多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

蘇る昭和初期・東京の町屋

2009年08月04日 | 博物館など
はじめて銭湯の女風呂に入った。といってももちろん営業中ではなく、休業日でもない。歴史的建造物を復元した江戸東京たてもの園の子宝湯のことである。この建物は1929年(昭和4年)建築、足立区千住元町で1988年まで営業していた。地図でみると千住の「大はし」のもう少し荒川寄りの場所にあったようだ。
当然かもしれないが、女湯だからといってとくに違いはなかった。ただ浴室のタイル絵(男湯と女湯の境の壁の絵)が違っていた。男湯は牛若丸と那須与一、女湯は猿蟹合戦と舌切り雀の絵柄だった。背景画は伝統的な富士山で、開園した時期である「1993年中島」というサインがあった。
浴槽にまで近隣の千住西田運送、伊原薬局、サイトウ歯科、中華永楽などの小型の宣伝看板を掲示していた。男女で業種の違いがあるかと思ったが、まったく同じだった。意識的に差を付けないようにしていたようだ。
浴槽は3槽、深いのが2槽、浅いのが1槽だったので、おそらく深いほうのひとつは水風呂だったのだろう(または熱湯かも)。この時代なのでジャグジーはない。カランの数は25なので現代では大規模なほうだ。
脱衣所でいまと違うのはロッカーがないこと、全員カゴだったようだ。番台の構造もゆっくりみることができた。外からみると3階建ての高さだが、天井が高いだけで平屋の283平方メートルだった。

江戸東京たてもの園には、田園調布や麻布のお屋敷がある西ゾーン、高橋是清邸などがあるセンターゾーン、そして商店がある東ゾーンに分かれている。
なんといっても興味深いのは東ゾーンで、この子宝湯、白金の小寺醤油店、神田須田町の武井三省堂(文具店)、淡路町の花市生花店、神保町3丁目の丸二商店(荒物屋)、池之端2丁目の村上精華堂(化粧品卸)が立ち並んでいる一角に入ると、思わず感動の声を上げそうになってしまう。ほとんどが昭和1ケタ年代建築の建物だ。武井三省堂は文具とはいっても墨液や呉竹墨、硯など書道の道具が中心で、左右に引き出しがたくさんあり、いまの文具店のイメージとまったく異なる。

子宝湯の左手に下谷2丁目言問通りの鍵屋(居酒屋)があった。なかに入ると、現在根岸にある鍵屋ととっくりも燗付け器までそっくり同じもので感激した。メニューもとり皮やき50円、とりもつやき60円、たたみいわし80円、冷奴60円、大根おろし50円、お新香60円など価格こそ違うもののほとんど同様だった。
酒も桜正宗、大関、菊正宗の3種類、ポスターもちゃんとカブトビールの美人ポスターが貼ってあった。店内は1970年ごろの状況を復元とあったので、40年間同じスタイルを守っているわけである。この店は1856年創業なので、根岸の店よりさらに幕末のにおいがした。

屋外には新橋行きの都電7514号が南佐久間町の駅に停車していた。この電車は1962年に新潟鉄工所で製造され青山営業所に配属された。運行していたのは渋谷駅前~新橋の6系統で、南佐久間町は虎ノ門の東側、現在みずほ銀行(旧北海道拓殖銀行)とりそな銀行(旧大和銀行)、住友信託(旧三菱信託)のある交差点のことである。68年9月まで運行された。68年なら立派なビジネス街だったように思うが、子どものころ住んでいた人に聞くと、パン屋、すし屋、乾物屋、肉屋、八百屋など、一通りのものを調達できる庶民的な商店街だったという(いまも砂場本店がある)。

たまたま展示室で「魅惑のカンバン・ハリガミ展」をやっていた。由美かおるの「金鳥かとり線香」、松山恵子の「大塚のボンカレー」、大村昆の「オロナミンCドリンク」の看板は日本中どこでもみられた。ホーロー看板は明治末に使用が始まり昭和30年代がピークだった。しかし商品広告の短命化とテレビの普及により急激に衰退していった。前記以外に、赤地に白ヌキ文字のブルドックソース、不二家のミルキー、テレビはゼネラル、ナショナルの電球、おわんのマークの味の素、ソニー坊やのソニー連盟店など、なつかしい看板が山のようにあった。
また幟旗も展示されていた。ヨコ型の乳菓カルケット、グリコアーモンドチョコレート、タテ型の福助足袋、乃木服、中西の自転車・チカラ号、そして特価大売出しなどである。その他、まちには貼り紙や立て看板もあふれていた。会場で放映されていた「東京カメラある記13 広告は訴える」(1963.2)によると、貼り紙はいくつも並べて貼り「量」で訴える作戦だった。「ツイストパーティ」「ふくろ張り内職あり」「2/11建国記念日」などが映し出され、東京オリンピック前の時代を感じさせる社会風俗がよく出ていると思った。

西ゾーンでは1942年建築の前川國男邸が気に入った。品川区上大崎3丁目にあった。前川は1905年生まれ、一高、東大を経てル・コルビュジエの教えを受けた。紀伊国屋書店、慶応大学医学部付属病院、世田谷区民会館、東京文化会館、東京海上ビルディングなどを設計した。芝生の庭を前に、大きな窓のある吹き抜けのリビングがあった。自由学園明日館を思わせるつくりだった。こんな家に住めれば気持ちがよさそうだと思った。

住所:東京都小金井市桜町3-7-1
電話:042-388-1811
開館日:火曜日~日曜日(月曜は休館日)
開館時間:9:30~17:30 (10~3月は16:30閉館 入場は閉館30分前まで)
入館料:一般 400円、大学生320円、高校生・中学生(都外)200円
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