京都朝鮮学校襲撃事件・緊急報告会

12月19日（土）夜、飯田橋の東京しごとセンターで「民族差別を許すな！　京都朝鮮学校襲撃事件を問う」という緊急報告会が開催された（主催：平和力フォーラム／在日朝鮮人人権セミナー）。
12月4日午後、京都市南区上鳥羽にある京都朝鮮第一初級学校に「在日特権を許さない市民の会」「主権回復を目指す会」のメンバー11人が押しかけ「朝鮮人をたたき出せ」などと約1時間騒いだ。低学年の子どものなかにはおびえて泣きだす子もいた。
まず当日のビデオが10分ほど放映された。在特会のメンバーは「ここはもともと日本人の土地や！」「北朝鮮へ持って帰れ」「なめよったらあかんぞ！」「こんなん学校やないわ、スパイ養成機関や」「朝鮮人をたたき出せ」などと叫び続ける光景が映し出された。叫んでいる内容は秋葉原や九段下と同じようなものだが、これは小学校の校門前の騒ぎである。4月にカルデロン一家が住む蕨の中学前で行ったのと同じ構図で、ひどいいやがらせである。
その後、事件の報告とヘイトクライムや人種差別撤廃条約に関する解説が行われた。

●現地報告――京都朝鮮第一初級学校校長
京都市のこの地域はもともと朝鮮人が多く住む地域で、初級学校は1946年に開校、その後近隣を転々とし60年に現在地に移転した。移転当時は回りは田んぼ、畑、牧場などで、校地は入手したが校庭までは予算が乏しく手が回らなかった。その後住宅も立つようになったが、公園はあまり使われておらず、町内会から校庭の使用を認めてもらい、市にも認めてもらった。市は（立場上）「文書で許可は出せないが、使ってください」という見解だった。そこで、公園を体育の授業、クラブ活動、運動会、オモニ会のバザーに利用している。設備としては、サッカーゴール、朝礼台、スピーカーを設置している。その間ずっと市や町内会と良好な関係を保っていた。
公園だから、これらの設備を撤去しろというのが彼らの主張だ。彼らが「襲撃」することは、11月21日の「日朝友好婦人会議総会」に押し寄せたとき罵声のなかに「12月上旬に朝鮮学校をつぶしにいく」という言葉があったので予測していた。またネットに動画も流していた。そこで南警察に相談したり、区役所や町内会に協力の依頼をした。また校内では、襲撃されたときは女性教職員は子どもを守り、男性教職員は対峙すると分担を決めた。ただ何日に来るかはわからない。
12月4日13時前に彼らがやってきた。この時間は昼食が終わる時間で、水飲み場で歯を磨いている生徒もいた。そういう子を手招きしたり写真を撮り始めた。わたしが「どなたですか」と問いかけると、「在特会」の旗を立て始めた。そこで校舎に戻り警察や保護者に緊急連絡網で連絡をとった。男性教職員は校門のところで男たちと対峙した。低学年の子どものなかにはおびえて泣きだす子もいた。この日、4-6年の高学年は、3階で京都の3つの朝鮮初級学校と滋賀の合計4校150人による交流会に参加していた。幸い幼稚園児はたまたま遠足の日でいなかった。
10分ほどすると保護者や弁護士がかけつけた。警察の先発隊4人が現れたが、写真を撮っているだけだった。在特会はサッカーゴール、朝礼台、スピーカーを撤去し、校門前に運んできた。スピーカーは配線を切断したので器物損壊に当たる。
ビデオで、この日の「集会」は市に正式の許可をとったといっていたがウソだ。町内会の印をもらったうえで市に提出する手続きになっているが、そんなものはなく一方的に市に通告しただけだった。また（朝鮮学校は）「学校ではない」といっていたが間違っている。たしかに学校教育法1条の学校ではないが、専門学校と同じ扱いの学校である。
彼らは2時過ぎに帰ったが、「また2月に来る」と言っていた。対策を警察と協議し、巡回を増やしてもらったり、日中職員室にいる人数が少なくなるので保護者に警備のため詰めていただいている。また、在特会が動画で「襲撃」を配信しているので、まったく関係のない人がクルマで訪れ写真を撮ったりするので保護者の不安が増している。刑事告訴も検討している。
かつてもチマチョゴリ切り裂き事件などいやがらせはあったが、白昼堂々というのはいままでと性格が違う。子どもへの配慮なく騒ぐと後遺症として残る。子どもたちへのカウンセリングも実施している。子どもの情緒を傷つけたことが最も悪い。おとなとしてやってはいけないことだ。

