limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 13

2019年04月17日 14時03分38秒 | 日記
皆さんはご存知だろうが、少々お付き合いをお願いしたい。ほぼ14世紀半ばから19世紀半ばにかけて地球は寒冷な時期に突入している。別名“小氷河期”とも呼ばれている。ヨーロッパでは、スイスでアルプスの氷河の版図が拡大し、谷筋の農場を壊滅させたり、河川を堰き止めて、決壊による洪水が発生するなどしている。イギリスのロンドンやオランダの運河では1冬の間完全に凍結する光景が頻繁に見られ、人々はスケートや氷上縁日に興じたと言う。日本においても東日本を中心に度々飢饉が発生し、これを原因とする農村での一揆の頻発は幕藩体制の崩壊の一因となったと言われている。さて、原因はなんだろうか?“小氷河期”の中頃、1645年から1715年にかけては、太陽黒点が示す太陽活動は極端に低下し、太陽黒点がまったく観測されない年も複数年あった。この太陽黒点活動が低下した時期を“マウンダー極小期”と呼ぶ。黒点活動低下と気温寒冷化を結び付ける明確な証拠は提示されていないが、“小氷河期”でもっとも寒さの厳しかった時期と“マウンダー極小期”が一致する事実は因果関係を示していると言っても過言ではない。また、この時期は世界各地で広範な火山活動が記録されており、その火山灰が成層圏に達して地球全体をベールのように覆い、全世界の気温を引き下げたことも要因として挙げられる。1815年に起きたインドネシアのタンボラ火山の噴火は、大気中に大量の火山灰を拡散させ、翌年の1816年には“夏のない年”として記録がなされている。この年、北ヨーロッパとニューイングランドでは、6月と7月に霜と降雪が報告されている。太陽の活動周期は約11年と言われ、太陽極大期と太陽極小期は、それぞれ太陽黒点の数が極大、極小となる時期を示す。

「と言う訳で、江戸時代を含む前後に飢饉が頻発したのには、太陽活動の低下と地球全体の寒冷化、火山活動が密接に関係していると言われてる。飢饉は起こるべくして起こったのさ。農作物の品種改良技術の無いもしくは未発達の時代に、天変地異が頻発すれば収穫が不安定になっても仕方なかった。実際、江戸幕府の記録を見ると大豊作の年と、数年に渡っての大飢饉の年が交互に出て来る。太陽からの光や熱が減れば、地球全体が寒くなるのは当然だから、約500年間に渡る寒冷化は大変だったと言えるね」僕はアールグレーを飲み干して言った。「そっかー、太陽活動が500年間も低下してたのか。Y、どうやって調べた?」さちがカップを置いて聞く。「“氷河期”について調べれば出て来るよ。太陽活動そのものにも長期的に見れば波がある。地球全体が暖かい時期もあれば、凍り付いた時期もある。そうした事を追って行くと辿り着いた訳」「広く浅くか。気になれば“とことん調べ尽くす”のがYの性分だよね。時には深く掘り下げるから、こう言う知識も持ち合わせている。歴史だけでなく地質学や天文学も得意分野なの?」さちが聞いて来る。「得意ではないよ。ただ、相対的な理解をしようとすれば、地質学や天文学も絡んで来る。エジプトのピラミッドには“当時の北極星”を見るための通路がある。りゅう座の“ツバーン”と言う星。今の北極星はおおぐま座の星だが、地球の自転軸のブレの影響で北極星は“交代”する宿命にある。古代エジプトを調べるとそう言う事も出て来るから、自ずと調べるハメになるのさ」「ふむ、Yの思考回路はどうなってるの?広範な知識とあらゆる“智謀”を駆使する頭をこの目で見て見たい気分になるね」さちが僕の頭を突きながら言う。