コルトのハンドルを握りバックミラーを見た父が
「あ、ブルーバードだ。5ナンバーだよ」
と言った
後部座席に座っていた小学生の私は振り返ると
見るからに古いクルマが後ろを走っていた
家族で買い物に行くために走っていた時の事だった
それは親戚の家の古い図鑑で見た事のある昔のクルマだった
ナンバーもただのシングル5ナンバーではなく
「神 5」
コルトや親戚の図鑑の影響で子供の頃から古いクルマが大好きだった私には
衝撃な出現だった
後部座席の背もたれによじ登るように座り後ろに付いてきたそのクルマを必死に見続ける
父「あれは柿の種かな
テールランプが柿の種の格好してる?」
なんで柿の種なんていうのか分からない私は分らずに
『うん』と適当に答えると「前から見て分る訳ないだろう(笑)」
今だったら『じゃ、聞くなよ!』となるのだろう
それまでも町なかで古いクルマを見かける事はあったがここまで古く
2台で走る事は無かったので「この時」の事は決して忘れる事はなかった
しばらくして別れたがそれから数時間後に港南台の駅前を通った時に
あの神5のクルマが道路に駐車していた
『あ!お父さん、あのクルマ!』
興奮し乗り出すように凝視する
父「あぁ、『柿の種』じゃなかったな』と言いながらそのクルマをパスする
その時に父は軽くクラクションを鳴らした
運転席にいた男性がこちらに気付いたようでドアを開けて降りたのだが
コルトは止まる事なくそのまま走っていった
それ以来あのブルーバードと走りは私の思い出の中で
いつまでも古いフィルムのように残っていたのだった
この写真はブルーバードをまにまにカレチさんが引き取った時に
私のリクエストに応えてその時に走った道を走ってもらった時の事
再び同じクルマで同じ道を走る事が出来るなんてな
「あの時」に運転していたおじいさんも父ももういない
【終わり】