親になった喜びも束の間で、私はとんでもないことに巻き込まれることになった。「巻き込まれた」という表現は正しくないだろう。自分で自分の首を絞めたのである。無知な私は、親友と信じ込んでいた男に乗せられて、店舗開業資金の保証人になったのである。一年もしないうちに、その男は夜逃げした。そして、借金が私の肩にかかってきた。貯金もなかったし、当時の自分が簡単に背負えるような金額ではなかった。
もちろん、そのことは妻に正直に告白した。夜や週末にアルバイトを入れて働けば、二三年で何とかなると思う、と話すと、妻は子供を腕に抱きながら黙って聞いていた。
しかし、話はもっと悪い方へ転がっていく。貸主が私の会社に押しかけ、借金のことが会社に知られてしまったのだ。私は自主退職せざるをえなかった。
それ以後は、昼夜を問わずアルバイトを入れ、なんとか生活費を捻出していたが、体力が限界に近づいたころ、妻と子供が消えた。書き置き一つ残さず、家を出てしまったのだ。私は疲労しきった身体に鞭打って二人を探した。しかし無駄であった。
家族仲が悪いとはいってもこんな場合に頼るのはやはり実家だろう、と思ったので、彼女の実家と連絡をとろうとした。
驚いたことに、妻が私に伝えていた実家の住所と電話番号はまったく架空のものだった。これでは何とも連れ戻しようがない。
さらに驚いたことには、妻は婚姻届けを出していなかった。つまり、私たちは入籍しないまま夫婦関係を続けていたことになる。私が妻だと信じていた女性は、法律的には赤の他人だったわけだ。仕事を理由に彼女に任せきりにしていたのがいけなかった。
彼女がなぜそんなことをしたのか、まったく見当もつかない。強く何かを思い詰める性質だったので、強迫観念のようなものに取りつかれたのだろうか。何かを畏怖したのだろうか。よくわからない。
自暴自棄になった私はアルバイトを休みがちになり、ついには家賃の滞納が始まった。そして、あの悪夢のホームレス生活となった。
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