「フツーの構造だよ。さちと変わりはない!」と言いつつ彼女から逃れようとするが、さちは僕の首を抑えて身動きを封じた。「誰か、Yの脳を調べて!もしかすると電子回路で出来てるかも!」と言う。「脳に電子回路を接続してるのかもね。どこかにネジがあれば開けられるかも」雪枝が悪乗りを始める。「確か、ドライバーセットがあったはず」堀ちゃんが真顔で探し始める。「こら!僕はサイボーグじゃないぞ!」と言うが彼女達はあれこれと妙な行動を始める。「Y、自業自得。遊ばれてなさい!」道子がダメを押す。「あー、もうどうでもいい。ネジは無い!生身の人間だ!分解しようとするな!」僕は足掻いたがどうにもならなかった。竹ちゃんと道子はひたすら笑っていた。お昼の生物準備室は賑やかだった。

放課後の“補習授業”は、江戸時代を教科書に沿って語り直す場になった。徳川家康が江戸に幕府を開いてから、徳川慶喜が江戸城を新政府軍に“無血開城”するまでをプロットした。15代、270年あまりを総括するのは容易では無かったが、話を終えた後の質問は大きく2つに絞られた。“水戸黄門こと徳川光圀”と“暴れん坊将軍こと徳川吉宗”であった。ここで、またアンチョコを引っ張りだそう。

水戸徳川家は、家康の11男頼房が水戸25万石を賜った時より始まる。水戸藩は他の御三家である尾張藩や紀州藩と比べ、石高がその半分程度と少なく、朝廷の官位も尾張藩や紀州藩が“大納言”であったのに対して“中納言”と格下、尾張藩や紀州藩が御三家と言えども参勤交代が必要だったのに対して、水戸藩は藩主が江戸に常任の¨定府¨とされ参勤交代を行う必要が無いなど、御三家の中でも異色の存在であった。この独自性を決定付けたのは、初代頼房であった。幼少期に駿府で育てられた御三家の兄弟達に、家康はある時望むものを聞いた。一番下の頼房は¨天下¨と答えた。この答えに対して家康は¨謀反の恐れあり¨として、頼房には兄達の半分程度の所領しか与えなかったと言われている。また、3代将軍家光と年が1つしか違わず、2代将軍秀忠が学友として、江戸に留め置き成長してからも家光のよき相談相手となったため、参勤交代不要の¨定府¨とされ、水戸藩主は¨副将軍¨と称されるようになったのである。¨天下の副将軍¨として真っ先に思い浮かぶのが、2代藩主の光圀だろう。TV時代劇の様にお忍びでの全国行脚はしてはいないが、歴史書¨大日本史¨を編纂するなど、学問に非常に熱心で、水戸藩独自の学問である¨水戸学¨の基礎を作った。また、¨黄門¨とは朝廷の官位である中納言の唐名であり、¨光圀だけが黄門と呼ばれた訳ではない¨のである。しかも、光圀の¨圀¨の字は、もともとは唐王朝の則天武后が定めた¨則天文字¨であり、則天武后が死んだ後に廃止されたのだが、何故か我が国で生き残り光圀の名に使われた珍しいケースである。

徳川吉宗。紀州藩4代藩主にして、後に8代将軍に就任するこの人物は、波乱万丈の人生を歩んだ。紀州藩2代藩主光貞の4男だった吉宗は“紀州藩の支藩の藩主として生涯1大名として終わる”はずだったが、運命のいたずらに乗って将軍職を継ぐ事になる。幼名は“新之助”、元服後は“松平頼方(よりかた)”と名乗った。時の将軍綱吉から、現在の福井県内に2万石を賜り、御三家の支藩の大名となる。普通ならばこれで終わりなのだが、突如として紀州藩主に着く事になる。紀州藩3代藩主綱教と直ぐ上の兄である松平頼至が相次いで急死。思いもしなかった藩主の座が降って来たのだ。将軍綱吉は頼方に“吉宗”の名を与えてこう言ったと言う。“そなたは、わしと良く似ている”と。綱吉も2人の兄の死によって将軍職を継いだからである。