
原爆症とは、広島・長崎への原爆投下での被爆による健康被害の総称です。広島・長崎に投下された原子爆弾による放射線を浴びて生じた健康障害のことで、被爆直後に発生する発熱や下痢、脱毛などの急性原爆症と数十年経過後に生じるがんや白内障などの晩発性原爆症があります。
原爆症認定制度とは、「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」に基づき、厚生労働大臣が原爆症と認定した被爆者には、毎月137,430円の医療特別手当が給付する制度です。厚生労働省が被爆者から原爆症認定の申請を受けると、当時の被爆した位置から体に浴びた放射線量を求め、年齢や性別などの特徴から原爆症の発生リスクを計算して認定します。
しかし、この発生リスクなるものの計算方法が不合理で、被爆者が申請した原爆症認定申請を厚労省はほとんどの場合却下します。この却下処分の取り消しを求めて提起されるのが原爆症認定訴訟です。
これまでの原爆症訴訟では、原爆症になった被爆者の原爆症認定申請に対して却下した処分を取り消すという判決は、被爆者側が全国で19連勝するなど、被告厚労省は原告被爆者らに行政訴訟では異例の通算30敗近くをしています。
原爆症認定訴訟 近畿弁護団通信
2009年8月6日、時の麻生自民党政権と日本被団協との間で調印された「原爆症集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」においては、
「一審判決を尊重し、一審で勝訴した原告については控訴せず当該判決を確定させる。」
こととされ、国はこの確認書に基づき、従前の集団訴訟についてはすべて控訴せず一審判決を確定させてきました。確認書締結に際して、河村健夫内閣官房長官は、
「19度にわたって、国の原爆症認定行政について厳しい司法判断 が示されたことについて、国としてこれを厳粛に受け止め、この間、裁判が長期化し、被爆者の高齢化、病気の深刻化などによる被爆者の方々の筆舌に尽くしが たい苦しみや、集団訴訟に込められた原告の皆さんの心情に思いを致し、これを陳謝します。」
と謝罪の言葉を述べていました。
しかし、この確認書制定後に作られた新しい原爆症認定基準も不合理なままで、被爆者は結局、民主党政権になっても裁判を強いられ、厚労省はまたも負け続けています。
原爆症集団認定訴訟また被爆者勝訴 原発推進のため被曝の影響を矮小化する国の原爆症認定行政は許されない
そこで、確認書で約束され設立された「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」は2012年6月28日、東京都内で第13回会議を開き、現在の共通認識と各委員の意見を列挙した中間報告を了承しました。現行制度の改善を基本に詳しい制度設計に入る方向を示したが、現行制度の廃止と新制度を求める日本被団協の主張も併記し、9月に議論を再開することになりました。
この中間報告は「基本的な制度の在り方」「認定基準」「手当」の論点で整理し、制度の在り方について「現行制度をより良くするのを基本」としつつ「原爆症認定制度は破綻しているという意見に留意」を共通認識に挙げた。必要に応じた被爆者援護法改正も明記ました。
被団協の委員がこの日の会議で、原爆症認定者の医療費を国が全額負担するのは「国家補償的配慮」があると強調。「被爆者援護には一般の福祉施策とは異なる理由がある」との記述も加えました。
認定基準については、残留放射線の影響をめぐり現行の認定基準が「軽視している」「勘案している」の両論を併記し、手当に関して、全員に支給した上で病状に応じて段階的に加算する被団協の「被爆者手当」案も取り上げました。
毎日新聞 2012年06月28日 21時22分
原爆症認定制度を見直す厚生労働省の検討会が28日開かれ、現行制度を基に、今後必要に応じて被爆者援 護法改正などの改善策を検討するとの中間報告をとりまとめた。日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)は被爆者全員を対象にした制度の新設などを求めて いるが、全面的な見直しは見送られそうだ。
検討会で被団協は、がんなどの疾患が放射線で発病したという因果関係を厳格に求める現在の認定基準は ハードルが高く、被爆者健康手帳所持者(約22万人)のうち医療特別手当(月額約13万7000円)を受給する原爆症認定者は約7200人に過ぎないこと を問題視。手帳所持者の病状に応じた手当を新設するよう求めていた。
しかし、中間報告は被団協の要望には踏み込まず、「被爆者援護の財源は国民の理解を得る努力が必要」と指摘。その一方、国の原爆症審査で認められなかった人が司法判断で認定されている現状を踏まえ、「制度は破綻している」という被団協側の意見にも留意するとした。
