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ビスホスホネートによる非定型大腿骨骨折発生のリスク因子の解析

2020-08-21 23:00:07 | 骨代謝・骨粗鬆症
1990年代の半ばにアレンドロン酸の第3相臨床試験であるFIT(Fracture Intervention Trial)において薬物による骨粗鬆症患者の骨折予防が可能であることがRCTで示されたことは骨代謝分野では画期的な出来事でした(Liberman et al., N Engl J Med. 1995 Nov 30;333(22):1437-43; Black et al., Lancet. 1996 Dec 7;348(9041):1535-41)。これ以降アレンドロン酸やリセドロン酸などのビスホスホネート製剤(BP)は骨粗鬆症治療のgold standardであり続けています。骨組織へのaffinityが高く、副作用が少ないという優れた特性を有するビスホスホネート製剤ですが、これまでに主たる問題点として挙げられているのが顎骨壊死と非定型大腿骨骨折(atypical femoral fracture, AFF)です。骨粗鬆症患者に多い大腿骨近位部骨折とは異なる部位の骨折(大腿骨転子下骨折、大腿骨骨幹部骨折)はAFFと呼ばれ、ビスホスホネート治療患者で生じることは、症例報告レベルで2007年ころから報告されるようになりました(Goh et al., J Bone Joint Surg Br. 2007 Mar;89(3):349-53など)。アメリカ骨代謝学会(ASBMR)ではtask forceが立ち上げられ、その実態が検討された結果、BPの長期使用によってAFFは増加するものの、その頻度は大腿骨近位部骨折と比較して極めて低いこともわかってきました(Shane et al., J Bone Miner Res. 2010 Nov;25(11):2267-94; Shane et al., J Bone Miner Res. 2014 Jan;29(1):1-23)。ということで現在はrisk-benefitを考えればBP使用をためらうべきではないという考えが一般的です。
今回Blackらは大規模な前向きコホート研究によって、AFF発生とBP使用との関係やリスク因子を縦断的に解析し、risk-benefit profileなどを詳細に報告しています。
(方法および結果)Kaiser Permanente Southern California health care systemに加入している50歳以上の女性患者を対象とし、2007年1月1日から2017年11月30日までの骨折発生を前向きに検討しました。AFFはInternational Classification of Diseases (ICD) diagnosis codesを用いて抽出し、高エネルギー外傷によるものは除外しました。コホート全体は1,097,530人の患者からなり、観察期間のいずれかの時点でBPを使用したのは196,129人(17.9%)でした。
BP使用者の中で277件のAFF(1.74/10,000人・年)、9102件の大腿骨近位部骨折(58.90/10,000人・年)が発生しました。65歳から74歳、75歳から84歳の患者(2.24および2.35/10,000人・年) は50歳から64歳、85歳以上の患者(0.83および0.99/10,000人・年)よりもAFF発生が高率でした。一方大腿骨近位部骨折の発生は年齢とともに増加しました。アジア人では白人と比較してAFFは多く(5.95 vs 1.09/10,000人・年)、大腿骨近位部骨折は少ない(20.41 vs 81.18/10,000人・年)ことがわかりました。
BP使用期間とAFF発生との間には正の相関があり、3カ月未満では0.07/10,000人・年であったのに対し、8年以上の患者で13.10/10,000人・年でした。背景因子を調整しないhazard ratio(HR)は3カ月未満の使用に対して3年から5年で33.76(95% confidence interval [CI], 12.07 to 94.48)、8年以上で179.51(95% CI, 64.64 to 498.52)でした。背景因子を調整しても有意な差があり、3年から5年で8.86(95% CI, 2.79 to 28.20)、8年以上で43.51(95% CI, 13.70 to 138.15)でした。なおBP非使用患者におけるAFF発生は0.10/10,000人・年でした。
BP中止によってAFFの発生は減少し、使用中あるいは中止後3カ月以下の患者で4.50/10,000人・年だったのに対して3カ月から15カ月中止患者で1.81/10,000人・年、15カ月超中止患者では約0.50/10,000人・年でした。
多変量解析の結果、有意なAFFリスク因子としては、白人に対するアジア人(HR 4.84)、身長低下(5 cmの低下についてHR 1.28)、体重増加(5 kgの増加についてHR 1.15)、年齢(65歳から74歳に対して85歳超でHR 2.76)、glucocorticoidの使用(1年以上の使用で不使用患者に対してHR 2.28)が同定されました。骨密度とAFFリスクとの関係は有意ではありませんでした。
Risk-benefit analysisの結果、特に白人では全ての観察期間においてBP使用の骨折予防効果はAFF発生リスクを大きく上回るものでした。アジア人でもBPの有用性は示されましたが、AFF発生が多いことからbenefitは少し低いものでした。白人では3年間・1万人のBP使用によってAFFが2件発生したのに対し、予防できた大腿骨近位部骨折は149件、臨床骨折は541件、10年ではそれぞれ38件、591件、1363件でした。一方アジア人では10年間・1万人のBP使用によって発生するAFFは236件、予防できた大腿骨近位部骨折は360件、臨床骨折は831件でした。
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本前向き研究によってAFFの絶対数は予防できる骨折数と比較すると極めて少ないことが改めて確認されました。一方で以前の報告で関連ありとされていた高齢、既存骨折、低骨密度との関係は示されませんでした。これは高齢者の活動度が低いことなどとも関連があるのかもしれません。アジア人にAFFが多いことは以前の研究によっても示されており(Dell et al., J Bone Miner Res 2012; 27: 2544-50)、今回の研究においても背景因子を調整しても有意であり、日本人としては気になるところです。その理由としては服薬アドヒアランスの高さに加えて、大腿骨の外弯が強いなどの解剖学的な差異が関与している可能性があります(Hyodo et al., J Bone Miner Metab 2017; 35: 209-14; Cho et al., Arch Osteoporos 2018; 13: 53; Saita et al., Bone. 2014 Sep;66:105-10)。今回の縦断研究によってAFFとBPとの関係が明瞭になりました。長期間のBP使用はベネフィットが勝るとはいえ、アジア人の場合には少し注意する必要がありそうです。 



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2 コメント

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Unknown (sakaetan)
2020-10-09 22:48:17
村山様 ご指摘ありがとうございます。数値が間違っておりましたので修正いたしました。また記載についてのご指摘もその通りですので修正いたしました。感謝申し上げます。
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Unknown (村山 隆之)
2020-10-02 16:22:24
 GoogleでAFFを検索していて、このブログがヒットしました。私も注目して読んでいた文献なので、こんなに立派な要約とコメントが発表されていたことに驚きました。但し、以下のRisk-benefit analysisの部分の要約が論文と異なっているような気がしたので、コメントさせていただきました。ご確認頂ければ幸いです。
 「白人では3年間のBP使用によってAFFが8件発生したのに対し、予防できた大腿骨近位部骨折は91件、臨床骨折は330件、」とありますが、”AFFが8件”を基準に考えれば、「5年間のBP使用によって、予防できた大腿骨近位部骨折は286件、臨床骨折は859件、」ではないかと思います。また、原論文を読んでいない読者に配慮するならば、アジア人の所でも同様なのですが、”5年間のBP使用”ではなくて、”5年間10,000人のBP使用”のように記載する方が親切のように思います。
 以上、小生の読み間違いかもしれませんが、宜しくお願い致します。
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