今回は、イタリア人のコーチ、レナト・カノ―ヴァ(Renato Canova)のトレーニング原理についてです。カノ―ヴァは世界一流のケニア人を数多く指導しています。以下のような選手がカノーヴァの指導を受けています。
・サイフ・サイード・シャヒーン(Saif Saaeed Shaheen):5000m12分48秒 3000mSC7分53秒(世界記録)
・ニコラス・ケンボイ(Nicholas Kemboi ):10000m26分30秒
・モーゼス・モソップ(Moses Mosop):10000m26分49秒 マラソン2時間3分06秒(非公認記録)
参考:https://www.youtube.com/watch?v=zfFDwOcMUXI
今、彼のトレーニング原理は世界中で注目されています。今回は彼のトレーニングの期分け(periodization)について書きたいと思います。トレーニングの期分けとは最も重要なレースに調子のピークを持っていくために時期によってトレーニングの内容を変化させる手法のことです。彼のトレーニングの期分けでは6か月を、1.導入期(introductive period)、2.基礎構築期(fundamental period)、3.準専門期(special period)、4.専門期(specific period)の4時期に分けています。それぞれの時期のトレーニング内容は以下の通りです。
1.導入期(introductive period)
・期間は約3週間。
・ゆっくりとしたペースで長時間走を中心に行う。
・ヒルスプリント(登り坂での全力走)で速筋繊維の動員を促す。
2.基礎構築期(fundamental period)
・期間は2カ月間
・LT付近ペースでの持続走を行う。
・各種目ごとの1回の走行時間、ペースは以下の通り。
・800m走者 20~40分 800mの自己ベスト×1.4~1.5
・1500m走者 30~50分 1500mの自己ベスト×1.3~1.4
・5000m走者 45~70分 5000mの自己ベスト×1.15~1.25
・10000m走者 60~90分 10000mの自己ベスト×1.15~1.25
・ハーフマラソン走者 80分~100分 ハーフマラソンの自己ベスト×1.15~1.25
・マラソン走者 105分~150分 マラソンの自己ベスト×1.1~1.2
※5000m15分の自己ベストならば、900秒(15分)×1.15~1.25=1035秒(17分15秒)~(18分45秒)→5kmを17分15秒(1kmあたり3分27秒)~18分45秒(1kmあたり3分45秒)のペースで45分~50分走る
・全トレーニング期間の中で走行距離を増やす時期。
3.準専門期(special period)
・期間は2ヵ月間
・800m,1500m,5000m走者は以下のトレーニングを行う。
・ショートレペティション(短い急走と完全回復を繰り返す)
・ 狙いとする種目の自己記録×0.95-0.90のペースで行う。
・インターバル
・狙いとする種目の自己記録×1.08-1.05のペースで行う。
・急走の距離が合計で4~6kmになるようにする。
・回復時間は短くする。
・10000m、ハーフマラソン、マラソン走者は以下のトレーニングを行う
・インターバル
・狙いとする種目の自己記録×0.98-0.95のペースで行う。
・各種目ごとの急走の合計距離は以下の通り
・10000m走者:10km~12km
・ハーフマラソン走者:12km~15km
・マラソン走者:20km~30km
・持続走
・各種目ごとの走行距離、ペースは以下の通り
・1500m走者 4km 1500mの自己記録×1.18
・5000m走者 8km~12km 5000mの自己記録×1.125
・10000m走者 15km 10000mの自己記録×1.125~1.1
・ハーフマラソン 25km ハーフマラソンの自己記録×1.055
・マラソン 45km~50km マラソンの自己記録×1.125
・狙いとするレースよりも短い距離のレースや長い距離のレースに出場して、スピードと持久力を磨く。
4.専門期(specific period)
・レースペースでのインターバルやレペティションを行う
・例えば、800m1分44秒の走者は400m×5本(50秒、5分の回復)で行う。
・上記のような練習の急走の距離、あるいは本数を増やしていき、よりレースの状況に近づける。
例えば、500m×4(63秒、5分の回復)、400m×6(50秒、5分の回復)
・質の高い練習の間は2~3日空け、その間はゆくっりとしたジョギングを行う。
・モーゼス・モソップの場合、回復時のトレーニングは、朝60~80分、午後40~60分、それぞれゆっくりとしたペースで行っている。
その他特記事項
・全期間にわたって回復(regeneration)のためのランニングはLTペース×1.4~1.3といった極めて遅いペースで行う。参考:
・上で示した各時期のトレーニングは、その時期に最も強調すべきトレーニングであり、それのみを行えばよいということではない。トレーニングの時期が進行しても、前の時期に強調されたトレーニングを適度に混在させる。そうすることで、前の時期に獲得された能力を維持しながら、新たな能力を積み重ねることができる。
従来のトレーニングとの違い
ナイキ・オレゴン・プロジェクトの元コーチである、スティーヴ・マグネス(Steve Magness)はカノーヴァのトレーニングの特徴を以下のように分析しています。
従来のトレーニングの期分けの典型的なパターンは、「基礎構築期に弱い強度でたくさんの距離を走り込み、試合が近づくにつれ練習量を少なし、強度を強くしていく」といったものだった。彼はこの期分けを「直線型期分け(linear periodization)」と名付けてる。なお、この期分けはアーサー・リディアード(Arthur Lydiard)のトレーニングに端を発している。
カノ―ヴァのトレーニングの期分けの特徴は、「トレーニングにスピードと持久力の2つの軸を設け、トレーニングの時期が進行していくにつれ両軸を融合させ、狙いとしたレースに必要な持久力とスピードを獲得する」というものである。マグネスはこの期分けを「漏斗(ろうと)型期分け(funnel periodization)と呼んでいる。「漏斗型期分け」では、基礎構築期に、弱い強度での長時間のランニングで持久力を鍛えることと並行して、60m全力走や、ヒルスプリントのような最大出力でのランニングでスピードを鍛える。試合が近づくにつれ、持久力、スピードを鍛える両トレーニングのスピードを、狙いとしたレースのペースに接近させていく。また、練習量に関しては、トレーニングが進行していくにつれ増加し、前試合期をピークに、試合期にかけ減少していく。
このようにすることで、トレーニング全期間にわたって、高い速筋の動員率が維持される。そうすると、潜在的なスピードを常に発揮できる状態になり、トレーニングの効率が向上する。
参考Webサイト:Let'sRun.com(http://www.letsrun.com/forum/flat_read.php?thread=4465229&page=1)
参考文献::Steve Magness(2014) The Science of Running: How to find your limit and train to maximize your performance, Origin Press
※今回はソースの一部がwebサイトなので、信頼性は各自のご判断に委ねます。
漏斗型期分けは準専門期の初期が練習量のピークで専門期に近づくにつれ練習量を減らしていく解釈で良いですか?
マグネスは前試合期、試合期と表現してますが
カノ―ヴァのトレーニングについての原文はこちらです。https://docs.google.com/file/d/0B_zzkn1-wR0dYzkzM2U0ZjctMjE1NC00ZjI4LWI5YTgtMTRhY2NhYjBhZjQz/edit
ただし、カノ―ヴァが直接書いたものではなく、カノ―ヴァのトレーニングを研究している人が書いたものです。