りとるぱいんわーるど

ミュージカル人形劇団“リトルパイン”の脚本の数々です。

“フランチェスコ” ―全14場― 6

2011年12月29日 21時53分37秒 | 未発表脚本


  ヴィクトール「・・・正直になることで、傷付く人間がいるとするな
          ら、何もそうする必要はなかったんじゃないか・・・?
          全く・・・不器用な奴だよ・・・。」
  フランチェスコ「(立ち上がって。)不器用で結構だ・・・。自分の
           心を偽って、カロリーネ嬢と付き合っていく方が、
           俺にとっては堪え難い苦痛になる・・・。それにカ
           ロリーネ自信にも・・・。心を偽り、自分を作って生
           きていくと言うことは、自分自身を無くしてしまう
           ことだ・・・。そんな人生を歩まなくてはいけない・・・
           と言うのは、死んだ人生をこれから一生、歩んで
           いくと言うことなんだ・・・。」
  ヴィクトール「・・・そうか・・・分かったよ・・・。」

         その時、下手よりルネに肩を借り、足を
         引き摺るようにルグラン伯、ゆっくり登場。
         フランチェスコを認め、見据えたまま近付く。
         フランチェスコ、ルグラン伯に気付く。

  ヴィクトール「ルグラン伯・・・。」
  ルグラン「(物凄い形相で。)貴様のせいだ・・・!!貴様が私の
        前へ、無理に走り込もうとしたからだ!!」
  ルネ「ルグラン様・・・。」
  ルグラン「貴様のせいで、私は危うく命を落としかけたんだ!!
        今こうして足を引き摺りながらも、歩いてここまで来れ
        たのが、不思議な程な!!」
  ヴィクトール「そうは仰るがルグラン伯!!私は一番近い所で、
          ずっとあなた方の競り合いを見ていたが、あの時
          あの坂で、馬に無理な加速を加え、落馬為さった
          のは、明らかにあなた自身のミス・・・!!それをそ
          のように言い掛かりをつけられても!!」
  ルグラン「煩い!!」
  フランチェスコ「止めろ、ヴィクトール。(ルグラン伯をチラッと見
           て。)懲りない人だな・・・。」
  ルグラン「何を!?私の怪我の原因が自分にあると、少しは責
        任を感じないのか!?何て傍若無人な野郎なんだ!
        !」
  フランチェスコ「そんなに捲し立てて私を非難し、自分の正当さ
           を主張する程、ルグラン伯は賞金が欲しかったと
           みえる。(笑う。)」
  ルグラン「馬鹿にするな!!何か私の身に降り懸かる問題が起
        こった時に、その問題の原因になっているものは何時
        も貴様だ!!何の躊躇いもなく自分勝手、好き放題、
        如何言うつもりか知らぬが、必ず貴様は何時も何時も
        私の癇に障るようなことをする!!」
  ヴィクトール「如何言うつもりも何も、あんたが勝手にそう思い込
          んでるだけじゃないか・・・。」
  フランチェスコ「全くだ。(笑う。)」
  ルグラン「黙れ!!私を笑い者にするつもりか!!覚えていろ!
        !其の内必ずおまえをギャフンと言わせてやる!!」
  フランチェスコ「ギャフンと言って欲しいなら、いくらでも言ってや
           る。“ギャフン”とな!」

         フランチェスコ、ヴィクトール顔を見合わせて
         声を上げて笑う。
         ルグラン伯、怒りに顔を紅潮させ、わなわなと
         震える。

  ルグラン「もういい!!行くぞ、ルネ!!」

         ルグラン伯、ルネに肩を借り、上手へゆっくりと
         去る。
         フランチェスコ、ヴィクトール、多少呆れたように
         その方を見詰めている。

  ヴィクトール「(ルグランが去るのを見計らって。)からかい甲斐
          のある奴だな。」
  フランチェスコ「ああ・・・。だけど・・・(何か思いがあるように。)」
  ヴィクトール「如何した?」
  フランチェスコ「あ・・・いや・・・何でもない・・・。(気を取り直した
           ように。)行くか!」
  ヴィクトール「ああ。」

