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サイバー戦争は、止まるところがない!

2019年07月09日 12時49分07秒 | 日記

ニューズウィークによると、新時代サイバー戦争は国家のトップも把握できず、暴走してしまうと言う。


<トランプが米サイバー軍に与えた裁量が「第5の戦場」をこれまでになく予測不可能に変える>

アメリカとロシアとサイバー攻撃、という3つの言葉が並ぶと、「ああ、ロシアがアメリカの選挙に介入した話か」と、思いがちだ。ドナルド・トランプ米大統領が、16年の米大統領選中に、「ロシアよ、(対立候補であるヒラリー・クリントンの)3万通の消えたメールを見つけてくれ」と冗談とも本気ともつかぬ呼び掛けをしたのは有名な話だ。

ところが今、アメリカがロシアに対するサイバー攻撃を強化しているという。6月15日付ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、米サイバー軍がロシアの電力網に不正侵入し、マルウエアを埋め込んでいると報じた。もちろんロシアもアメリカの電力網に侵入している。

一体これは何を意味するのか。1つはっきりしているのは、今やサイバー空間は、陸、海、空、宇宙と並ぶ主戦場の1つになったことだ。ただしそこで行われる戦いは、従来の戦争とは違って目に見えない上に、作戦の機密レベルが極めて高いために、実際に何が起きているかを知る人間は一握りしかいない。このため、予告もなく突然、一気に激化する危険がある。

この25年間に、多くの国の基幹インフラ(電力網、金融システム、運輸システム、水道網など)は、コンピューターネットワークを通じて制御されるようになってきた。そしてアメリカやロシア、中国、イスラエルなどのサイバー大国は、こうした重要インフラに互いに不正侵入して、マルウエアやウイルスを埋め込むことに成功してきた。相手の機先を制して優位に立ちたければ、これらのウイルスを起動すればいいだけだ。

サイバー戦争にはほかにも気掛かりな側面がある。それはその計画や作戦実行が、文民政治指導者の監視や承認を受けずに進められるようになっていることだ。これはトランプが18年夏、「国家安全保障大統領覚書第13号」に署名して、米サイバー軍に独自の裁量でサイバー攻撃を開始できる権限を与えたためだ。

トランプへの説明はなし

ジョージ・W・ブッシュ元大統領やバラク・オバマ前大統領の時代は、サイバー兵器はまだ新しい技術であり、その影響は予測不可能で、制御不能になり得るという認識から、慎重に方針が練られていた。だが今は、こうした懸念は払拭されたと米政府は考えているらしい。

その結果、米サイバー軍は今、以前ほど制約を感じることなく攻撃開始の決断を下せるようになった。それどころか、NYTによると、トランプは米軍の最高司令官であるにもかかわらず、これらの作戦について十分な説明を受けていない。

それはトランプが作戦を撤回したり、外国政府高官にうっかり漏らしたりしてしまうのではないかと、国防総省や情報機関の高官らが恐れているためだという。実際、ロシアの電力網に不正侵入する作戦の詳細は、トランプに一切説明されていないと、NYTは報じている。

12年にアメリカとイスラエルがイランの核施設に感染させたコンピューターウイルスである、「スタックスネット」で、ウランの遠心分離機数千基を破壊して、イランの核開発計画を少なくとも3年遅らせたと考えられている。そして対ロシアに対するサーバー攻撃もこの「スタックスネット」だと言う。

 

このスクープは、実際にスタックスネットが使われた2年後に報じられたが、今回のロシアの電力網に対するサイバー攻撃は、現在も進行中だ。トランプはこの記事に対して、「事実上の反逆行為だ」とツイートして、怒りをあらわにした。

だが、米国家安全保障会議(NSC)関係者はNYTの取材に対して、ロシアの電力網を攻撃していることが報じられても、「国家安全保障上の懸念は一切ない」と語ったという。ということは、米政府高官らはむしろ、米サイバー軍の活動が公表されることを望んだと考えることができる。「その気になれば、アメリカは敵のインフラに打撃を与えることができる」という警告を送っているのだ。

見えない攻撃の「歯止め」

ビル・クリントン大統領時代にホワイトハウスのサイバーセキュリティー政策を担当したリチャード・クラークは、「トランプ政権は、冷戦時代の核抑止論である相互確証破壊に似た状況をつくり出そうとしているのではないか」と語る。つまり、「対立する2カ国のどちらかが核(サイバー兵器)を使えば、相手も核(サイバー兵器)で報復し、結果的に双方が確実に破壊される」状況をつくることで、先制攻撃を防ごうというのだ。

だが、「サイバー戦争は多くの点で核戦争とは異なる」と、クラークは指摘する。第1に、専門家が「危機の不安」と呼ぶ問題がある。すなわち簡単に火ぶたが切られるサイバー戦争では、当事国は攻撃を控えるよりも、不安に駆られて先制攻撃に走る可能性が高いというのだ。

サイバー攻撃は、「犯人」が分かりにくいという問題もある。犯人が別人に成り済ます場合もある。このため誤った相手に報復攻撃を仕掛けて、意図せぬ戦争を引き起こす恐れがある。

米サイバー軍は09年の設置以来、規模も範囲もミッションも大きく拡大してきた。そして昨年の大統領覚書以来、独自の判断を下す裁量も拡大した。

そのサイバー軍司令官は、サイバー攻撃の技術を開発してきた米国家安全保障局(NSA)の長官を務める大将が兼務することになっている。現在その任務に当たっているのは、ポール・ナカソネ陸軍大将だ。

とはいえ、サイバー戦争の戦略は、他の「戦場」に比べてまだ原始的な段階にある。米サイバー軍の兵士たちは、コンピューターウイルスには精通しているかもしれないが、戦略や歴史の知識はさほど豊富ではない。

 

広島に人類初の原爆が投下されたとき、アメリカの文民政治家や官僚や学者は、この新しい兵器の影響を徹底的に分析し始めた。原爆は戦争の性質を変えるのか。未来の戦争で敵が原爆を使うのを阻止するためにはどうすればいいか。そもそも、そのような戦争に「勝つ」ことが可能なのか――。

これに対して、サイバー戦争の詳細は、ごく最近まで超極秘扱いだったため、原爆のときのような議論を引き起こしていない。だから、多くの問いには答えが出ていないし、そもそも問い掛けもなされていない。

 

その一方で、サイバー戦争の技術は急ペースで進歩してきた。そしてトランプの大統領覚書により、政治指導者の管理と監視なしで、その技術を使うことが可能になった。しかもその決定を下すのは、その技術を開発した組織のトップだ。彼らが問い掛けるのは、「この技術を使うべきか」ではなく「この技術は使えるか」になりがちだ。

サイバー戦争は間違いなく新しい時代に突入した。

 

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