ヒロヒコの "My Treasure Box"

宅録、DAW、ギター、プログレ、ビートルズ、映画音楽など趣味の四方山話

17年ぶりの新譜!「カーペンターズ with ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団/CARPENTERS」

2018年12月29日 | ミュージック
      
 カーペンターズとしては17年ぶりの新譜である。当初このアルバムの情報は、過去に録音されたカレンの声に兄のリチャードが再編曲したオーケストラ・サウンドを新たに加味するというような内容だったので、声はそのままだけれどバックが違う別物作品としてリリースされるのだと思っていた。しかし実際に聴いてみるとそれは早とちりであった。曲のアレンジは基本的に変わらず、ストリングスやオーケストラの編成を大きくしたという。これはリチャードが当初抱いていた理想の仕上がりを実現したものだ。

 リチャードがこのアルバムをあえて制作した意図は、付属のリーフレットに明記されている。「オリジナルの録音で重要な楽器が少し音が狂っていたり、曲によっては終わりの方でテンポが速くなっている」部分の修正、「CD化で目立ってしまった録音時に発生した雑音」「とりわけカレンのリード・ヴォーカルに紛れた空調音」などの除去、そして「長年温めてきた追加アレンジのアイデアを形にした」という。国内盤にある村岡裕司氏の解説では、オリジナル録音当時あまり予算がなくストリングス・プレーヤーの数にも制限があった実情が紹介されている。だからこそ今回のバックのサウンドはとてもゴージャスである。写真を見ても実に多くのプレーヤーが演奏に参加しているのがわかる。

 マルチトラックのテープから音源を取り出し、デジタル処理により不要なノイズ等を除去しながらミックスし直すというのはビートルズのサージェント・ペッパーや最近のホワイト・アルバム、そしてスティーヴン・ウィルソンによる5.1チャンネル・サラウンド化されたキング・クリムゾンやイエスなどのアルバムなどがある。それらは録音されたオリジナルの素材音源を生かしている。しかし、このアルバムは演奏自体が差し替えられている(どの部分がそうなのか細かいところまではわからないけれども)ので、オリジナル・バージョンを聞き慣れた身としては、所々違和感を感じるところもあったが、我が息子によると、バスドラのもたつきがなくなっている(Top Of The World)とか、変なタムのフィルインがなくなっている(Close To You)など、ブラッシュアップされたカーペンターズの名曲を改めて聴くことができる。しかし何と言ってもカレンの歌が素晴らしい!過度なリバーブがなくなり、よりクリアになったその歌声は、まるで目の前で彼女が歌っているかのような気分になってしまう。カーペンターズは来年2019年にデビュー50周年を迎えるけれど、このカレンの歌声は永遠に残り続けるだろう。年末、ヘビーローテンションで聴いている一枚である。

キング・クリムゾン札幌公演(12月2日) at 札幌文化芸術劇場 hitaruレポート

2018年12月04日 | プログレ
※注:クリムゾン札幌公演のセットリストについて言及していますので、そのことに触れたくない方は読まないようお願いいたします。

 キング・クリムゾンは私にロック・ミュージックへの道を開かせてくれたグループとして思い出深い。しかし、正直言うと80年代クリムゾンのBeatの頃から興味が失せてしまった。従って最近の再始動にもさほど関心を抱くことはなかった。だが、2015年のRadical Action 3CDs & 1Blu-Rayと2017年のLIVE IN CHICAGO 2CDsは手元にある。それは最近のライブで彼らが初期の楽曲を演奏しているからだ。何と言っても初期のアルバム「宮殿」から「アイランズ」までが私は好きなのだ。特に3枚目の「リザード」が最高に気に入ってる。そしてLIVE IN CHICAGOでは「サーカス」や「リザード組曲」が収録されている。そのような時に、結成50周年のクリムゾンが札幌に来る、それもこの10月に新たにオープンした札幌文化芸術劇場hitaruで行われるというニュースが。これは行くしかない。高額な入場料ではあったがチケットを購入し、12月2日を楽しみにしていた。

     
 まずhitaruについて。複合的施設札幌市民交流プラザの一つであるこの芸術劇場は4階に入り口がありエスカレーターか階段で上がる。こけら落とし公演はオペラ「アイーダ」で、クラシックの演目を多く開催しているようだが、ゴスペラーズや玉置浩二のコンサートなどポピュラーの公演も行われている。会場の造りも北海道初の他面舞台劇場とされ、来年にはレ・ミゼラブルの上演も予定されている。その中本格的なロック・ライブはクリムゾンが最初のようである。私は価格の安い2階席の横側だったが、前方にせり出しているので距離的にはステージに近く、バンド全体の動きを座りながらじっくり見ることができた。

     
 ステージ前列にはドラムが3人分セットされている。トリプルドラムがどのような事態になるのか、Radical Actionで画面を通して見てはいたのだが改めて目の当たりにした。パートを分けたりやフィルインを順番に回すなどの場面も見応えがあったが、3人が同時演奏する時が大迫力であった。前方にあるから他の楽器が聞こえないほど。当たり前だが息もピッタリ。ドラマーの動きに注目せざるを得ないので後方のメンバーもついかすむ。CDではよくわからなかった3人ドラマーの意義はライブバンドとしての活動の中で大きく生きていることがわかった。(Porcupine Treeのドラマーでもあったギャビン・ハリスンが、私の方に近い位置にいたのが密かに嬉しかった。実はCDを何枚か持っている。)フリップ氏は往年の座った姿勢をほとんど崩さず、とても大きなラック1台分のエフェクターを前に黙々と弾き続ける。キャメル以来2度目のご対面となるメル・コリンズのフルート&サックスの演奏も相変わらず凄い。そしてセットリストは初期の作品もたくさん聴かせてくれた。特に「宮殿」からは4曲。メロトロンを模したキーボード・サウンドがアルバムを重厚に再現する。だが、期待していた「リザード」からの曲はなかった。「ポセイドン」や「アイランズ」からも1曲のみ。これは残念だった。残念ついでに言うと、2階席は音が悪かった。前列のトリプル・ドラムの音が先に来て、後列の楽器の音が聞こえづらい。隣の席の方も楽器の音、あまりきれいに聞こえてきませんよね、と言っていたほどである。PAスピーカーの向きが関係しているのだろうか、中央の席ではどうだったのか?だが、終演後階下に降りる列の中で、感動した、来て良かった、と話している人達がたくさんいたし、インスタグラムの投稿でも、音も最高で素晴らしかったという声が多数上がっていたので、やはり場所の問題だったのか、加えて高齢化した私の耳の問題だったのかもしれない。

 クリムゾンの来札は実は2回目のはずである。80年代クリムゾンのメンバーで確か84年くらいに来ている。たまたま私は東京に遊びに行っていて神奈川でのライブを見に行った。その時には古い曲は「レッド」と「太陽と戦慄Pt.2」くらいで、「21世紀の…」はぜひ聞きたかったと思ったものだが、その気持ちは今回のアンコールで解消された。リザードの曲は初日の東京では演奏されたそうだから多少の残念さはあったものの、全体的にはプログレッシブ・ロックバンドとしての「迫力」と「叙情」に満ちた希有で思い出に残るライブだったと言えよう。

 なお、この公演の模様をインスタグラムに投稿したらドラムのパット・マステロット氏より「いいね」を頂いた。たくさんの人が同じ状況にあるようで、マステロットの気さくさに触れクリムゾンがより身近になった気がした。

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