NPO法人さなぎ達ブログ

横浜市寿地区や近隣地域を中心に社会的生きづらさを抱えている人々を対象としながら活動を行っているNPO法人です。

寿で、最新の簡易宿泊所に泊まってみた。

2012年06月07日 | ふらここ
 私が初めて寿町へ行ったのは、たしか2003年の終わり頃だった。
 ボランティアではない。あくまで「ドヤ街」というものへの好奇心だった。
 その好奇心は当然、「ここに泊まってみなければ」というところに及ぶ。
 しかし、好奇心で一泊二泊するのは、そう簡単なことではない。
 ヨコハマ・ホステルビレッジのように旅行客を相手にしているところは
別だが、簡易宿泊所といえば基本は長期滞在だ。
 つまり、フリの客はすんなり泊めてもらえない。ましてや私は一応、女。
 なにかトラブルが起きたら困ると、まず敬遠される。

 そこでNPOさなぎ達というコネを使い、二泊させてもらえるよう、
取りはからってもらった。まだ寒い冬の終わり頃だったと思う。

 H荘という古いそのホテルは、もちろんエレベーターなんかなかった。
 何階だったか忘れたが、私は電気あんかを入れたキャリーバッグを
引きずり、階段を上がった。
 ロビーに入った時から感じていたことだが、臭いが凄い。
 それが廊下にも、部屋にも充満していた。
 なにが原因なのかはわからないが、決して心地よい臭いではない。
 おそらくは、体臭、煙草、消毒薬などが入り交じったものだろう。

 部屋は二畳くらいの畳敷きだった。新聞紙片面ほどの三和土(たたき)
があり、そこで履き物を脱ぐ。
 小さなテレビと畳んだ布団があった。壁もその布団も染みだらけ。
 いったい何人が、この部屋で、この布団で死んだのかと、
いやな想像をせずにはいられなかった。
 窓を開けると、手を伸ばせば届く距離に隣のドヤの窓。
 夏でも締め切るほかない。
 薄い敷き布団と掛け布団、枕はあるが、シーツも枕カバーもない。
 切羽詰まった状況になれば別だが、そこまで追い詰められていない
私は、とてもこの布団で寝る気にはなれなかった。
 「さなぎ達」の人にシーツと枕カバーの調達をお願いし、
臭いに耐えながら、二泊三日を過ごしたのだ。
 たしか一泊1800円だったように思う。

 が、最近は寿町の高齢化を見越して、新しく建てられた
簡易宿泊所はバリアフリーの介護型に変化しつつあると聞いた。
 そこでどう変わったのか知りたくて、おととしできたばかりの
扇荘別館へ一泊。
 もちろんこれもコネを使って。

 扇荘別館(手前)。玄関の脇には椅子やテーブルを置いた
庭があり、いつも数人がそこで憩っている。


 自動販売機のあるロビーは、狭いけど明るい雰囲気。
 廊下もすっきりしていて、ごみひとつ落ちていない。


 だけどエレベーターの脇にはこんな表示も。
 「夜中に徘徊する人がいるかもしれないよ」
 とフロントで言われた。(実際にはそんなこともなかったけど)
 ちなみに、「両隣は女性」とのこと。


 部屋は三畳強くらい。板張り。とてもきれいに掃除されている。
 テレビ、冷蔵庫、エアコン、スチールの棚、非常用の押しボタンあり。
 シーツ、枕カバー付き。残念なことに掛け布団カバーはなし。


 嬉しかったのはベランダ。私の部屋は九階で、眺めが良いこと!
 正面は寿労働センター(職安)。
左に一部、見えている建物はホームレス自立支援施設の「はまかぜ」。
 一時的に、ホームレスに宿泊を提供する施設だ。


 眼下には保育園の庭も見える。


 職安のコンクリート広場には、昼も夜も人がたむろしている。
 しかしここへ来ても、仕事は高度経済成長期のようにいつも見つかるわけではない。
 夜はここで段ボールを敷いて寝ている人もいる。


