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俺のランニング生活

大学で長距離走をやっていました。練習日誌や普段思っていること、自分の陸上競技論を書きます!

レナト・カノーヴァ(Renato Canova)のトレーニング原理

2014-03-30 23:59:01 | 陸上競技論

今回は、イタリア人のコーチ、レナト・カノ―ヴァ(Renato Canova)のトレーニング原理についてです。カノ―ヴァは世界一流のケニア人を数多く指導しています。以下のような選手がカノーヴァの指導を受けています。

 

・サイフ・サイード・シャヒーン(Saif Saaeed Shaheen):5000m12分48秒 3000mSC7分53秒(世界記録)

 

・ニコラス・ケンボイ(Nicholas Kemboi ):10000m26分30秒

 

・モーゼス・モソップ(Moses Mosop):10000m26分49秒 マラソン2時間3分06秒(非公認記録)

 

 

 

参考:https://www.youtube.com/watch?v=zfFDwOcMUXI

 

 

 

今、彼のトレーニング原理は世界中で注目されています。今回は彼のトレーニングの期分け(periodization)について書きたいと思います。トレーニングの期分けとは最も重要なレースに調子のピークを持っていくために時期によってトレーニングの内容を変化させる手法のことです。彼のトレーニングの期分けでは6か月を、1.導入期(introductive period)、2.基礎構築期(fundamental period)、3.準専門期(special period)、4.専門期(specific period)の4時期に分けています。それぞれの時期のトレーニング内容は以下の通りです。

 

 

 

 

 

1.導入期(introductive period)

 

・期間は約3週間。

 

・ゆっくりとしたペースで長時間走を中心に行う。

 

・ヒルスプリント(登り坂での全力走)で速筋繊維の動員を促す。

 

 

 

2.基礎構築期(fundamental period)

 

・期間は2カ月間

 

・LT付近ペースでの持続走を行う。

 

・各種目ごとの1回の走行時間、ペースは以下の通り。

 

              ・800m走者 20~40分 800mの自己ベスト×1.4~1.5

 

             ・1500m走者 30~50分 1500mの自己ベスト×1.3~1.4

 

         ・5000m走者 45~70分 5000mの自己ベスト×1.15~1.25

 

              ・10000m走者 60~90分 10000mの自己ベスト×1.15~1.25

 

              ・ハーフマラソン走者 80分~100分 ハーフマラソンの自己ベスト×1.15~1.25

 

              ・マラソン走者 105分~150分 マラソンの自己ベスト×1.1~1.2

 

   ※5000m15分の自己ベストならば、900秒(15分)×1.15~1.25=1035秒(17分15秒)~(18分45秒)→5kmを17分15秒(1kmあたり3分27秒)~18分45秒(1kmあたり3分45秒)のペースで45分~50分走る

 

 

 

 

 

・全トレーニング期間の中で走行距離を増やす時期。

 

 

 

3.準専門期(special period)

 

・期間は2ヵ月間

 

・800m,1500m,5000m走者は以下のトレーニングを行う。

 

      ・ショートレペティション(短い急走と完全回復を繰り返す)

 

          ・ 狙いとする種目の自己記録×0.95-0.90のペースで行う。

 

    ・インターバル

 

         ・狙いとする種目の自己記録×1.08-1.05のペースで行う。

 

         ・急走の距離が合計で4~6kmになるようにする。

 

         ・回復時間は短くする。

 

 

 

・10000m、ハーフマラソン、マラソン走者は以下のトレーニングを行う

 

  ・インターバル

 

      ・狙いとする種目の自己記録×0.98-0.95のペースで行う。

 

      ・各種目ごとの急走の合計距離は以下の通り

 

          ・10000m走者:10km~12km

 

           ・ハーフマラソン走者:12km~15km

 

           ・マラソン走者:20km~30km

 

・持続走

 

      ・各種目ごとの走行距離、ペースは以下の通り

 

           ・1500m走者 4km 1500mの自己記録×1.18

 

           ・5000m走者 8km~12km 5000mの自己記録×1.125

 

           ・10000m走者 15km 10000mの自己記録×1.125~1.1

 

           ・ハーフマラソン 25km  ハーフマラソンの自己記録×1.055

 

           ・マラソン 45km~50km マラソンの自己記録×1.125

 

・狙いとするレースよりも短い距離のレースや長い距離のレースに出場して、スピードと持久力を磨く。

 

 

 

4.専門期(specific period)

 

    ・レースペースでのインターバルやレペティションを行う

 

        ・例えば、800m1分44秒の走者は400m×5本(50秒、5分の回復)で行う。

 

        ・上記のような練習の急走の距離、あるいは本数を増やしていき、よりレースの状況に近づける。

 