こうして紀州藩主となった吉宗だが、当時の紀州藩は借財まみれであり、深刻な財政危機にみまわれていた。幕府や商人からの借財は数万両に及び、蔵には備蓄米も無かった。吉宗はまず“財政再建”に乗り出し、徹底した倹約に努めた。後の“目安箱”の原型もこの時に誕生している。吉宗が紀州藩主だった10年間で藩の財政は改善し、借財の完済や備蓄米の確保にも成功している。こうした藩主としての手腕と家康の玄孫と言う血筋の近さから8代将軍に就くのだが、大奥への工作や幕臣達への工作も抜かりなく実施している。運もあったが、実はしたたかに動いても居たのだ。こうして将軍職を継いだ吉宗は有名な“享保の改革”を推し進めるが、実は“米将軍”のあだ名が付くぐらい米相場に翻弄される事にもなる。在職中は常に米相場の乱高下に悩まされ、9代将軍家重に職を譲ってからも腐心した事が分かっている。とても“お忍びで江戸市中を闊歩する”暇はなかったのだ。吉宗は新たに“田安家”と“一橋家”を創設して将軍継嗣問題を改善する新体制を創設したが、御三家への継嗣補充も兼ねた対策でもあった。(9代将軍家重の子が“清水家”を創設して“御三卿”体制が確立した)こうして、“幕府中興の祖”と呼ばれる事になる吉宗だが、“暴れん坊将軍”の様な活躍の場はなかったものの、幕府財政を立て直し、後の継嗣問題にも手を打った功績は大きく。徳川15代の将軍の中でもその存在感は群を抜いていると言っていいだろう。

「と言う訳で、TVの時代劇ドラマと実際はかけ離れてはいるけど、2人が江戸時代を代表する“重要人物”である事は確かだ。フィクションの世界ではあるけど、江戸時代を身近にさせる効果は絶大だね」と言って僕は“補習授業”を締めくくった。「Y君、もう1つだけいい?」真理子さんが言う。「なに?」「TVでは、黄門様も将軍様も悪人を斬らないけど、それは何故?」「主君は直接“手を汚さない”のが武家社会のルールだからじゃないかな?江戸時代全体に言える事だけど、“君子危うきに近寄らず”と学んでるから、将軍も藩主も命は下しても、臣下に任せるのが“しきたり”なのさ。TVでもこの“しきたり”は踏襲されているね。黄門様の“助さん”と“格さん”もそうだが、原則彼らは悪人を斬らない。“風車の弥七”は忍びだから、斬ってしまうがこれは例外だ。暴れん坊将軍の吉宗もそう。松平健が悪人達と斬り合いになる時、“カチャリ”と音が入るだろう?吉宗は“斬らない”んだよ。みね打ちにするだけ。つまり“己の手は汚さない”のさ。吉宗が“成敗!”って言う時はお庭番の2人が斬ってる。為政者はあくまでも“直接手を下さない”って法則は時代劇でも徹底してるね」「そう言われればそうだけど、Yは良く観察してるね。あたし達はそこまで意識して見て無いよ。“チャンバラ”でもちゃんと時代は考えられてるんだね」雪枝が言う。「“時代考証”や“殺陣”や“所作”は考えて作ってるさ。そうしなきゃハチャメチャになってしまう。押さえるべきところは確実に再現するのが、作り手側の常識だろうよ。でなきゃ“長寿番組”は生まれないよ」「Y!愉しい“授業”をありがとう。そろそろ終わりにしようよ。さあ、帰る支度をしなきゃ!」と雪枝が言って“補習授業”はお開きになった。僕は黒板を消し始める。「Y君、凄く良く調べてあるね。教科書の裏まで網羅している理由はなに?」真理子さんが聞いて来る。「半分は“趣味”の領域。残り半分は歴史が好きだからかな?」僕は笑って答えた。「時々、本を読んでるけど、やっぱり“歴史”に関連してるの?」「今、読んでるのは“戦史”が多いね。第2次大戦当時に関連してる本が中心。この“高速戦艦脱出せよ”ってのは、ヨーロッパ戦線が舞台」僕は1冊の本を見せて言った。