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身近に起こった出来事の記録。

「遺産分割はすべて妻に任せる」という遺言書。

2019-05-23 07:12:57 | Weblog
「そのような遺言は、避けた方が無難。」
「後から無効だと主張されることも少なく無い。」

民法では共同相続人の相続分を定めており、これを「法定相続分」という。
しかし、様々な事情を勘案した結果、法定相続分が実現されたとしても公平な配分にはならない場合が有る。
「法定相続分の修正」のために遺言を作成する。

民法の規定。
(1)被相続人は、法定相続分等の規定にかかわらず、遺言で共同相続人の相続分を定めることを第三者に委託することができる(民法902条1項)

(2)被相続人は、遺言で遺産の分割の方法を定めることを第三者に委託することができる(民法908条)

これらの規定を見て、第三者にかなりのことを委託できそうだと考えてしまう人もいそうです。
しかし、規定の中身はこう。

(1)は「遺留分を侵害しない範囲において、法定の相続人に対する個別の遺産の相続割合を指定すること」
(2)は「第三者に委託できるのは遺産の分割の方法」だけ。
「遺産の分割の方法」とは一般には、法定相続分を変更せずに
「現物分割」「代償分割(債務負担による遺産分割)」「換価分割」
のいずれかの方法を指定をする事。

この2つの規定を考えると、
「遺産をもらう人は誰でもいいから、自由な判断で遺産分けをしてほしい」
ということを第三者に委託できるものではないと考えられます。
さらに、委託できるのは「第三者」だが、財産をもらう立場にある妻は、
第三者とはいえない。

ただ、この点については違う考え方もあります。

「妻にすべてを任せる」というのは、相続人の一人である妻に遺産の配分を一任するというもので、
妻を代理人として「誰に」「何を」「どれだけ」残すかを決めてもらうことです。

これは民法902条第1項や908条が定めている
「個別の遺産の相続割合を指定する」
「遺産の分割の方法を決める」ことではなく、
まさに代理人を立てて遺言を実現するのと同じことに当たるため、
法的には不可能と判断できると思います。

ある専門職の人から
「『遺言執行者が遺産を受け取る人を任意に複数人選び、かつ遺産の配分の割合なども遺言執行者が任意に決めることができる』という内容の遺言を作成できますか」と聞かれました。
「受遺者が特定されていないし、分割方法も決まっていないので作成できません」と答えた。

受遺者の選定を遺言執行者に委託するという内容の遺言が有効とされた判例も有る。
この事例は、遺言の中に「公共」の中から受遺者を選ぶようにとあったため、
国または地方公共団体などと理解してよいと判断された。(最高裁1993年1月19日判決)

この最高裁判決を参考にするなら、受遺者をある程度特定した上で遺産の全部または一部の遺贈について遺言執行者に委託することは可能と解釈できる場合もあるといえます。

受遺者を指定できる権利

「財産を誰に残すのか私には決められない。遺言執行者の弁護士に一切を任せたい」と希望した場合、
どのようにすれば実現できるか。
「家族信託」を使えば実現できる。

信託には「受遺者指定権者」という制度があります。
この制度は、「受益者指定変更権」を持つ人を定めておく信託、
つまり、誰を次の受益者にするか、残余財産受益者などを誰にするのかを委託することができる信託。
(信託法89条)


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