
中でも組曲「リザード」の構成は本当に素晴らしい。凝ったジャケットとリンクした想像力を掻き立てる各タイトル、難解だがイメージを膨らませる歌詞とそれを包み込む美しいメロディ、そしてジャズミュージシャンを交えたスリリングな演奏、それら全てが特筆ものである。私は中学生であった当時、英和辞書片手に詩を訳し、この組曲が一体何を物語っているのかと思いを馳せたものであった。さらに、クラシック好きの私にとって、「ピーコック物語のボレロ」が「白鳥の湖」やラヴェルの「ボレロ」を感じさせたのかもしれない。
他の楽曲もどれもじっくり練られ、演奏も素晴らしいものばかりだと思う。特に、2作目から参加しているメル・コリンズのサックス・フルートは本当に素晴らしい。クリムズンに新しい命を吹き込んでくれたと感じる。小品「水の精」はとてもロックのバンドとは思えないほどの美しさ。この曲と1曲目「サーカス」でフリップのアコギが存分に聞けるのもうれしい。私は彼のアコギ・プレイが大好きなのだ。(残念ながら「ディシプリン」以降聞かれなくなってしまったが。)さらに言うと、「サーカス」と「リザード」ではメロトロンの重厚な和音も十二分に堪能できる。
今回の5.1サラウンド盤がリリースされたが、私自身もこのシリーズのサラウンドを単純に楽しんでいる。新たなミックスにおいて特に気がついたのは、「ルーパート王子の目覚め」のボレロに移る終了部分で小さく聞こえていたピアノのアルペジオ音がかなり大きくなっていること。全体的には各パート音がさらに際だち、特にタイトル曲での宇宙感、つまり音の広がりがさらに深まったと感じる。また、前述の「サーカス」でのアコギが空間を飛び回る定位になっているのも面白い。

後になって知った、前後の決して落ち着かないバンド運営状況の中で、よくもここまでの作品づくりがなされたものと感心する。前2枚のアルバムにおけるサウンド・コラージュ的な曲(「宮殿」のムーン・チャイルド後半、「ポセイドン」のデビルズ・トライアングルのこと)は正直言ってちょっと飽きるのだが、そんな部分も皆無のこのアルバム。私にとっては文句なしの名盤である。