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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

6月14日・川端康成の特異

2016-06-14 | 文学
6月14日は、革命家、チェ・ゲバラが生まれた日(1928年)だが、作家、川端康成の誕生日でもある。

川端康成は、1899年、大阪で生まれた。父親は医者で、康成には姉がひとりいた。
康成が1歳のとき、父親が肺結核で没した。2歳のとき、母親も結核で没した。
康成は母方の祖父母の方へ、姉は伯母の家へと別々に預けられたが、康成が7歳のときに祖母が没し、彼は祖父と二人暮らしになった。
10歳のとき、姉が結核で没した。いっしょに暮らす祖父も、14歳のときに没した。
天涯孤独の身となった彼は、母親の実家に引き取られた。幼少時に『枕草子』を意味もわからず読んでいたという康成は、小学校の成績が全甲という秀才だった。中学のころには作家になると志を決め、日記にこう書いた。
「ノーベル賞でももらおうかな」
18歳になる年に上京し、第一高等学校に入学。21歳で東京大学の英文科に入り、今東光たちと文芸誌の第六次「新思潮」を創刊。『招魂祭一景』発表した。
文壇の大御所、菊池寛の紹介で、横光利一と友人になった川端は、25歳のとき、横光、今東光らとともに同人誌「文芸時代」を創刊。「新感覚派」の運動を起こした。以後、つねに前衛でありながら、かつ日本の伝統的叙情をくんだ独特の小説を書きつづけた。
国際ペンクラブ副会長を務め、69歳で日本人初のノーベル文学賞を受賞した後、1972年4月、神奈川県の逗子の仕事部屋で遺体となって発見された。ガス自殺とされる。72歳だった。作品に『伊豆の踊子』『千羽鶴』『川のある下町の話』『山の音』『名人』『みづうみ』『眠れる美女』『美しさと哀しみと』などがある。

代表作『雪国』のなかに、女が男の指をとって顔にあて、こう言う場面がある。
「これが覚えていてくれたの?」(『雪国』新潮文庫)
『眠れる美女』には、主人公の江口老人が、深く眠る娘にいたずらする場面がある。
「老人の人差指は娘の歯ならびをさぐって、唇のあいだをたどっていった。二度三度行きつもどりつした。唇のそとがわのかわき気味だったのに、なかのしめりが出てきてなめらかになった。右の方に一本八重歯があった。江口は親指を加えてその八重歯をつまんでみた。」(『眠れる美女』新潮文庫)
こうした大人向きの肉感的な表現は、川端文学の強力な魅力のひとつである。

親友だった「小説の神様」横光利一の葬儀の際、川端が読んだ弔辞にこうある。
「君と僕との文学は著しく異なって現れたけれども、君の生来は僕とさほど離れた人ではなく、君の生れつかぬものが僕に恵まれているわけではなかった。君は時に僕を羨んでいた。僕が君の古里に安居して、君を他郷に追放した匂もないではなかった。開発者としての君の便りのなかに、僕は君の懐郷の調べも聞いていた。」(「横光利一弔辞」『一草一花』講談社文芸文庫)
たとえば川端の『川のある下町の話』と、横光の『悲しみの代償』を読み比べると、どちらにもその奥に同じ美しい誠実のきらめきが光っている。でも、両作家とも、それを看板にはせず、ちがう方向へ自分の文学を発展させた。
川端康成は特異な、個性的な作家で、世界中でこれから未来永劫、彼と同じような個性をもった作家はけっして現れまい。
(2016年6月14日)



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