報告の後、集会に参加していた弁護士から、警察は通報を受けてかけつけたのだから、何もしないのは不作為であり、犯罪の共犯に当たるという意見が表明された。

●ヘイトクライムとは何か――前田　朗（平和力フォーラム）
人種差別撤廃条約は1965年に国連総会で採択された。このころヨーロッパでネオ・ナチが台頭したので、規制するためだった。日本は1995年に加入した。ただし、4条のaヘイトスピーチとb団体規制については留保している。理由は日本国憲法21条表現の自由との関係から「表現の自由」は絶対的権利であり、処罰規定をつくるのはむずかしいというものだ。しかし一方では、わいせつ表現、教科書検定、最近ではマンションへのビラ配りまで規制しており、明らかなダブルスタンダードである。
これに対し、2001年3月国連人種差別撤廃委員会は日本に、人種差別禁止法の制定と人種差別を犯罪とすることを勧告した。表現の自由との関係では「表現の自由を保障するため人種差別禁止法が必要だ。なぜなら人種差別表現の自由などというものはないからだ」という意見があった。
05年には国連人種差別特別報告者ドゥドゥ・ディエンが「日本政府は、日本社会に人種差別や外国人排斥が存在していることを公式に表だって認めるべきである」という報告を提出した。08年には人権理事会の普遍的定期審査で人種差別禁止法の制定が指摘されるなど、度重なる勧告があった。
日本に住む人の99％は日本人で被害を受ける少数者は少ないので法律制定は容易ではない。しかし人種差別禁止法はちゃんとした社会をつくるのに欠かせないものである。外国人のためでなく、何よりも日本人のためにつくることが必要なことを認識すべきである。

●民族教育を守るために――金　東鶴（在日本朝鮮人人権協会）
明日（12月20日）、在特会は宇治のウトロにデモをかけると言っている。08年12月に押し寄せたときは、隣接する陸上自衛隊大久保駐屯地との境界の路上で「銃撃してください」とまで訴えた。ウトロでは高齢化が進んでいる。在特会はいままでの右翼と違い、老人や子どものいるところにまで押し寄せる。
朝鮮学校は学校教育法の1条校や124条の専修学校ではなく、134条雑則に規定される学校で、各種学校と同じ扱いだ。したがって国の補助はない。ただ地方自治体によっては日本の学校より格段に低い額だが助成金を出す自治体もある。ところが、もともと少ないのに最近さらに減額する動きがあり、いろんな教育委員会に陳情を続けている。なお1条校に移行する方法があり、京都と大阪の韓国系学校が2004年に移行した。それには検定済み教科書の使用と学習指導要領に準拠する必要があり、民族教育は相当制約を受ける。韓国系学校では、財政面の問題との板挟みで10年議論した末の苦渋の選択だったそうだ。
また校舎の老朽化が進んでいるので、新築を計画するとき寄付を募ることになる。法人なら損金扱い、個人なら所得控除してもよいと思うのだが文科省が認めない。一方欧米系のインターナショナルスクールでは認められる。理由は「インターナショナルスクールは、日本に投資を呼び込むうえでプラスになる」というものだ。
97年、文部省（当時）の担当者が「朝鮮人を育てるのを目的とする朝鮮学校は日本の公益に資するとは思えない」と朝日新聞の取材に答えている。
これは1949年に発令された朝鮮学校閉鎖令の「日本の学校に行くか、そうでなければ帰国しろ」という考え方と同じだ。

☆会場前には日の丸や海軍旗を10本近く立てた在特会のメンバー30人ほどが並びアジ演説を行っていた。麹町署の警官も10人ほど向かい合っていた。1階のエントランスで「東京しごとセンター」の課長に抗議文を読み上げる在特会メンバーの声が聞こえていた。報告集会には緊急の連絡で集まった人も多く、200人以上が参加し床に座る人や立ち見の人が多数いた。
☆来年2010年は韓国併合100周年の年だ。民主党は定住外国人への地方参政権付与に積極的で、来年の通常国会に法案を提出すると伝えられる。戦後60年もたってからでいささか遅すぎるが、歓迎すべき事態である。しかし11月の臨時国会で法案を提出しようとすると山岡国対委員長にまでSPを付けざるをえない騒ぎになった。来年も在特会などが大騒ぎするのだろうか。