                例えば、500m×4(63秒、5分の回復)、400m×6(50秒、5分の回復)

 

   ・質の高い練習の間は2~3日空け、その間はゆくっりとしたジョギングを行う。

 

          ・モーゼス・モソップの場合、回復時のトレーニングは、朝60~80分、午後40~60分、それぞれゆっくりとしたペースで行っている。

 

 

 

 

 

その他特記事項

 

・全期間にわたって回復(regeneration)のためのランニングはLTペース×1.4~1.3といった極めて遅いペースで行う。参考:

 

・上で示した各時期のトレーニングは、その時期に最も強調すべきトレーニングであり、それのみを行えばよいということではない。トレーニングの時期が進行しても、前の時期に強調されたトレーニングを適度に混在させる。そうすることで、前の時期に獲得された能力を維持しながら、新たな能力を積み重ねることができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

従来のトレーニングとの違い

 

ナイキ・オレゴン・プロジェクトの元コーチである、スティーヴ・マグネス(Steve Magness)はカノーヴァのトレーニングの特徴を以下のように分析しています。

 

 

 

従来のトレーニングの期分けの典型的なパターンは、「基礎構築期に弱い強度でたくさんの距離を走り込み、試合が近づくにつれ練習量を少なし、強度を強くしていく」といったものだった。彼はこの期分けを「直線型期分け(linear periodization)」と名付けてる。なお、この期分けはアーサー・リディアード(Arthur Lydiard)のトレーニングに端を発している。

 

 

 

 

カノ―ヴァのトレーニングの期分けの特徴は、「トレーニングにスピードと持久力の2つの軸を設け、トレーニングの時期が進行していくにつれ両軸を融合させ、狙いとしたレースに必要な持久力とスピードを獲得する」というものである。マグネスはこの期分けを「漏斗(ろうと)型期分け(funnel periodization)と呼んでいる。「漏斗型期分け」では、基礎構築期に、弱い強度での長時間のランニングで持久力を鍛えることと並行して、60m全力走や、ヒルスプリントのような最大出力でのランニングでスピードを鍛える。試合が近づくにつれ、持久力、スピードを鍛える両トレーニングのスピードを、狙いとしたレースのペースに接近させていく。また、練習量に関しては、トレーニングが進行していくにつれ増加し、前試合期をピークに、試合期にかけ減少していく。

 

 

 

 

このようにすることで、トレーニング全期間にわたって、高い速筋の動員率が維持される。そうすると、潜在的なスピードを常に発揮できる状態になり、トレーニングの効率が向上する。

 

 

 

 

 

参考Webサイト:Let'sRun.com(http://www.letsrun.com/forum/flat_read.php?thread=4465229&page=1)

 

参考文献::Steve Magness(2014) The Science of Running: How to find your limit and train to maximize your performance, Origin Press 

 

 

 

※今回はソースの一部がwebサイトなので、信頼性は各自のご判断に委ねます。


5000mで12分台出すためのスピード

2014-03-05 21:43:50 | 陸上競技論

7年以上も前に書いた記事なのですが、「5000mと1000mの記録の関係」を読んでくださる方が多いようです。

この記事では、5000mで12分台を出すためには、1000mを2分21秒以内、1500mを3分39秒以内で走れる走力が必要だということを書きました。(詳しくは、こちらを読んでください。http://blog.goo.ne.jp/run-run-aizawa/e/667af7e1ae9e8e57f909c3e1f2172b33

 

今回は、実際に5000mを12分台で走った選手の1500mの記録をまとめてみました。5000m12分台走者の中から1500mの自己記録が判明している52人のデータを用いています。52人の12分台走者の1500mの平均記録は3分35秒72で、1500mの日本記録3分37秒42より上です。日本人が5000mを12分台で走るには、1500mで日本記録を破る力を持つ選手が5000mに本格的に取り組む必要があるのではないでしょうか。


ランニングエコノミーの改善

2014-03-02 21:08:27 | 陸上競技論

ランニングエコノミー(running economy)とは日本語で「走りの経済性」と訳します。これは、一定のペースで走るための酸素の消費量で、車で例えるなら燃費です。少ない酸素の消費量でより速く走れれば、長距離走の記録はよくなります。

 

優れたランニングエコノミーを持つ走者には以下の特徴が見られます。

 

骨盤の前掲、短い脹脛(ふくらはぎ)の周囲、長い脛(すね)、少ない体重、上下動の少ないランニングフォーム、短い接地時間、弾性力が強い脚  高い最大スピード

 

 

この中の「短い接地時間」、「弾性力が強い脚」「高い最大スピード」を実現するトレーニング方法を紹介します。

 

●エクスプローシブトレーニング(explosive training)

