「さなぎの家」でお茶を飲んでたら、
五十がらみの眼光鋭いおじさんが前に座った。
「ねえさん、このへんに住んでるのか?」
私はねえさんどころか、ばあさんと呼ばれても
仕方のない歳なのだが、ここの男達は女性に対する
礼儀を心得ているらしい。
「うん、ここから歩いて20分くらいのとこ」
「そうか。なんか仕事してんの?」
「まあ、少々」
「どんな仕事?」
「机に座って、ちょっと文章を書いたりとか……」
「簿記か?」
「……そんなものかな」
「そうか……。なあ、ねえさん、俺と文通しないか}
「文通って……どんな手紙書いてくれるの?」
「おれはずっとカジノで働いてきたんだ。
トランプの“手”が透けて見えるんだよ。
じつは神様なんだ」
「神様……」
「それをちゃんと書き残しておきたいと思ってさ」
「おにいさんの仕事は、ギャンブル? パチンコとか
競馬とか競輪もやるの?」
「いや、カジノのカードだよ、俺は。
競馬とか競輪は、ノミ屋の胴元もやったけど、
おれはやっぱり神様だからな、カードだよ。
新宿の歌舞伎町で生まれて、それからずっと。
フィリピンなんかも行ったけどな。
敗けたことないから」
神様は勝っても貯金なんかしなかったらしい。
「ねえさん、読んでくれるか、俺の手紙」
「はい、読ませてもらいましょう」
「感想、くれよ」
「はい、必ず」
というわけで、「さなぎの家」経由で文通することになり、
彼と私はお互いの名前を書いた紙を交換した。
彼の名前の上には、しっかり「神様」と肩書きがついていた。
私はこの文通によって、カード賭博の神髄を知ることになるらしい。
ああ、海が見たいなあ……。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/df/0ae20bc48ebf186c68761cd2f85bf94a.jpg)
五十がらみの眼光鋭いおじさんが前に座った。
「ねえさん、このへんに住んでるのか?」
私はねえさんどころか、ばあさんと呼ばれても
仕方のない歳なのだが、ここの男達は女性に対する
礼儀を心得ているらしい。
「うん、ここから歩いて20分くらいのとこ」
「そうか。なんか仕事してんの?」
「まあ、少々」
「どんな仕事?」
「机に座って、ちょっと文章を書いたりとか……」
「簿記か?」
「……そんなものかな」
「そうか……。なあ、ねえさん、俺と文通しないか}
「文通って……どんな手紙書いてくれるの?」
「おれはずっとカジノで働いてきたんだ。
トランプの“手”が透けて見えるんだよ。
じつは神様なんだ」
「神様……」
「それをちゃんと書き残しておきたいと思ってさ」
「おにいさんの仕事は、ギャンブル? パチンコとか
競馬とか競輪もやるの?」
「いや、カジノのカードだよ、俺は。
競馬とか競輪は、ノミ屋の胴元もやったけど、
おれはやっぱり神様だからな、カードだよ。
新宿の歌舞伎町で生まれて、それからずっと。
フィリピンなんかも行ったけどな。
敗けたことないから」
神様は勝っても貯金なんかしなかったらしい。
「ねえさん、読んでくれるか、俺の手紙」
「はい、読ませてもらいましょう」
「感想、くれよ」
「はい、必ず」
というわけで、「さなぎの家」経由で文通することになり、
彼と私はお互いの名前を書いた紙を交換した。
彼の名前の上には、しっかり「神様」と肩書きがついていた。
私はこの文通によって、カード賭博の神髄を知ることになるらしい。
ああ、海が見たいなあ……。
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