とはずがたり

論文の紹介や日々感じたことをつづります

健康の定義

2020-12-23 15:44:16 | その他
私も講演で「健康寿命の延伸を!」などと話すことはあるのですが、それでは「健康とは?」とつっこまれると、「病気じゃない状態(?)」というような回答しかできません。さらに、病気でなければ健康なのか?老化は病気か?ときかれると、また答えに窮することになります。ある分子が発現していたら健康、というわけではありませんし、健康の定義というのはわかっているようでわかっていません。
Carlos López-OtínとGuido Kroemerによるこの総説では、健康とは「生物の全体としての”organization”(the overall "organization" of organisms)によって規定されるもの」であるとしています。このような観点から、彼らは健康を「健康的」な状態に付随し、そのかく乱(pertubation)が極めて病的であり、その維持や修復が健康に益するという特徴を有する状態、と定義し、「健康の特徴(hallmarks of health)」として①integrity of barriers(様々な障壁が保たれている)②Containment of perturbations(かく乱物質の封じ込め)③Recycling & turnover(再生と代謝)④Integration of circuitries(循環が維持されている)⑤Rhythmic oscillations(リズミカルな振動)⑥Homeostatic resilience(恒常性回復力)⑦Hormetic regulation(ホルメシスによる制御)⑧Repair & regeneration(回復と再生)という8つの要素を挙げています。①は細胞膜が維持されている状態、皮膚による体外との隔離が維持されている状態などを指します。②はDNA損傷に対する修復機構、局所炎症による有害物質の拡散防止機構など、③は細胞死や再生、そしてオートファジーによる細胞内器官の再利用なども含みます。④は分子のfeedback loop、外部刺激に対する細胞応答(によるfeedback)、生体内の細菌叢との相互作用など、⑤はリズミカルな振動を有する生体反応のことで、時計遺伝子によって制御されるものも多い。⑥はストレスに対して多くの脳内回路が反応することで恒常性を回復するという過程、ホルモンによる代謝制御など、⑦はちょっとわかりにくいですが、hormesisというのは毒性のある物質が低用量だと健康維持に働く現象で、例えば低線量の放射線への曝露は生存期間延長に働くような現象のことらしいです。⑧は文字のとおりです。そのうえで①②をSpatial compartmentalization(空間的な区域化)、③④⑤をMaintenance of homeostasis(恒常性の維持)、⑥⑦⑧をResponse to stress(ストレスに対する反応)というカテゴリーに分類しています。これらの要素が統合しながら働くことで組織としての健全性が保たれ、何らかの障害が出た時に病的な状態となるという考え方です。内容的には正直?という点もあり、煙に巻かれたような印象を拭えないのですが、これまで「病気ではない状態」というように除外診断的に定義されていた「健康」を積極的に定義しようという方向性は重要だと感じました。それにしても「完全な健康」などという状態は存在するのでしょうか?
López-Otín C and Kroemer G. Hallmarks of Health. Cell. 2020 Dec 15:S0092-8674(20)31606-8. doi: 10.1016/j.cell.2020.11.034.


最新の画像もっと見る

コメントを投稿