とはずがたり

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局所の炎症細胞による異所性骨化の制御

2020-04-07 15:31:26 | 骨代謝・骨粗鬆症
進行性骨化性線維異形成症(fibrodysplasia ossificans progressive, FOP)という疾患があります。主として筋内に異所性骨化が生じ、最終的にはほとんど動くことができなくなるという重篤な疾患で、日本でも難病に指定されています。原因遺伝子はALK2と呼ばれる骨形成因子受容体で、ALK2の活性型変異が患者では存在することが報告されています。変異型ALK2は通常では活性化されないアクチビンAによって活性化され、異所性の骨形成に関与すると考えらえています。この疾患の特徴として、生まれた直後から異所性骨化があるわけではなく、学童期から徐々に骨化が進んでいくのですが、骨化が出現するトリガーになるのが外傷です。例えばなんでもない打撲などがきっかけとなって筋内に著明な骨化が生じたりします。骨化が生じる際にはflare-upと呼ばれる炎症を伴う前兆が生じることが多く、炎症が異所性骨化に何らかの影響を与えているのではないかと考えられています。
さてこの論文で著者らは筋内に存在する血小板由来増殖因子(platelet-derived growth factor, PDGF)受容体α陽性の線維脂肪前駆細胞(fibro-adipogenic progenitor, FAP)に着目し、この細胞の異所性骨化への関与を検討しました。まずPDGFRα+細胞を特異的に検出するtamoxifen誘導型lineage-tracing マウス(PDGFRαCT2/td.Tomatoマウス)を作成しました。このマウスを用いてBMP2誘導の筋内異所性骨化においてPDGFRα+細胞が骨形成において主たる役割を担っていることを明らかにしました。この細胞は並体結合(parabiosis)では移植されないことから、骨髄由来の細胞ではなく、組織に存在する細胞であることが示されました。著者らは以前にケモカイン受容体であるC-C chemokine receptor type 2(CCR2)を欠損したマウスでは、急性筋損傷による局所への単球/マクロファージの遊走が抑制されていると同時に、局所に存在するFAPの排除が遅延し、筋再生が低下していることを報告しています(Lemos et al., Nature Medicine. 2015 Jun 8;21(7):786–94)。興味深いことにCCR2 KOマウスでは急性筋損傷にともなってBMPがない状態でも異所性骨化を示しました。また損傷部位におけるFAPのRNA-seqから、骨化や石灰化、軟骨分化関連の遺伝子発現がCCR2 KOマウスでは長期間持続していることが明らかになりました。CCR2 KOマウスでは好中球など他の炎症細胞には変化がないため、この結果から炎症にともなう局所の単球/マクロファージ遊走とそれらの細胞によるFAPの排除が金組織の修復に重要であり、この過程が正常に働かないことが異所性骨化の原因の一つと考えられます。FOP患者において局所の単球/マクロファージ集積、FAPの排除に異常があるかどうかについては、FOPの症状緩和にもつながる今後の課題としています。
最後にPDGFRα陽性細胞の筋再生における役割については健康長寿医療センターの上住聡芳先生も大変先駆的な仕事をされていることを付け加えさせていただきます(https://www.tmghig.jp/research/team/rounenbyotai/kinroukasaiseiigaku/ )。
Murine tissue‐resident PDGFRα+ fibro‐adipogenic progenitors spontaneously acquire osteogenic phenotype in an altered inflammatory environment
Christine Eisner et al.
https://doi.org/10.1002/jbmr.4020


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