とはずがたり

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隣の芝生は青い

2020-10-11 06:44:23 | 新型コロナウイルス(疫学他)
この"Sweden's gamble"というScienceのリポートは読みごたえがありました。日本の中でもSwedenの「緩やかな制限」という方針を称賛する声は少なくありません。主としていわゆる「集団免疫」が速やかに達成されるのではないかという理由、そして経済的なダメージを少なくできるという理由です。Swedenのパンデミック対策を担っているのは日本の厚生労働省にあたるFolkhälsomyndigheten (FoHM)であり、それを率いる国家疫学官のAnders Tegnell氏です。FoHMはパンデミック当初から一貫して"stay home"を推奨せず、マスク着用さえ(パニックを起こすという理由から)否定しています。マスク着用を主張した医師が譴責を受けた、あるいはクビになったという驚くべき事例もあるようです。またイタリアで感染爆発が生じていた2月に入っても海外への休暇旅行を禁止せず、数万人規模のコンサートなどの大規模な集会も許可していました。その結果、デンマークなど他の北欧国と比較して多数の感染者、そして死者が出ました。6月に入って感染の波は落ち着いており、一見「集団免疫」が達成されたかのように見え、経済的なダメージも比較的少なかったため「新型コロナウイルス感染症対策の成功例」ともてはやす人もいます。
この記事はそのような意見に疑問を呈します。Nursing homeで多くの死者(ストックホルムの14000人のnursing home入所者の7%が亡くなっています)でるなど、結果的に他の国よりも多数の死者が出た戦略を成功としてよいのか、ということです。Swedenではイタリアに見られたような医療崩壊は見られませんでしたが、これは80歳以上の高齢者やBMI40以上の肥満者はICUに入ることを禁止したり、若年者は重症であっても救急病棟から出されたり(その結果多くの死者がでた)という方針によるところが大きかったとしています。また抗ウイルス抗体を有しているのはSweden全体では6-8%であり、「集団免疫」には程遠い状況です。
筆者はこのようなFoHMの政策が、それでも大多数の国民から支持されている大きな理由は、Swedenに見られる" the taboo on open disagreement"という国民性によるものではないかとしています。日本でいうところの「同調圧力」でしょうか。当然このような政策に反対する医療者や科学者もいたのですが、反対意見に対する世間のバッシングは厳しく、“troublemaker”あるいは “a danger to society”というような批判をうけて、Swedenを去ることを余儀なくされた科学者も少なからずいるようです。
今回のSwedenの政策が成功だったかどうかを決めるのは次期尚早ですが、医学を含めたサイエンスの発展のためには健全な議論が不可欠であり、Swedenの強すぎる同調圧力がそのような議論を抑制するものであってはいけないだろうと思います。



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