「難しそうだね」真理子さんがページをめくっていると「真理ちゃん、止めときな!それは“Yのために出版されている”様な本だから、あたし達が見ても意味不明なだけよ!」と中島ちゃんが釘を刺すのを忘れなかった。「Yは、参謀長だから“作戦の立案や戦術の決定”のために参考書として読んでるのよ。あたし達が理解するのは到底無理!」雪枝も釘を刺す。「でも、Y君にはスラスラと読めて理解出来る。何故なのかな?」「“趣味”の領域だからよ!コイツ小学校1年の時から、百科事典を読み漁ってる猛者だもの!昔から難しい本ばっかり読んでたのは確かだね」道子も釘を刺す。「道子、それ本当の話?」堀ちゃんもびっくりした様だ。「冗談抜きで本当の事。あたし達が読めない漢字を平然と読んでたし、分野に関係なく中学生レベルの本を小学1年で読めたのは、Yだけだと思う」道子は遠い昔を思い出しながら答えた。「だから“参謀長”って言われてるの?」真理子さんが眼を丸くする。「そう、コイツの脳は特殊仕様なの。電子回路と繋がってるのかもね!」さちが昼休みの話を蒸し返す。「あのー、僕はサイボーグではありませんので、そこんところは誤解しないで」僕は控えめに反論する。「無駄だ!言い訳は通用せん!正直に吐け!“我はサイボーグ”だと認めよ!」さちが笑いながら詰め寄る。「分解して元通りに組み立ててあげるから、いい加減認めたら?」堀ちゃんも悪乗りを始める。「さあ、帰るぞ!分解されたら手と足が逆になりそうだ!」僕はそそくさと廊下に逃げ出した。「待て!逃がさぬぞ!」さちを筆頭に女の子達も追いかけて来る。薄っすらと夕闇が迫りつつあった。

9月に入ると夕暮れはどんどん早くなる。“補習授業”が少々長引いた影響もあり、辺りは夕闇が迫っていた。女の子の集団と共に“大根坂”を下る。いつも以上に賑やかだった。「Y、正室を決めるなら誰にするの?」堀ちゃんが突然言い出した。「誰って言われても、決めようが無いだろう?」僕は敢えて逃げに入る。「Y、選択権を放棄するの?」雪枝が呆れて言う。「放棄するんじゃなくて、行使しないんでしょ?Yの性格からして、1人に絞るなんてのは鼻から無理。あたし達4人に公平に接する。誰も置いてきぼりにしない。そう言う事?」さちが勝ち誇ったように言う。「分かってるなら正室云々は言わないで。僕等は、まだ出会って半年あまり。先は長いんだから焦る事もなかろう?」僕はさちの顔を見た。彼女は何も言わなかったが“あたしとの約束を忘れないで”と眼で訴えていた。「さちの言う通りかもね。Yの事だから“特定の誰か”と付き合うのは苦手かも。5人でワイワイと騒いでるのが一番なんだろうね。あたしとしては、今のこのスタイルを維持したいな」中島ちゃんが言う。「正室は“空位”で側室4人か。平等性を考えれば、やっぱり現状維持かな?」雪枝も言う。「うーん、江戸時代に戻りたい。それなら何も問題は無く過ごせるのにな」堀ちゃんは悔しそうだ。彼女は何とかして正室に“指名”されたいのだろう。気持ちは分かっているが、僕はさちを見ていたかった。僕の首にはさちのネクタイが揺れている。「何をするにも僕等は一緒に学び、戦い、ふざけてる仲だ。道子や竹ちゃんも加えた7人のグループでこれからも仲良くやって行きたいし、繋がって居たい。やっとクラス内も平和になったけど、これからもまだやるべき事は多々ある。みんなで協力して良いところを広げながら悪を挫く。僕等の活躍の場はこれからも続くだろう。だから“男だから・女だから”ではなく“仲間”として“戦士”として共に歩みたい。ちょっと理想論だけどね」僕は照れながら言った。「Yらしい言葉だね。確かに理想論だけど、それを今までもやって来てるから私達は続いているのかもね。