不条理み○きー

当面、きまぐれ一言法師です

「微  熱」

2005年06月15日 23時35分36秒 | Story

「待って!熱っぽいんだろ?」
 あたしは、アパートを飛び出してすぐの階段で、追ってきた彼に捕まる。

「離して!」
 あたしは、彼の手を振りほどく。
「でも・・・。」
 呆然とする彼。

「いい加減にして!
 嫌いなら嫌いって、言えばいいのに!
 どうして、あたしに優しくするの?」
 彼は黙っている。

「わがままばかり言うし、あなたの都合は考えない!
 約束は破るし、嘘もつく!

 今日だって、知っているでしょ?
 あたしは、元彼のところに行ったのよ?
 彼が結婚するって聞いたから・・・
 いてもたっても居られずに・・・
 彼の家に押しかけたのよ!
 なのに・・・なのに・・・
 どうして、そんなにしていられるのよ!」

 彼が、静かに口を開いた。
「でも、何もなかったんだろ?
 元彼とは。」
 あたしは、その彼の冷静さに、余計に腹が立つ。

「関係ないでしょ?
 あたしは、あなたを裏切った。
 そういう事なのよ?
 どうしてそんなにニコニコしていられるの?

 バカヤローって、言いなさいよ!
 別れるっていいなさいよ!
 そっちの方が、余程すっきりするわ!」

 そして、あたしは、彼を見た。
 怒っているだろう彼の顔を確かめたかったから。
 しかし・・・彼は、いつもの顔でこう言ったのだ。

「でも、帰って来てくれたじゃないか。」
「え?!」
 彼の罵声を想像していたあたしは、虚を突かれる。
「いいんだ。」
 彼は、続けて言った。

「そんなキミが好きなんだよ。
 キミの嘘も強がりも涙も。
 キミの元彼への想いも。
 全部ひっくるめて、キミが好きなんだ。
 ボクは、そうゆう風にしか、愛せない。」

 あたしの体中の力が抜けた。
 熱い何かがこみ上げてきた。
 それが、溢れそうになるのを必死で押さえて。

 あたしは黙って自分の顔を彼の胸元に押し付けた。

「あたし・・・やっぱり、熱があるみたい。」

 彼は、そっとあたしを抱きしめる。

 少し、雨脚を強めた暖かな雨が、溢れ出したあたしの涙を隠してくれる。
 あたしは、もう少し頑張れる気がした。

 紫陽花の花が、雨に打たれて「うんうん」と頷く様に揺れていた。


~ Fin ~




 いや、柄にも無くあげはさんの虎に釣られてしまいました。
 元の話には、敵うべくもありませんが。

 それにしても、優しいと感じる雨に、一度降られてみたいものです。

【TB】優しい雨 女の一生

最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (フジコ)
2005-06-16 11:39:57
紫陽花がすてきですね。

情景が目に浮かびます。



そういえば

私も優しい雨に打たれたことがありません。。

返信する
思わず・・・ (あげは)
2005-06-16 12:33:26
ホロリと涙が出てきちゃいました。(涙)

いやいや、あたしの記事に比べたらもったいないくらいの素敵な記事です。

ぷとぱぱさんの記事を読んで、もう一度胸が熱くなるような恋愛をしてみたくなりましたよ。

そしたら今度は、あたしが優しい雨を感じさせてあげたいなぁ。

TBありがとうございました!
返信する
大丈夫ですよ (ぷよぱぱ)
2005-06-16 23:24:55
★フジコさん

 雨よりも優しい彼に、そっと包まれてるでしょ?
返信する
だいじょうぶ(^-^) (ぷよぱぱ)
2005-06-16 23:27:03
★あげはさん

 あげはさんの元記事、あればこそですから。

 もう一度、胸の熱くなるような恋、頑張ってくださいね。

 応援しています。
返信する
穏やかすぎて ()
2005-06-17 11:11:18
例えばうちの相方。穏やかすぎて、

こんな激しい感情をぶつけたことは

ありません。(苦笑)



素敵な記事にちょっぴり涙が出そうでした。



あげはさんのも拝見させていただきました。

みんな素敵な恋をされてますね~。
返信する
人それぞれの (ぷよぱぱ)
2005-06-17 22:49:16
★和さん

 クライマックスがあると思うのですよ。

 胸に手を当てると、穏やかな旦那さんとも、ほら?!



 今度是非、和さんの恋バナ聞かせてくださいね。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。