エクスプローシブトレーニングはジャンプやバウンディングといった爆発的な力を出すトレーニングです。

(参考:ロシアの跳躍選手のトレーニング http://www.youtube.com/watch?v=uHGz3Li2cv4

これらのトレーニングでは、筋肉の弾性力、腱の弾性力、筋力、筋収縮のスピード(神経系の改善)に効果があります。筋肉や腱の弾性力とは、筋肉や腱が伸びたり、縮んだりした際に元の状態に戻ろうとする力です。ゴムを引っ張って手を離した時に、元の状態に勝手に戻ることを想像してください。筋肉や腱の質を変えて弾性力を高めておけば、酸素を消費せずに力を発生させられるのです。また、筋収縮のスピードを改善すると一定時間に発揮できる力が増大します。これらがランニングエコノミーを改善するメカニズムをまとめると以下のようになります。

 

「筋肉の弾性力」、「腱の弾性力」、「筋力」、「筋収縮のスピード」、これらの向上

一定の酸素消費量で筋細胞1つあたりの発揮できる力が増大

ある一定のスピードで走行する際、動員される筋細胞が減少

酸素の消費量が減少

ランニングエコノミーが改善

 

また、「筋肉の弾性力」、「腱の弾性力」、「筋力」、「筋収縮のスピード」、が向上すると、「短い接地時間」、「高い最大スピード」にも繋がります。

 

具体的なトレーニング方法

 

・片足ホッピング(片足ずつ両足行う)

http://www.youtube.com/watch?v=DEmADtDgd0k

・ハードルジャンプ

http://www.youtube.com/watch?v=tvVr-Gca9FI

・足首ジャンプ

http://www.youtube.com/watch?v=a_kVnBeKvAo

・バウンディング

http://www.youtube.com/watch?v=p2bYUE2roX4

 

以上を、それぞれ20m×5本程度、1分程度の回復を挟んで行う。

 

※他にもさまざまな同種のトレーニングがあるので調べてみてください。

 

 

●ヒルトレーニング(坂道トレーニング)

坂道を全力で駆け上がるトレーニングなどもエクスプローシブワークの同じような効果があります。

 

具体的なトレーニング方法

・100m~200mの坂道ダッシュ×4~15本

・坂道でのホッピング20m×5本

・坂道でのバウンディング20m×5

 

 

●ハイスピードトレーニング

 狙いとするレースペースより速いペースで走るトレーニングがランニングエコノミーの改善に繋がります。

中速のランニングで獲得された筋力は、それより高速のランニングには適応しません。なぜなら、筋肉を動かす神経が高速のランニングに適応していないからです。この状態だと、より大きな力を出すにはより多くの筋細胞を動員するしかなく、酸素を多く消費してしまいます。しかし、神経が速い動きに適応すると、それより遅い動きには簡単に対応でき、酸素の消費量が減るのです。

 これがマラソン選手であっても最高スピードを高めなければならない理由です。マラソン選手はレースペース以下で長い距離を走る練習が多いのですが、この練習だけだと神経の機能が遅いランニングの動作に固定されてしまい、ランニングエコノミーが損なわれてしまいます。42mを速く走れるランナーは、速いピッチ、長いストライドといったスキルを42kmにも応用できるのです。

 

具体的なトレーニング法

・6~8秒間の全力走×10(十分な回復を挟んで)

・レースペースより速いペースでのインターバルトレーニング

 

 

上記の3種類のいずれかのトレーニングをポイント練習(質の高い練習)の直前に行うか、そのトレーニングを単独で行うかにしてください。かなり身体に負荷がかかるので、回復を目的としたトレーニングの日に行うのは望ましくありません。負荷をかける日と回復をはかる日の練習強度のメリハリをつけると効果が上がります。

 

 

Heikki RuskoとNeena Paavolainen らは以下のような実験をしています。(Rusko, Paavolainen,1999)

 

9週間18人のランナーA、Bのグループに分けてトレーニングをさせ、実験開始直後と実験終了時に5000mのタイムトライアルを実施しその結果を比較した。トレーニングの内容は以下の通り。

 

Aグループ:

週3時間のエクスプローシブワーク、ハイスピードスプリント+通常のランニング練習

 

Bグループ:

通常のランニング練習のみ

 

9週間後、全員に5000mのタイムトライアルを実施したところAグループは平均3%(約30秒)ほど記録が向上したが、Bグループにはほとんど変化がなかった。

 

 

5000mが15分00秒のランナーが3%の記録改善に成功したら14分33秒になります。この種のトレーニングがいかに重要かお分かり頂けると思います。

 

参考文献

Owen Anderson, Running Science, Human Kinetics,2013

Paavolainen, L. et al. Explosive-Strength Training Improves 5-km Running Time by Improving Running Economy and Muscle Power, Journal of Applied Physiology,1999