         2人、下手へ去る。
         音楽で暗転。紗幕閉まる。   

    ――――― 第 11 場 ―――――

         紗幕前。フェード・イン。
         中央に佇むカロリーネ、悲し気に歌う。
         (途中、ルグラン伯下手より登場。カロリーネを
         背後より見詰めている。)

         “この世で結ばれるのは
         たった一人のあなたと決めていたのに・・・
         夢とは何て儚くも脆い・・・
         霞のように・・・
         辺りを包み
         掴もうとしても
         握ったその手には
         ただの虚像が映るだけ・・・
         目の前にあるもの全てが
         嘘であるかのように
         自分の愛でさえ・・・
         不確かで・・・
         偽りのない未来を夢見て
         歩いた昨日が
         丸で遠い過去になってしまったように
         全て押し流されてしまった・・・
         私自身の生きる意味さえ
         押し流してしまった・・・”

  ルグラン「(呟くように。)カロリーネ・・・」

         悲し気に遠くを見遣るカロリーネ。
         カロリーネを愛おしそうに見詰めるルグラン伯。
         フェード・アウト。

    ――――― 第 12 場 ――――― A

         音楽でフェード・インする。と、舞台は
         フランチェスコとジェシカが出会った広場。
         中央に佇むフランチェスコ、その回りを幸せ
         そうに蝶のように舞うジェシカを、微笑ましく
         見詰めながら、嬉しそうに歌う。

         “今・・・
         この心の安らぎは
         大地を走り抜ける微風と共に
         満ち足りた思いで
         私を包み込む
         決して感じたことのない
         この甘いときめきに
         何故か心が逸るのを止められない
         今・・・
         月の輝きに照らされて
         2人共に未来を見詰め
         踏み出した一歩から
         真っ直ぐ延びる
         果てしなき道・・・
         導く香り・・・
         その向こうに
         微笑むおまえの優しい瞳・・・
         何時までも・・・何時までも・・・”

  フランチェスコ「リーザの具合は?」
  ジェシカ「(嬉しそうに。)あなたのお陰で、最近はちっとも発作
        も起こらないし・・・。ありがとう・・・。何てお礼を言った
        らいいか・・・。」
  フランチェスコ「それはよかった。言っただろう、あの薬は秘薬
           だって・・・。(微笑む。)」
  ジェシカ「(微笑んで頷く。)あなたは私に、色んなものをくれた
        わ・・・。ものだけじゃなくて・・・人に対する心とか・・・
        生きて行く姿勢とか・・・人生に於いて、一番大切なこ
        とを色々教えてくれた・・・。」
  フランチェスコ「今の言葉は、そっくり其の儘、私からおまえに
           返そう・・・。おまえと出会ったことに、心から感謝
           しているのは私なのだから・・・。」
  ジェシカ「(フランチェスコを見詰め。)フランチェスコ・・・」
  フランチェスコ「(嬉しそうに。)初めておまえとこの場所で出会っ
           た時のことは忘れない・・・。いやに息巻いて、私
           に食って掛かってきた。(笑う。)」
  ジェシカ「いやね!ただ・・・あの時は、あの貴族に剣を突き付け
        られて、思わず昔を思い出して・・・」
  フランチェスコ「・・・昔・・・?」
  ジェシカ「(無理に微笑むように。)何でもない・・・」
  フランチェスコ「必要以上に剣を憎んでいるように聞こえたけれ
           ど・・・?」
  ジェシカ「(顔を逸らして。)そんなこと・・・」

         ルグラン伯、上手より酒に酔ったように、
         千鳥足でゆっくり登場。ルネ続く。

  フランチェスコ「何故・・・(言い掛けて、ルグランに気付き、その
           方を見る。)」
  ルグラン「やぁ、フランチェスコ殿じゃあありませんか。(絡み調子
        で。)」
  ルネ「ルグラン様・・・(心配そうに。)」
  ルグラン「(ジェシカをチラッと見て。)おや、そちらの女性・・・近
        頃、巷で噂されていたこと・・・それは本当だったようで
        すねぇ・・・。クリストフ公爵家のフランチェスコ殿は、ご
        自分の身分を忘れてお仕舞いになった。何でも、下町
        界隈の・・・一般に“下種人”と呼ばれるような身分の
        賤しい娘に入れ込んでおられる!!と・・・」
  フランチェスコ「・・・何だと・・・(落ち着いているように。だが、怒り
           に震えた口調で。)」
  ジェシカ「・・・フランチェスコ・・・行きましょう・・・。」