原爆症をめぐっては、国の認定範囲が狭過ぎるとして各地で起こされた訴訟で国側の敗訴が続き、厚労省は08年4月と09年6月に基準を緩和。しかしその後 も審査での却下が相次ぎ、検討会が10年12月に見直しの議論を始めていた。座長の神野直彦・東京大名誉教授は「今後は共通認識を深める作業をしていきた い」と話した。具体的な見直し論議は9月以降に始まり、最終報告に向けて話し合いを続けるという。【井崎憲】
被爆者の団体である日本被団協は平均年齢が75歳を超える、しかも被爆者の組織です。毎年数千人ずつ亡くなっており、もはや自分たちの手当だけを考えて運動しているのではありません。まさに、福島原発事故のような新しく生まれてくるヒバクシャたちのために行動しています。
逆に、厚労省がとにかく原爆症認定申請を却下し、放射線被害を矮小化し、手当も縮小しようとするのは、アメリカの核の傘の下にある以上、核兵器を否定できないということと、国策としての原発推進があります。
この中間報告書では「被爆者援護の財源は国民の理解を得る努力が必要」といいますが、広島・長崎の被爆者の数は急速に減っていく一方です。しかし、ここで放射線被害を直視した制度を作ると、将来、戦争や原発事故で大量の被ばく問題が出たときに莫大な費用が発生すると恐れているわけです。
国民の健康を守るべき省庁が、軍事や利権に屈してしまっているのです。
広島、長崎の被爆者たちに対する原爆症認定制度を抜本的に改革することは、国が二度と放射線被害を出せなくなることにつながり、全国民の生命と健康と安全を守ることになるのです。
年間100ミリシーベルト以下の放射線の発がんリスクが高いことは原爆症認定訴訟の判決で決着がついている
追記
ちなみに、裁判で負け続けている厚労省の新しい原爆症認定基準でも、心筋梗塞など、以下の7つの疾病が原則認定=特段の事情がない限り原爆症と認定する疾病、とされています。
放射線による障害はがんだけではないことを知っておいてください。
放射線影響研究所のずさんな被爆者12万人調査などでも、放射線の後遺症であるというエビデンス(証拠)があまりにもはっきりしているということですね。
さて、厚労省の「新しい審査の方針」で「積極認定」とされる病名は、
①悪性腫瘍(固形ガンなど)、
②白血病(悪性リンパ腫、骨髄異形性症候群含む)、
③副甲状腺機能亢進症(高カルシウム血症)、
④放射線白内障(加齢性白内障を除く)、
⑤放射線起因性が認められる心筋梗塞、
⑥放射線起因性が認められる甲状腺 機能低下症、
⑦放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変
です。
以上から、全身のガン、血液のガンである白血病の他に、白内障、心筋梗塞、甲状腺、肝臓にまず気をつけなければいけないことが分かります。
内部被曝は外部被曝よりはるかにダメージが大きい 内部被曝の恐怖39
ところが、裁判所で勝訴が確定した原爆症の病気はこれだけではありません。以下、全国の地裁・高裁で原爆症だと認められた疾病名を上げると以下のように多種多様なものがあります。
骨 変形性脊椎症 変形性膝関節症 骨粗鬆症
血液・血管 貧血 骨髄異形成症候群 白血球減少症 網膜動脈閉塞症
脳 脳梗塞 椎骨脳底動脈循環不全
消化器 糖尿病
皮膚 熱傷瘢痕(ケロイド)
その他 体内異物
福島原発事故から1年 原爆症訴訟がまた勝訴! 裁判で確定した放射線に起因する全病名はこれだ
(内部被曝からいのちを守る―なぜいま内部被曝問題研究会を結成したのか
市民と科学者の内部被曝問題研究会 (編集)
ヒロシマ、ナガサキを忘れないことはフクシマを忘れないこと。
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大田洋子氏(1906~1963)の自らの広島での原爆の被爆体験を描いた「屍(しかばね)の町」の1950年度版の序文中の1文です。この作品は1948年にまず出版されたが占領軍の規制により多くの部分を削除され、1950年に至ってようやく完全版で出版されました。広島への原爆投家下による惨害をテーマにした作品は峠三吉の「原爆詩集」(1951)、原民喜の短編集「夏の花」(1947)、そして井伏鱒二の「黒い雨」(1965)などがあり、中学の国語教科書にも収められていましたが、大田氏のこの作品および同じテーマの「人間襤褸(らんる)」もまた原水爆など核兵器の持つ破壊力―多くの人間を無残に殺戮し傷つけ大都市を壊滅させたという物理的なそれだけでなく人間性・人間精神に対する容赦ない虐待と破壊の力を、そして「世紀の、否日本人の味った(ママ)最大の悲劇、原子爆弾に難を受けて斃れた人々と、生き残った傷心の広島の人々を想う思い」(同序文)を遺憾なく伝えています。広島・長崎への原爆投下から69年、改めて、8月を前により多くのひとに読まれるべき作品といえましょう。