 夕飯をと思い、さなぎ食堂へ行った。中を覗くと満席。
 そこで近くのファミレスへ。
 寿町っぽいおじさん達もちらほら席に。
 この日は生活保護の支給日だったらしい。

 部屋に戻ると、さすがにその狭さに息が詰まる。
 あたりは静かだ。トイレへ行き、調理場兼洗面所で
顔を洗って歯を磨く。どちらも掃除が行き届いており、ぴかぴか。

 トイレ。奥に身障者用と女性用がある。


 調理場兼洗面所。電子レンジ、魚焼き器、ガス台などがある。


 夜が更けた。テレビを観ていても所在ないので
ベランダに出て、2時間くらい外を眺めていた。
(おかげで少し風邪気味に)
 角の居酒屋は外にテーブルや椅子を出していて
客がいっぱい。カラオケも聞こえる。


 風呂場の磨りガラス越しに、おじさん達が体を洗う様子が
見えていた「はまかぜ」。十時には消灯した。


 パトカーが巡回している。二人の警官が、一軒の居酒屋を
しきりに覗き込み、ママさんらしき女性になにか言っている。
 ママさんは入り口に立ちふさがり、警官達を断じて中に入れない構え。
 20分ほど経過。警官達はあきらめたのか帰って行った。

 この町は体の不自由な人も多い。
 車椅子の人、よろよろとおぼつかない足取りで歩く人。
 弱い姿をありのままさらすことができるのもここならでは。

 11時。角の居酒屋も店仕舞い。立ち去りがたい風情の客達は
30分くらいも、そこに立ったままたむろしていた。
 女性の姿も意外と多い。この町の居酒屋で働く女性達だろう。
 みんな、きびきびしている。10時を過ぎた頃、バッグを
袈裟懸けにして、自転車や徒歩で町から出て行った。

 パチンコ屋の灯も11時には消え、代わりにぼんやりだった
月が明るさを増した。町は静かだ。私も寝よう。


 翌朝、8時にトイレへ行ったら、もう掃除の女性が来て
せっせときれいにしていた。
 さなぎ食堂はまだ開いていないが、店長が一人、店の前で
煙草を吸っていた。早くから仕込み、ご苦労様。
 手前の方に猫がいるんだけど、わかるかな?


 朝御飯をまた昨夜のファミレスで食べ、チェックアウト。
 フロントのFさんが、「うちはね、わたしが毎日、みまもり
してるから、部屋で知らないうちに亡くなってるということは
あまりないんだよ」
 介護型のホテルだけあって、廊下やトイレで車椅子の人と
よく行き会った。ここで最後を迎える人も多いのだろう。
 あの狭い部屋で毎日暮らすということを、思わず想像する。
 自分がそうならないとは決して言えない。
 どっちにしろ、私は独り者。山中先生と「さなぎ達」が
実施しているKMVP(寿みまもりボランティアプログラム)
を、この町の外へも広げていただきたいものだ。
 自宅に戻ると、我が家が広々として見えた。
 扇荘別館、宿泊費は2300円。
 

 


 

 

  

 

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2 コメント

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きれいになった (よんなん)
2012-06-10 08:40:57
廊下を見ると、昔のタイプの宿泊所では考えられないほど美しいですね。

調理場もなかなか使い勝手が良さそう。
何か作ってみたくなります。
それを持って屋上でパーティーなんかいいんじゃないですか。
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私も驚きました。 (ふらここ)
2012-06-10 09:56:24
よんなんさん

 コメントありがとうございます。
 寿も高齢者の町になってます。ここで最後の
眠りにつく人も多くなるでしょうね。
 それを見据えての、介護型簡易宿泊所でしょう。
 狭さはどうしようもないけど、行き届いた掃除、
出入りするヘルパーさん達のきびきびした動作に
なんだか勇気づけられました。
 屋上が開放されてるかどうかわからないのです
が、ほんとに、ここでパーティーもいいですねえ。
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