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集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

ザ・空気2 誰も書いてはならぬ

2018年07月29日 | 観劇など
二兎社の「ザ・空気2 誰も書いてはならぬ」を池袋の東京芸術劇場シアターイーストで観た。
「誰も書いてはならぬ」というタイトルは、もちろんプッチーニの歌劇「トゥーランドット」に出てくる「誰も寝てはならぬ」(フィギュアスケートの荒川静香のイナバウアーで有名になった曲)のパロディである。
ザ・空気」は、テレビの人気報道番組の制作現場での「空気を読む」ことの問題点を抉り出した作品で、2017年1月に初上演された。昨年の読売演劇大賞の最優秀演出家賞(永井愛)、優秀作品賞、優秀女優賞(若村麻由美)を受賞し有名になった。今回はその第二弾で、記者クラブの大手新聞社やNHKの政治部がテーマとなっている。

舞台はビルの屋上で手すりがあり左手には高置水槽がある。ただし場違いな感じでビーチパラソルとガーデンチェア、小さいテーブル、おまけにクーラーボックスまである。
しかしここは永田町の首相官邸と通りを隔てた国会記者会館屋上なのだ。
毎週金曜夕方、反原発官邸前抗議行動が実行されているが、国会記者会館はわたくしが月1度参加している歩道のすぐ近くにある。ただ屋上に、高置水槽やポンプ室があるかどうかは見たことがないのでわからない。

たまたま大規模修繕なのかシートがかかっている国会記者会館
登場人物は5人、ネットテレビ局アワ・タイムズ代表井原まひる(安田成美)、リベラル系全国紙政治部記者官邸キャップの及川悠紀夫(眞島秀和)、大手放送局の解説委員兼政治部記者・秋月友子(馬渕英里何)、保守系全国紙政治部の若手記者・小林司(柳下大)、保守系全国紙論説委員の飯塚敏郎(松尾貴史)。
このなかで秋月はNHKの大物解説委員・岩田明子記者にうり二つである。少し詳しく岩田のプロフィールをウィキペディアを引用して紹介する。
1970年生まれ、千葉県船橋市出身。船橋市立薬円台小学校、千葉大学教育学部附属中学校、県立千葉高等学校、東京大学法学部を卒業。1996年4月、NHKに入局、岡山放送局を経て2000年に東京・政治部に異動、内閣官邸記者クラブにて、森喜朗首相、古川貞二郎内閣官房副長官の担当を務め、後の内閣総理大臣である安倍晋三を官房副長官時代から担当。2013年、43歳で政治担当の解説委員となり、記者も兼務している。
安倍の外遊時に背景解説などで画面に登場するのはみなさまご存知のとおりである。つまり安倍が46歳で森の官房副長官を務めたころから20年近く密着取材してきた記者である。首相近辺のスクープは数知れないスター記者であるが、安倍ベッタリ報道でも知られる。

井原は、社名が似ているせいかOur Planet-TV代表の白石草さんを連想させた。白石さんはテレビ朝日系の制作会社、東京メトロポリタンテレビを経て2001年Our Planet-TVを設立。福島原発の「現在」の取材を続けている。
飯塚は保守系全国紙ということなので、産経か読売ということにる。たとえば産経の阿比留瑠比や石井聡かとも思われるが、「メシ塚」と綽名されるというので、「田崎スシロー」と呼ばれる時事通信・田崎史郎がモデルとも考えられる。ただ、わたくしはあまり詳しくないのでよくわからない。
及川と小林にモデルがいるのかどうかはわからない。作劇上、欠かせない登場人物であることはわかる。

