何事も目的を持って行うということはとても大切なことだと思います。トレーニングについても例外ではありません。長距離走を速く走るためには、
「何を改善したら記録が向上するのかを知る」→「それを改善するトレーニングを行う」
を行うことが必要だと思います。「何を改善したら記録が向上するのか」という疑問に対して、単に「持久力」とか「スピード」といった定義が曖昧なものではなく、正確にその要素をとらえることが必要だと思います。
今回紹介するのは Owen Anderson著, "Running Science",にあった内容です。この本は昨年出版されたばかりの本で、目からウロコが落ちるような内容です。今までの日本の伝統的な長距離走のトレーニングを覆すような内容でショッキングでした。また、川内優輝選手や藤原新選手の活躍の理由が分かった気がしました。
http://www.amazon.com/Running-Science-Owen-Anderson/dp/073607418X
この本の中でOwen Andersonは、以下の7つの要素を挙げています。
トレーニングで改善すべき7つの要素
1.最大酸素摂取量
一定時間に身体に取り込める酸素の最大量。
2.最大酸素摂取量100%ペース維持時間
最大酸素摂取量が出現するペースを維持できる時間。人によって4分から10分と差がある。
3.乳酸性作業閾値
高強度の運動で血中に蓄積される乳酸を再利用して、エネルギーに変換する能力。
4.疲労への耐性
高強度の運動時に、脳からの運動制限の指令に打ち勝つ能力。従来は運動中の疲労の原因は主に乳酸と考えられてきたが、それだけでは説明しきれない現象がある。その矛盾に対して、Tim Noaksは、身体が限界を超えて運動しないように、予測を立てて末梢を管理している、セントラルガバナー(central governor)を提唱した。(Noaks,1997)
5.ランニングエコノミー
走りの経済性。一定のペースで走るためにどれだけ少ない酸素の消費量に抑えることが出来るか。車で例えるなら燃費。最大酸素摂取量が同じ2人のランナーでも、ランニングエコノミーが優れているランナーの方が長距離を速く走れる。
6.ランニングの為の筋力
走動作に関わる筋力。
7.ランニングの最大スピード
20m~300mを全力で走る際の最大スピード。
「最大酸素摂取量」や「最大酸素摂取量100%ペース維持時間」、「乳酸性作業閾値」 は伝統的な日本の長距離走のトレーニングでよく改善が図られてきましたが、「疲労への耐性」、「ランニングエコノミー」、「ランニングの為の筋力」、「ランニングの最大スピード」はまだまだ未開拓の部分だと思います。
特に興味深いのは「ランニングエコノミー」と「ランニングの最大スピード」です。アフリカのランナーは体型が走りに有利なために「ランニングエコノミー」が優れていると言われていますが、実はトレーニングで改善することが可能なのです。また、マラソン選手であっても「ランニングの最大スピード」を向上させることが42kmの記録改善につながると著者は説いています。