マフラー修理のためにコルトを新宿の中野自動車へ持って行く事になった時のこと。
泊まり勤務の前に預けようと実家に行き早めに出るも久しぶりにエンジンが掛からなくなる。
スターターは回る。
キャブの窓の油面は正常。
引っ越しとマフラー欠落の為乗っていなかったが最近はプラグもポイント隙間も点検、隙間を見ていない。
プラグはカーボンが着いているがそれ程でもない。
ポイント面を覗くと白くなり凹凸が僅かに出ているので紙ヤスリで軽く磨いて再始動。
普段ならこれで掛かるハズ…
たまに初爆が起こるも続かない。
実にマズい・・・
そうこうしていると掛からないエンジン音で父登場。
プラグを一本抜きセルを廻して火花を確認。
「ちょっと火花が弱いな」
エアクリーナーを外しガソリンが本当に来ているかの確認。
「やっぱりポイントだな、ちょっと外してみよう。どうやるのか忘れちゃったな。ポイント外してくれ。
何?やった事がない?
それを先に言え」
と言いながらポイントを外すと…
覗いただけでは判らないポイント面は凸凹が大きく出来ていた。
「これじゃ掛からない」
耐水ペーパーではなくヤスリで削りながら
「こんなの久しぶりだな」
と笑う。
パソコンの接続は友達に世話になり
コルトは父に…
申し訳ない気持ちになる。
「お前仕事は?これからか、じゃあやっておくから行ってきな。ポイント面はフラットよりも丸くした方がいいんだ、その内にヘコんでくるから〜」
近年は肺が悪くなりハァハァ言いながらコルトに向き合う
こんな姿は幼稚園児か小学生の頃に当たり前のようによく見ていた。
あの頃、コルト1100は我が家の第一線にいて父はよくボンネットを開けて修理をしていた。
何でも直してしまう父は誰よりも頼もしくカッコ良かった。
幼い私はその姿を見てアラレせんべいをお皿に入れてお茶と一緒に持っていくのだった。
今にして思えば点火時期調整をしていたのかキャブ調整だったのか。
それは当たり前の姿だった。
そんな姿を見なくなってしまったのはいつ頃からだろう。
今はお医者さんや家族から一日中座っていないで歩けと言われても従わず部屋で何もせずにいる。
父の車はコルトはコルトでも
手入れの要らないコルトプラスに変わっていった。
歳を取り老いていくのがよく分かる
昔の父とは性格も変わってしまった。
もうあの頃の元気な父には会えない…
そう思っていた。
しかし愚かな息子の手に負えないコルトを修理する父は楽しそうに見えた。
あぁ、あの頃のお父さんだ…
駅へ向かうバスに乗り込み後ろの席に座る。
今も修理しているだろう父の姿を思うと涙が出た。
懐かしく、ありがたく、自分自分がただ情けなく…
その後、父からエンジン修理が完了し無事に始動したとメールが届いた。
泊まり勤務が終わり実家にケーキを買って立ち寄る。
「昨日は久しぶりに燃えたな(笑)
あんな事やったの何年ぶりだろう」
楽しそうな笑顔も久しく見ていなかった。