9日、NATO首脳会議の会場で集合写真に納まる首脳ら(ワシントン)=AP
【ワシントン=辻隆史】
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が9日、米ワシントンで開幕した。ウクライナへの資金供与や加盟問題など長期的な支援策を協議する。
ロシアと中国の脅威が高まるなか、NATOが対処する領域は宇宙やサイバー空間を含めた全方位に広がる。加盟国と有志国の結束を深め、安全保障リスクに備える。
「このサミットは最も成功した同盟の歴史を祝うだけではない。ウクライナの将来やアジアとの連携について重要な決定を下す」。NATOのストルテンベルグ事務総長は9日、記者団にこう強調した。
NATO首脳会議は3日間の日程で開く。32の加盟国首脳のほか、日本の岸田文雄首相やウクライナのゼレンスキー大統領らも出席する。
最大のテーマが、ロシアとの戦闘が続くウクライナを支援する体制づくりだ。
加盟国は2025年に400億ユーロ(約7兆円)を供与することで合意する見通し。ミサイル攻撃に対抗できる防空システムの提供拡大も決める。
ドイツにはNATOの新司令部を創設し、ウクライナ軍の反攻を訓練などで後押しする。ウクライナの首都キーウには上級代表を駐在させ、より緊密な連携を目指す。
最終日までにまとめる成果文書では、ウクライナの将来的な加盟を巡る文言を詰めている。加盟国には戦争終結前の加盟に否定的な意見が目立つ。
23年の首脳会議では「加盟国が同意し、条件が満たされた場合」に、加盟を認める方針を確認した。
今回の会議では、さらに踏み込んだ文言を示せるかが注目される。ゼレンスキー氏は9日に「米欧に対し、私たちの兵士を支援するための断固たる行動を求めたい」とX(旧ツイッター)に投稿した。
資金提供をあらかじめ約束するのは、トランプ前米大統領が11月の大統領選で返り咲くことに備えるためだ。欧州でも支援に慎重な極右や右派が台頭しており、支援体制が混乱するリスクを減らす。
NATOは1949年、旧ソ連を中心とする共産圏の脅威を受けて米欧12カ国で立ち上げた。東西冷戦の終結後は世界の安全保障環境の変化に応じて対象領域を広げてきた。
「専制国家が世界秩序を覆そうとしている」。バイデン米大統領は9日の演説で、危機感をあらわにした。
2022年のロシアによるウクライナ侵略はNATOが軍事同盟として再び活性化する契機となった。
国際社会から孤立したロシアが中国との連携を深めたこともあり、米欧にとっての脅威の範囲は大きく広がった。各地域の安保情勢が「NATOの主な防衛対象である北米や欧州とリンクし始めた」(NATO高官)との認識がある。
このためNATOは「360度アプローチ」と呼ぶ方針を掲げ、地球上のあらゆる方角からの脅威に向き合う。なかでも北極圏は安保上の重要性が増しているとみる。
制服組トップのバウアー軍事委員長は日本経済新聞の取材に、地球温暖化で北極圏の氷が解ければ、ロシアが艦隊を素早く移動させられるようになると指摘した。「中国も海軍を北上させることができる。これが軍事的な課題だ」とも述べた。
日欧には北極圏に海底ケーブルを敷設し、高速なデータ流通を促進する計画がある。このケーブルをロシアなどからどう守るかも課題だ。NATOは対応策を議論し始めている。
欧州大陸の東側に位置する中国も警戒対象だ。22年にまとめた「戦略概念」で初めて「体制上の挑戦」と名指しした。
ストルテンベルグ氏は中国が電子部品などの供給を通じてロシアを軍事支援していると批判する。英BBCとのインタビューでは中国に「経済的な代償」を支払わせるべきだと主張した。
中国や北朝鮮など東アジアの安保環境に着目し始めたことで、日本や韓国といったインド太平洋の有志国と協力を進める機運が高まった。
「南」への視点も忘れていない。アフリカの食糧危機や治安の悪化は大量の移民・難民を生み出し、テロ組織の温床にもなる。
NATOは専門家グループなどの助言を得ながら、対テロ活動などで「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国とどう組むべきか協議に着手している。
地理的な概念を超えた宇宙やサイバーといった安保上の新領域への対応力も向上させている。中ロは宇宙開発に力を入れており、サイバー攻撃は世界のどこからでも仕掛けることが可能だ。
NATOは宇宙やサイバーを伝統的な陸海空と並ぶ作戦領域と位置づけ、中ロを中心に監視を強めている。今回の会議でも、日韓などの有志国との協力関係をより深め、幅広い危機への対応能力を向上させる。
2022年2月、ロシアがウクライナに侵略しました。戦況や世界各国の動きなど、関連する最新ニュースと解説をまとめました。