奥多摩町立せせらぎの里美術館で5月17日まで「海野次郎展」が開かれている。
奥多摩の山の中に画室「曇華庵」を構え、30年近く水墨画を描き続けている海野次郎さん。
26日にギャラリートークとパフォーマンス(公開制作)が開かれると聞いたので、友人二人と訪ねた。
海野さんの水墨画は何度も見せてもらってきたが、実際に描く姿を見るのは初めてである。
会場の床には大きな和紙が敷かれていた。
作務衣姿で立った海野さんは、まるで準備運動のように首を左右に振ったり、腕を振ったり。
次の瞬間、墨を付けた筆を和紙に落とし、すごい勢いで細い線を描き始めた。
今度は刷毛に墨を含ませ、大胆に墨模様を描いていく。
かと思えば、ジョーロで墨模様に水をかけ始めた。
時折、唸り声のようなものを発しながら、ものすごい集中力で全身全霊をかけて描いていく海野さん。
その姿を50人もの観客は、ただ息を凝らして見つめる。
私が思い描いていた制作風景とは違う、すごい世界だった。
水墨画は1回では描けない。
何十枚と描いて、作家の表現したいものが昇華されたとき、初めて作品になるそうである。
もう一度、展示作品を丁寧に見てから外へ。
萌えるような若葉がまぶしい。
美術館の下では、透き通った多摩川の水がキラキラ輝いていた。
奥多摩は今、1年中で最も爽やかな季節を迎えている。