◎本日の空想劇場 「金が必要な男」

どうしても金が必要だった。
もうすでにクレジットカードは複数枚持っている。
各のカード限度額を利用しての錬金術はとっくに破綻している。
次に考えたのはギャンブル。
借金をギャンブルで返す。
破綻した生活には破綻した思考が伴う。
返せるはずもなく、借金は膨らんだ。
俺は決めた。
銀行を襲う。
ただし一人では無理だ。
大きなヤマには相棒が必要だし、相談した方が成功率も上がる。
ネットには同じ境遇の奴等がたくさんいた。
エヌと名乗る男とやりとりした。
意気投合し会うことにした。

深夜、人気のない道の駅。
エヌはバイクでやってきた。
ひょろりとした男だった。
「どうも」
そう言うとエヌは饒舌に話し出した。
計画は１年前から練っていたこと。
自分は銀行強盗を生業にし、１度も捕まっていないこと。
相棒を捜していたこと。
おれはエヌの計画に乗ることにした。

とある月の月末。
その日に一番、金が集まることが分かっていた。
計画はこうだった。
俺が一人でカウンターの店員を脅し金を奪う。
逃走用のバイクに乗り込み逃げる。
エヌがトラックで別地点に待っている。
バイクごと盗んだトラックに乗せて逃げる。
Ｎシステムの無い道を選びもう一度車を乗り換える。
二度と二人は会わない。

もうすぐで銀行に着く。
何度も手順を確認し、バイクを止めた。
エンジンは切らない。
フルフェイスのヘルメットをかぶったまま行内に走り込む。
手にはボウガン。
ただしエヌが用意したレプリカだ。
「金を出せ！」
ボウガンを行員に向けた。
行員の反応は意外だった。
俺の声を聞いた直後、カウンターに飛び乗った。
そしてヘルメットごと左からそのまま蹴りとばされた。
倒れた体の上に数人の人が俺を押さえる。
まるで、俺がここに来ることを知っていたように……。

「よし」
エヌは銀行の前に止めてある指令車の中でつぶやいた。
犯罪予備群早期発見、回収班のプロジェクトが立ち上がったのは５年前。
効果は上がらなかった。
エヌがリーダーに就任したのは１年前。
今回がはじめての成功。
ちなみにエヌの行動は、エヌしか知らない秘密だ。