あたしだって参謀だもの!そうでしょ?参謀長!」堀ちゃんが言う。「ああ、みんな可愛い参謀だ!」4人がニヤニヤとにやけた顔になる。「みんな、Yをあんまり追い詰めるな!Y、疲れてない?足取りが重いよ?」道子と竹ちゃんが追い付いて来た。「あー、バレたか。疲れてるのは隠せないな。頭の使い過ぎだよ」僕は正直に言う。「参謀長が不在となりゃあクラスはパニックを免れねぇ!あまり困らせるな」竹ちゃんも言う。「Y、大丈夫か?」さちが僕の額に手を当てる。「少し熱いよ。発熱じゃない?」「自覚症状は感じないが、もしかすると“アイツ”かもね。もう少しで駅に着く。休めば大丈夫だよ」僕は心配をよそに歩いた。「雪枝、堀ちゃん、ベンチ確保して!中島ちゃんボトル買って来てあげて!」道子が直ぐに指示を出す。3人は急いで駅へ走った。駅のベンチへ座り込むとドッと疲れが襲って来た。目の前が一瞬暗くなる。「Y、体調管理に気を付けな!Yが倒れるのは、もう見たくはないからさ!」道子が僕を諫める。「すまん。自分でも注意はしてるんだが、どうしても我慢しちまう。悪いクセだな」さちはハンカチを濡らして額に当ててくれた。中島ちゃんはスポーツドリンクのボトルを買って来てくれた。少しづつゆっくりと水分を摂る。真理子さん達も心配そうに集まっていた。「真理ちゃん、大丈夫。少し休めばYは復活するから」中島ちゃんが落ち着かせるように言っている。「Y、家に自力で帰れるか?」さちが聞く。「それは問題ないよ。バス停から2分で自宅に着く。心配かけて悪い」「気にするな。誰も調子が悪くなる時はある。今晩はゆっくり休め」さちはハンカチで僕の顔を拭くと再度濡らして額に乗せた。電車の時刻が迫っていた。上下同時だ。「Y、バスが出るまでじっとしてな。帰ったら直ぐに寝てよ。明日は無理せず休むならゆっくりしな!」道子が僕の目の前にしゃがんで言い含める。「大丈夫だ。さあ、遅れないように電車に乗ってくれ」僕が言うと「分かってる。くれぐれも無理だけはしないで!じゃあ行くね」女の子達はホームへ向かった。「さち、ハンカチ借りとくよ」「分かった。返さなくていいから、ちゃんと帰るんだぞ!」さちは僕の頭を撫でるとホームへ向かった。帰宅した僕は、直ぐに布団へ潜り込み薬を飲んで休んだ。深夜に目覚めると症状は治まっていた。夜食を食べてから朝までぐっすりと眠り込んだ。

翌朝、いつもより1本遅いバスで家を出たので、僕はレディ達を追いかける立場になった。体調は回復したが、予断は許されなかった。ゆっくり“大根坂”を登る。遥か上に6人が見えた。竹ちゃんと5人のレディ達だ。僕は自分のペースを守って坂を登った。その時、さちが振返って僕を見つけた。「Y-、大丈夫かー?!」「おー、先に行ってくれ!教室で会おう!」僕は振り返った6人に向かって言った。「参謀長、先に行くぞ!」竹ちゃんが言い歩き出す。だが、さちは立ち止まって僕を待っていてくれた。「Y、大丈夫なのか?」「ああ、休む訳には行かないだろう?薬飲んで寝たから心配無い」僕が答えると、さちは手を繋いで歩き出す。「ゆっくり行こう。あたしが連れて行く」さちは優しく僕を引っ張って行く。昇降口で水道水を飲むと少しはシャンとした。「ふむ、顔色は悪くないが、体力はギリってとこかな。今日は大人しくしておる様に!」さちが言い渡す。「分かりました。静かに過ごしましょう!」僕等は教室へ入った。「さち、Yはどう?」道子達が聞いて来る。「大人しくしてれば大丈夫だよ。今日はあまり無理はさせない様にしよう」「昨日の今日だもの。少しでも様子が変なら保健室へ“強制連行”しよう!」堀ちゃんが言い全員が頷いた。どうやら、鉄のタガが張り巡らされた様だ。しかし、予想外の事で僕は動き回る事になる。