とはずがたり

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腰椎穿刺後の脊髄血腫発生に凝固異常は影響しない

2020-10-17 10:49:24 | 整形外科・手術
スウェーデンの人工関節レジストリーを見るだけでもわかるのですが、北欧の国ではレジストリーやデータベースが整備されており、様々な疾患の罹患率などを振り返って調査できるシステムが構築されており、本当にうらやましいなーと思います。この論文はデンマークからのものですが、腰椎穿刺後30日以内の脊髄(硬膜内・硬膜外)血腫発生が凝固異常coagulopathyと関係するかを調べたものです。様々なレジストリー、データベースを駆使して2008年1月1日から2018年12月31日までに腰椎穿刺を行った患者、脊髄血腫を生じた患者をpick upしました。またそれらの患者の背景因子や検査データを集め、脊髄血腫患者のカルテをチェックして臨床経過を検討するという徹底ぶりです。凝固異常は穿刺時の血小板数150 x 10(9)/L未満(日本でいえば15万/μL未満)、INR>1/4、APTT>39秒のいずれかを満たすものとしています。
(結果)解析対象になったのは腰椎穿刺をうけた64730人、83711穿刺です。年齢の中央値は43歳(IQR 22-62歳)、女性が51%です。このうち脊髄血腫を生じたのは143例(0.17%; 95% CI, 0.14%-0.20%)でした。このうち凝固異常のない症例が99/49526 (0.20%; 95% CI, 0.16%-0.24%) 、ある例が24/10371 (0.23%, 95% CI, 0.15%-0.34%) 、穿刺5日以内の血液データがない症例では20/23 814 (0.08%, 95% CI, 0.05%-0.13%)でした。凝固異常のある患者におけるadjusted HR (95% CI)は0.73 (0.38 to 1.38)で有意差はありませんでした。血小板減少、INR延長、APTT延長それぞれで層別化しても有意差なしでした。初回穿刺に限っても凝固異常ありで0.15%、なしで0.17%と差はありませんでした。抗血小板薬や抗凝固薬などを内服していた患者が少なかったこともあり、これらの内服患者における血腫発生はありませんでした。
血腫発生のリスク因子となったのは①男性(女性を対照にしたadjusted HR 1.72)、年齢(0-20歳を対照として41-60歳でadjusted HR 2.13、61-80歳で2.59)、Charlson Comorbidity Index (CCI) 高値(低値を対照としてadjusted HR 2.31)でした。
Traumatic spinal tap(髄液中の赤血球数>300x10(6))を血腫のサロゲートとした場合、全部で27.8%に生じ、血小板数による違いはありませんでしたが、INRが1.4以下の患者(28.2%)と比較して1.5-2.0 (36.8%), 2.1-2.5 (43.7%), 2.6-3.0 (41.9%) と延長にともなって頻度が増加しました。またAPTTが40-60秒で26.3%と正常な患者(21.3%)より多いことが分かりました。
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この研究結果からは、腰椎穿刺後の脊髄血腫の発生は必ずしも凝固障害によって増加しないと考えられました。しかし抗凝固薬などを内服していた患者が少なかったことからもわかるように腰椎穿刺に際して出血リスクの高い患者を除外していた可能性もあります。また日本人では欧米人と比較すると血液が凝固しにくい(手術でも出血がとまりにくい)こともありますので、日本では独自のデータ集積が必要だと思います。




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