         フランチェスコ、ジェシカに言われるままに
         ゆっくり歩き出す。

  ルグラン「おい、逃げるのか若造!!貴様、一体如何言うつもり
        なのだ!!あの高貴な身分の・・・あの貴婦人然とさ
        れたカロリーネ嬢を足蹴にし、こんな何処の誰とも分か
        らないような・・・馬の骨・・・」
  ジェシカ「・・・カロリーネ・・・?」
  ルグラン「(ジェシカに向かって。)おまえのせいで、この男は婚
        約者であった彼女を泣かせることになったんだ!!」
  フランチェスコ「じゃあ貴様は自分の心を偽り続け、カロリーネ嬢
           と共に歩むのが、本当に彼女の幸せだと信じる
           のか!?」
  ルグラン「自分を正当化するつもりか!!」
  フランチェスコ「そんなつもりはない!!」
  ルグラン「では何故こんな娘と・・・!!」
  フランチェスコ「(ルグランの言葉を遮るように、ルグランの胸元
           を掴む。)やめろ!!それ以上彼女を侮辱する奴
           は許さない!!」
  ジェシカ「(フランチェスコを止めるように。)やめて・・・フランチェ
        スコ。私のことなら構わないの・・・。何て言われたって、
        その通りなんだから・・・。」
  ルグラン「本人も認めておられるようじゃないか。如何見てもカ
        ロリーネ嬢とは雲泥の差。何故、カロリーネ嬢に涙を
        流させるような真似をを・・・よくも・・・!!」
  フランチェスコ「それ以上言えば、例え伯爵であろうと、今ここで、
           この場所で貴様の首を叩き切ってやる!!」
  ジェシカ「やめて・・・」
  ルグラン「ああ言ってやるとも!!幾等でも言ってやるさ!!
        貴様はこんな身分の賤しい娘と!!如何言うつもり
        なんだ!!」
  フランチェスコ「(思わず剣を抜く。)」
  ジェシカ「やめて!!お願い!!」
  フランチェスコ「(ジェシカの叫び声に、躊躇ったように。)」
  ルグラン「如何した!!やるなら早くやれ!!」
  ルネ「ルグラン様!!」
  フランチェスコ「(暫くルグランを見詰め、剣を鞘へ仕舞い、胸ポ
           ケットから手袋を出し、ルグランへ投げ付ける。)
           決闘だ!!ルグラン伯!!時間は明日の夜明け
           、場所は森の中の一本杉、そこでおまえの息の
           根を止めてやる!!」
  ルグラン「望むところだ!!若造!!今の言葉は私のものだ!
        !明日を楽しみにしておけ!!(手袋を拾い、豪快に
        笑う。)ルネ!!行くぞ!!」
  ルネ「ルグラン様・・・」

         ルグラン伯、下手へ去る。ルネ、オロオロと
         続いて去る。

  ジェシカ「・・・如何して、直ぐ剣を抜くの・・・?何故、決闘なんか
        !!私のことなら、何て言われたって平気なのに!!
        」
  フランチェスコ「これは自分自身の道理の問題だ!!」
  ジェシカ「けど分からないわ!!例え、それがあなたにとって
        大切なことであっても、何故命を賭けてまで・・・!?」
  フランチェスコ「おまえに俺の気持ちなど分かるものか!!」
  ジェシカ「そう・・・そうよね・・・。私みたいな一国民に、あなたの
        ような偉い方の考えていることが、分かる筈ないわね
        !!」
  フランチェスコ「如何して自分をそんな風に見下すんだ!!如何
           して自分の素晴らしい所を見ようとしない!!」
  ジェシカ「私は・・・今まで誰にも認めて貰えなかった・・・。けど
        ・・・それが当たり前で、認められようともしなかった・・・
        。あなただけは違うようなことを言っておきながら、あな
        たは・・・婚約者がいたことを、私に教えてはくれなかっ
        た!!」


  
           




     ――――― “フランチェスコ”7へつづく ―――――









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