ドラマは今や昭和物件
娯楽が少なかったからだと思うけど、昔の女子は、けっこうみんな似たような余暇を過ごしていたように思う。
例えば、ドラマ。人気ドラマのある日には、学校からでも会社からでも、急いで家に帰って、ひとつのセリフも逃さないようにかぶりつきで鑑賞。
実際に、視聴率30%越えのヒットドラマも少なくなかったし、ビデオやDVDなどの録画手段が普及していない時代でも、学級内視聴率は、多分90%を越えていたような気がする。
ところが今はどうかと言うと、昨年末の最終回で40%越えを記録したオバケドラマ「家政婦のミタ」(日テレ系)で、世の中のドラマ離れにブレーキがかかったかと思いきや、終わってしまえば元通り。
平均視聴率が10%を越えるドラマは、「まずまずのヒット」と呼ばれるような、ドラマ離れ時代がカムバックしている。
学級内視聴率は、私調べによるともっと深刻そうだ。前に大学生の女子とテレビのことを話していて驚いた。
「ドラマ? ほとんど知らないし、学校で話題になることなんて、めったにないですよ。だいたいあれって、お母さんが見るもんじゃないんですか?」
ドラマは今や、そんな昭和物件ですか。そうですか。
じゃあ、女子たちが何をしているかというと、ネットで遊んでる子もいれば、リア充な子もいるし、もちろんドラマを見ている子も、数は減ってもいるにはいるだろう。
でも、ネットの娯楽ひとつを考えてみても、動画サイトで人の作った作品を楽しんでいる子もいたり、自分で作った作品を公開して人に見てもらっている子もいるだろうし。もう人の数だけ娯楽があるという感じ。
とにかく、どっかのクラスの女子40人の午後10時の過ごし方を調査したら、同じことをしている女子はたぶん2人といないだろうっていうくらい、みんな違うことをして余暇を過ごしてると思われる。
そうして生まれたのが「○○ガール」とか「○○女子」とか名付けられた、女の子のジャンル分け。「肉食女子」など生態をあらわすものに始まって、「山ガール」「鉄子」「歴女」「腐女子」など趣味にスポットを当てたもの。また「八重歯ガール」など外見を指すものや、「リケジョ(理系女子)」などの履歴書系もあれば、「貧困女子」といった余計なお世話の分類まで。
まあ、このコラムでも、そうしたジャンル分けにはさんざんお世話になっているので言いにくいが、ほんとかよ! とツッコミたくなるほど、あるわあるわ。
考えてみれば当たり前だ。趣味や嗜好が細分化されて、マイナーな趣味も女子の傾向としてカウントされるようになっている。
例えば、思いつきで言ってみると、デパートやホームセンターで大きいもの持ち帰るときにくれるプラスチックの取っ手。正式には「手提げホルダー」というらしいが、あれをコレクションする趣味があるとする。
日本人1億2000万人の中には、もしかしたら、「手提げホルダー」を収集する趣味がある人が何人かいて、そのなかには1人や2人、女子が混じってるかもしれない。そうなったらもうこっちのもの。とにかく「取っ手女子」とかいう、ひとつのジャンルができあがってしまう。
反原発デモには森ガールも参加?!
ここで、ようやく本題。そんな数ある「○○ガール」「○○女子」のなかでも、かなり浸透した部類に入るもののひとつが、「森ガール」だ。そもそも「森にいそうな女の子」をイメージさせるような、ゆる系ファッションに身を包む女子のことをこう呼んだ。
やがて、多くの森ガールに見られる「自然体」「手芸好き」「スロー志向」などの共通点が取りざたされるようになり、ファッションだけではない、ロハスっぽい共通マインドを伴った、女の子の一大ジャンルを形成するようになっていく。
森ガールは、恋愛への姿勢にも共通点があると言われていた。これが流行語になった2009年前後は、エビちゃんなど、男目線のモテ系が、まだまだ女の子たちの人気を集めていた時期。
そのアンチテーゼとして、ボディラインの見えないAライン(シルエットがアルファベットのAのような形)の服を好み、男への視線を、ぐぐぐいーっと自分のほうに向けたのが森ガールだと分析している人もいた。
私のまわりにも、「森ガール」なんて言葉が登場するずっと前から、森ガール的な女子はけっこういた。ボディコンや胸の谷間が流行になったときも、ゆるゆる、ズルズルのファッションを貫き通し、興味はひたすら環境や健康のこと。
だからといって人嫌いというわけではぜんぜんなくて、人とつながるサブカル系のイベントなどにも小まめに顔を出している子も多い。
ちなみに、これは私の知り合いだけかもしれないが、ゆる系とはいえ、キャラはぜんぜんゆるくなくて、言い出したら聞かない強情な一面も持っていたりする。まあとにかく、男なんていなくても、我が道を楽しく歩んで、幸せに一生終えてしまいそうなタイプ。
で、そんな、森ガールや、元森ガールの森おばさんたちを最近、ぐいぐい引きつけているらしいのが反原発デモだ。ここへきて半世紀ぶりとも言われる盛り上がりを見せる、デモ。組織やイデオロギーに動かされるのではなく、普通の人が、個人的な思いから、気軽に参加しているのが、今どきのデモの特徴だと言われている。
そんな「ニューデモ」には、普通の女子の参加者も多く、「デモガール」なんて言葉も誕生。山ガールが、ファッショナブルなレディスの登山ウエアと一緒に数を増やしてきた例もあることだし、まもなくデモがしやすいデモファッションなんかも登場しそうな勢いとなっている。
エコも節電もそうだけど、女子が政治などのお堅いムーブメントに参画してくると、必ず「ファッションじゃないんだから」とか、「ミーハー気分でやっても長続きしない」とかケチをつけてくる人たちがいる。でも、ファッションだろうがミーハーだろうが、何もやらないよりずっと偉いというのが、私の持論。
もう女子じゃないけど、原発の再稼働には反対だし、犬の散歩ついでに金曜夜の官邸前に行ってみた。官邸まではたどりつけなかったけど、いつもは警官ばかりが目立つ殺風景な国会周辺で、ドレッドヘアのレゲエのお兄ちゃんたちがコンビニ前でビールを飲んでいたり、普通のOLふうの女子が、物騒なプラカードを笑顔で掲げていたり。何だか夏フェスのよう。
で、そんな話を知り合いにすると、「実は私もその日行ってたよ」という女友達の多いこと。それも、ひとりで黙々とデモに参加しているような女子は、森ガール率が高かったりする。ファッションから始まった森ガールも、自分の内面探しを経て、いよいよ対外行動に。そんな女子の進化を目の当たりにして、何だか胸が熱くなったんですけど。
一方、今どきの男子は、争いごとを嫌うからだろうか。女子に比べて抗議行動に消極的な印象。デモの様子を見ても、男性というと、50年ぶりにデモに再デビューしたような、白髪まじりの中高年が目立つ。
そもそも、草食系男子とは好相性とされてきた森ガール。もしデモに行ってみようという気になったら、森系の気になる女子を誘ってみるのがいいかも。そんな不埒な動機でも何でもいい。何もしないよりずっと偉い。カフェでぐだぐだ世間話に花を咲かせるより、ずっと楽しいデートになることウケアイだ。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120730/317956/?ST=career&P=4