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臓器の構造細胞structural cellによる免疫制御機構

2020-07-06 16:11:10 | 免疫・リウマチ
言うまでもなく生体の免疫機構は外来病原体に対する防御反応に必要不可欠です。その中心となるのは血液系細胞であり、自然免疫は骨髄球系細胞、獲得免疫はリンパ球系細胞によって主に担われています。しかし最近になり、上皮細胞(epithelial cells)、内皮細胞(endothelial cells)、線維芽細胞(fibroblasts)など、組織の構築に重要と考えられている細胞(構造細胞structural cells)が、免疫制御に重要な役割を果たすことが明らかになっています。この論文で著者らは様々な組織のstructural cellにおける遺伝子発現やepigeneticsを検討し、これらの細胞がウイルス感染による免疫関連遺伝子発現に重要な役割を果たしている可能性を明らかにしました。
著者らはまずマウスの12臓器(脳、心、肺、肝、腎、皮膚、小腸、盲腸、大腸、リンパ節、脾臓、胸腺)から3種類のstructural cellsを採取し、RNA-seqで遺伝子発現を検討しました。その結果、各細胞において、共通した発現遺伝子に加えて臓器特異的な発現遺伝子が存在することが分かりました。興味深いことに、異臓器の同種細胞よりも、同じ臓器の異なる種類の構造細胞のほうが発現遺伝子は類似していることも明らかになりました。また発現遺伝子のなかには免疫機能を制御する遺伝子も多く含まれていました。
次にATAC-seqおよびH3K4me2のChIP-seqによって遺伝子のepigeneticな制御を検討したところ、やはり臓器特異的なchromatin accessibility(転写因子のアクセスしやすさ)を示す遺伝子が存在することが明らかになりました。著者らは特にchromatin accessibilityは高いにもかかわらず、遺伝子発現が低いものに着目しました。このような遺伝子は転写準備状態(poised condition)にあり、必要な時には速やかに発現誘導される能力(unrealized epigenetic potential)を有するのではないかと考えたのです。このような1665遺伝子のうち、335遺伝子は免疫制御に関連するものでした。
次にマウスにlymphocytic choriomeningitis virus (LCMV)を感染させたところ、structural cellにおいて発現誘導される遺伝子にはunrealized epigenetic potentialを有するものが多く含まれていました。また遺伝子発現の変化はepithelial cellよりもfibroblast, endothelial cellのほうが顕著に見られ、ウイルス感染に伴い様々なcytokineやchemokineが発現誘導されました。このような遺伝子発現の変化は、IFNα, IFNγ, IL-6などの投与によって、臓器特異的に再現することが可能でした。
これらの結果から、臓器のstructural cellの一部は、遺伝子発現をダイナミックに変化させることによって免疫反応に積極的に関与していることが明らかになりました。ただしこのようなstructural cellにおける遺伝子発現の変化が実際の免疫反応に必須かどうかは示されておらず、今後の課題として残されています。
Krausgruber, T., Fortelny, N., Fife-Gernedl, V. et al. Structural cells are key regulators of organ-specific immune responses. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2424-4


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