ストーリーは下記の通り。
ある朝、小林が記者クラブのコピー機に記者会見での首相の回答の「指南書」を偶然発見し、他社ではあるが尊敬する先輩の及川に相談する。それを聞いた及川は秋月を疑い、直接問いただすがきっぱり「私ではない」と否定される。そして秋月は飯塚を呼び出し「あの方がお困りです。おやめください」と申し渡す。なんと、秋月も別バージョンの指南書を書いていたので、指南書が2つもあると総理が混乱するというのである。
なお芝居のストーリーのモデルは、2000年5月、森喜朗首相(当時)の「神の国発言」の釈明記者会見前日に「明日の記者会見についての私見」という首相への指南書がみつかった事件である。JanJanブログによれば、西日本新聞の記者が記者クラブ内のコピー機に忘れられていたこのメモを見つけ、そのメモとこの問題に関する記事を掲載したが、ほとんどの大手メディアは無視した。「指南役」はNHK政治部記者の大木潤氏とのことだ。2000年5月というと安倍の副官房長官就任直後だ。岩田記者がその後同じようなことをしたかどうかはわからないが、NHK政治部にはそういう「伝統」があるらしい。
井原は、たまたま記者会館屋上から地上の反原発抗議デモを撮影しようと会館に入り込み、記者の話の一部始終を聞いてしまい、飯塚の決定的セリフをICレコーダーに録音する。また井原も及川も、ジャーナリストで反権力の桜木(故人)と仕事をしたことがあった。本当は、井原は記者クラブ外の人間なので、会館に出入りすることすら(現状では)できない人間なのだ。
Our Planet-TVが実際に2012年7月、原発抗議デモを取材・撮影するため国会記者会館屋上の使用を国会記者会や衆議院議長に求めたが断られたことを初めて知った。

役者では、松尾貴史がよかった。
自宅のプリンターで印刷するのでなく、記者クラブのコピー機を利用した理由として、「A4サイズでは見にくいのでB4サイズに拡大するため」「読みにくい漢字にルビを振る」などまるで「未曾有」をミゾウユウと読んだ麻生財務大臣のことを言っているようだったし、安倍のものまね・口癖にも笑った。
飯塚は携帯の着信メロディを、救急車サイレンの首相秘書官、副首相はゴルゴ13のテーマ(これは麻生が元クレー射撃でモントリオールオリンピックに出場したことからだろう)、官房長官は菅が秋田出身なのでドンパン節、総理はパトカーのサイレンと使い分けている。音によりメシ塚の態度ががらっと変わる。
違う話になるが、日曜午後のFM「きらクラ!」の前番組が「トーキング ウィズ 松尾堂」なので、たまに最後の5分ほど聴くことがある。声しか聞こえないせいもあり、そのパーソナリティと俳優・松尾貴史が同一人物だとは想像もしなかった。

このように楽しく笑える芝居で、内容もなかなかシリアスなのだが、しかし芝居としては生っぽく、もうひとつ練れていないように思った。わたくしが二兎社の芝居をみるのが「パパのデモクラシー」(97年4月)、「歌わせたい男たち(2005年10月)に続く3回目ということもあるかもしれない。「歌わせたい男たち」は都立高校卒業式の緊迫した状況をあまりにもリアルに表していた。それと比較することはかなり酷なな話かもしれない。

記者クラブの弊害については、人権と報道・連絡会の会報やジャーナリスト・上杉隆さんにより知っていた。販売パンフのコラムによれば800余り存在するようだ。各省庁、裁判所、県警、都道府県、いくつかの産業界にあることは知っていたが、800もあるとは! 市役所まで含めるとそんな数になるのかもしれない。
パンフの「総理番・小林記者の1日」がなかなか興味深かった。
今年4月から総理番をしている30歳の男性記者という設定になっている。朝7時に自宅を出て7時半に政府高官自宅前に向かい朝駆け、総理が官邸に入る8時15分から夜の会食終了の21時までベッタリ(総理番は数名で日替わりの担当)、その後も政府高官自宅前で夜討ち、23時に終了し帰宅、とかなりハードな日常のようだ。記事は、この日の場合でいえば昼前後に夕刊用の記事、夕方17時すぎに朝刊用の記事(20行ほど)を書いたようだ。
もちろんフィクションだが、永井さんのことだから、何人かを取材してつくったのだろうと思う。

物販コーナーの永井愛さん。著書を購入された客にはサインしておられたらしい。
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