池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

ビュルヌフ(訳者によるあとがき)

2020-06-11 07:16:22 | 日記

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訳者として次のようなあとがきをつけた。

訳者によるあとがき
ウジェーヌ・ビュルヌフ(一八〇一~一八五二)は、フランスのインド学の泰斗である。父親ジャン=ルイ・ビュルヌフも高名なギリシャ文法学者であり、本文にもある通り、サンスクリット語にも通じており、ウジェーヌ・ビュルヌフに最初にサンスクリット語の手ほどきをしたのは父親であっただろうと考えられる。
彼の類縁であるエミール・ビュルヌフも高名なインド学者であるが、時代背景もあってか、いわゆる「アーリア至上主義」に傾いた人物としても知られている。
本著は、彼が死後に彼の代表作である『インド仏教史序説』が再刊されたが、その巻頭に掲載されたバルテルミー・サンティレールの文章を訳したものである。もともと、この追悼文は、ビュルヌフが逝去した年に『ジュルナル・デ・サヴァン』で掲載された。
作者のサンティレールは、ジャーナリストとして出発した古典学者であるが、一時は政治の世界にも足を踏み入れたという、きわめて活動範囲の広い人間であった。主著はアリストテレスの翻訳と注釈であるが、仏教やコーランについても著作がある。
サンティレールは、学生時代からウジェーヌ・ビュルヌフを知っていたようだ。本著は、友人としての温かい視線に満ちており、若すぎる死を悼む気持ちを本文の中で何度も吐露している。同時に、古典学者としての視線で、ウジェーヌ・ビュルヌフの成し遂げたことがいかに偉大であったかを縦横に語っている。
私がこの翻訳を思い立ったのは、日本でほとんどビュルヌフの名前が知られておらず、業績についての言及もほとんどないためである。ビュルヌフは近代仏教学の創始者とされており、これほど仏教学が盛んな日本にあって、これは少々奇妙なことだと思い、何かの参考になればという思いで、自分の非力も顧みず訳した次第である。
蛇足。ウジェーヌ・ビュルヌフとほぼ同時代を同じ場所(パリ)で生きた文学者がいる。オノレ・ド・バルザックだ。彼はビュルヌフの二年前に生まれ、同じくビュルヌフが逝去する二年前にこの世を去っている。
つまり、二人は同じ期間だけ生きたということだ。コーヒーをがぶ飲みしながら徹夜で小説を書き、寝る時間を惜しんで社交界に頻繁に出入りし、大借金を残して死んだ文学者。
自室に閉じこもって、時間的にも空間的にも遠く離れた世界の言語と思想の解明に一生を捧げ、その研究成果をほとんど発表することなく死んだ文献学者。大革命からナポレオン帝政、王政復古、七月革命、二月革命と、混乱・混迷が続く時代を駆け抜けた二つの巨星が、妙に重なって見えるのは私だけか。



バルザック

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