80キロ以上の範囲と制限されていたのである。

 ここから分かるのは、彼らにとって日本の市民を守ることではなく、放射能の危険を回避し、“First to Fight”(水島朝穂)を維持することが第一の行動原理なのである。ある意味ではこれが軍隊として当然の選択であろう。放射能に汚染されて最新鋭の装備が使えなくなること、災害救助に気をとられて東アジアにおけるプレゼンスに穴を開けることは彼らには許されざることなのである。
 「本番」の「トモダチ作戦」で米軍がこのような姿勢で臨んでいるならば、防災訓練でも当然、「本番」と同じように自治体住民を守ることを第一の目的とはしないであろう。それでは、わざわざ米軍が災害救助に関与しようとする目的は何であろうか。


3.災害派遣の政治利用

 第一に、災害派遣を通じて自らの存在の正当性を確保する目的が挙げられよう。とりわけこの間では、ケビン・メア国務省日本部長が沖縄に対する差別発言で沖縄県議会の全会一致の抗議決議が挙げられるなど、政権交代以降の日米同盟の「揺らぎ」が「トモダチ作戦」の背景にあったと思われる。
 例えば、「トモダチ作戦」開始以降、在日米海兵隊が自らのHPで、災害派遣において海兵隊の重要性が証明されたと強調している。特に普天間飛行場の「地理的優位性」を前面に押し出している。これは沖縄国際大学の佐藤学教授が「結局、援助する相手が独立国なら、一方的に行かないわけで、今回も在沖海兵隊の出動までに地震発生から3日かかった。1,2時間を争うかのように海兵隊の対応が強調されているが、迅速性について普天間飛行場の場所が決定的に重要でないことが逆に証明された」と話すように、現実とはかけ離れているhttp://ryukyushimpo.jp/news/storyid-174865-storytopic-3.html。つまり、「こじつけ」によって政治的に自らの存在をアピールすることありきの議論なのである。
 そして災害派遣の政治利用は、基地被害に苦しむ沖縄などの基地所在地の住民を孤立させる恐れがある。「米軍の『トモダチ作戦』に対する大手マスコミの論調からは、大会(昨年4月25日の県民大会・著者注)で示したように『重すぎる基地負担はいらない』と主張しづらい世論が生まれている」(翁長那覇市長)のである((https://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-04-25_17031/)。基地が所在する地域とそうでない地域との対立を温存・強化する結果となり、基地問題の解決への道のりを遠ざけることになる。その意味でも、災害救助の政治利用には厳しい目を向けていかなければならない。


4.有事態勢の構築

 第二に挙げられるのは、有事(戦争)のための態勢を構築する目的である。その中でも①自衛隊と米軍の軍事協力の強化②自治体の後方支援強化の二点に分けて考えることができる。

 ①自衛隊と米軍の軍事協力の強化という点では、今回の災害救助で、武力攻撃事態の有事メカニズムを援用して自衛隊が「災統合任務部隊」を立ち上げるとともに、米軍が「統合支援部隊」を立ち上げ、陸海空軍・海兵隊を一元的に指揮した。そこに陸上幕僚監部の防衛部長が常駐したことで日米防衛協力の指針(ガイドライン)に基づく日米調整メカニズムが全面的に運用されたのであった(水島朝穂「史上最大の災害派遣」、『世界』11年7月号)。
 すでに東京都総合防災訓練では、医療搬送を想定し、在日米海軍保有の揚陸艦への陸上自衛隊ヘリの着艦訓練を実施したり、在日米軍を含め訓練参加機関が全て参加する航空統制会議を開催し、陸上自衛隊による統一的な航空統制のもと、訓練を実施するなど、建前は災害救助としながらも、日米の軍事協力を進めている(東京都防災ホームページhttp://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/training.html

 ②自治体の後方支援強化という面では、空港や港湾などの使用が重要となる。今回の震災でも仙台空港が米軍の使用に開かれ、「キャンプ・センダイ」とも呼ばれていた。各地の民間空港や港湾へのアクセスは米軍の活動領域を広げることにつながるため、1997年の新ガイドライン締結以降、アメリカは日本の空港・港湾の使用を求めてきた。実際に米艦船の民間港への寄港、米軍機の民間空港への着陸は着実に行われてきている。
しかし、今回の仙台空港で初めて空港の自由使用が可能になったように、一定の制約がかかっている。特にそれらの管理権は自治体首長が持っているため、自治体との協力関係を構築することが重要であった。すでに有事法制の制定を通じて、有事の際には米軍や自衛隊の空港や港湾の優先使用を内閣総理大臣が要請し、要請を拒否した場合は直接執行(強制使用)も可能になっている。とはいえ、平時からアクセスを確保しておくため、自治体との防災訓練において、また訓練を通じた関係強化の上で、また空港や港湾の自由使用を実現していくことが目指されているのではないだろうか。同時に当然、その他の自治体の資源を米軍の作戦に活用できるように訓練していく意味合いもあろう。


5.おわりに

 以上見てきたように、自治体の防災訓練への米軍の参加は、軍事の論理を社会に浸透させていく危険性をはらんでいる。「トモダチ作戦」で市民の救助よりも“First to Fight”の維持を第一に考えていた米軍は、同じ論理で行動することは間違いない。それは災害救助を通じた自らの正当性確保、そして自衛隊や自治体との連携強化という狙いを持っている。
確かに実際に救助された人にとって、感謝の念が生まれてくることは当然のことであろう。個々の米兵のレベルで懸命に救助にあたっていることは事実である。しかしながら、米軍という軍隊全体の持つ狙いは、それら個々のエピソードを超えた非常に政治的なものである。沖縄戦の教訓からすれば、「軍隊は住民を守らない」。沖縄戦では、自らを守ってくれると思っていた日本軍が住民虐殺を行い、「集団自決」へと追い込んでいった。日本軍はあくまで国体護持を目的にしていたのであり、その結果日本軍と行動をともにしていた住民達が米軍捕虜になって情報を漏洩しないために、住民を殺したのである。
私たちは、軍隊というものをその本質から捉え、一つひとつの事象を分析し、批判をしていかなければ、基地被害に苦しむ地域を孤立させ、ひいては自らの地域に軍事の論理が浸透していくことを防ぐことができないのである。

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