「Y君、ちょっとお願い」明美先生が廊下から声をかけて来る。「どうしました?」僕が廊下に出ると明美先生は僕を生物準備室へ連行した。中島先生が難しい顔つきで待ち構えていた。「Y、朝から済まんが、重大な事だ。極秘裏に調べて欲しい案件が出た!」先生が言うからには、かなり厄介かつ重要だと即座に察した。「“菊地が駅で同級生と接触している”との情報が1期生から寄せられた!この件が事実ならば由々しき事だ!直ちに遮断しなくてはならん!Y、2人が接触している“現場”を押さえて写真を撮ってくれ!物証が必要だ!」「分かりました。手を回して見ましょう。しかし、“無期限の停学”でありながら、同級生と接触をするとは、どう言う神経なんだろう?」僕が思慮に沈みかけると「校内の情報を受け取り、復学を目指して工作を始める前兆だろう!だが、今回は校長以下、教職員全員が処分撤回に賛成する筈が無い!理由も義理も無いのだ!故に早期に叩き潰す!Y、あまり悠長な事は言ってはいられない。速やかに物証を手に入れろ!」先生は焦っていた。「はい、準備と段取りは今日中に決めます。撮影は、早ければ本日。遅くとも明日には終わらせます。現像に1日かかるとして、遅れたとしても4日後にはご用意します」「うむ、済まんがとにかく急げ!遮断が遅れれば、余計な情報が流出し続けるだけでなく、復学に向けた“足場”を組まれる恐れがある!ともかく証拠だ!物証を大至急入手だ!」「はい、直ちに手配を開始します!」僕は生物準備室を飛び出すと、放送室へ忍び込んだ。滝が根城の代わりに使っているからだ。滝はテープのダビングをやっていた。「おはよう!早速だが依頼がある!緊急事態だ!」「おう、何をやればいい?」「小佐野からカメラと望遠レンズとフィルムを手に入れてくれ!ターゲットは菊地嬢!駅での密会写真を撮って欲しい!」「何だと!“無期限の停学”の真っ最中に彼女は何をしでかした?」滝も驚愕した。「同級生から“情報”を吸い上げてるらしい。“復学工作”の一環だろう。今、担任から依頼が来た!」「よし、現像室へ行くとするか!小佐野も根城で遊んでるはずだ!長官達には、まだ知らせて無いんだろう?機材の調達は任せろ!お前は“対策本部”を設置しろ!」滝の飲み込みは早い。2人して放送室を飛び出すとそれぞれに急いで現像室と教室を目指した。僕は教室へ戻ると、長官と伊東を捕まえて担任からの依頼内容を話した。即座に2人の顔色が変わる。「小佐野のところへは誰を?」長官が誰何する。「滝に行ってもらいましたよ。撮影依頼もかけてあります!」「それにしても何故だ?」伊東は事態を飲み込めていない。「“復学工作”の一環だとしたら、校内の状況を把握するは当然の手口さ。学校としては一刻も早く“遮断”しようと焦ってる!」僕は改めて言い含める。「しかし、これが“蘇生工作”の第1歩だとするとマズイな。思いの外早く動き出すとは・・・、だが、今のところ応ずる姿勢は取っておらんのだろう?」「口ぶりから推察すると“留年狙い”もしくは“退学”へ持ち込むつもりでしょう。簡単には“解約”はしない構えですよ!」「“解約対策会議”を招集しよう。いつもの様に極秘裏にな」長官が重い口を開いた。「直ぐに招集をかけます!参謀長、説明を頼む!」伊東は動き出した。「参謀長、今回の件は叩き潰すとしても、次も必ずあるだろう。どう読む?」長官は窓の外を見つつ言う。「“銀行”の狙いは明確ですから、どうやって切り崩すか?ですね。“実弾”の使用も含めてあらゆる策を検討しなくてなりません。正直、何を仕掛けて来てもおかしくありませんよ。ともかく、速攻で叩く。これしかありません」僕は次の手口を考慮しつつ言った。容易ではないが、どんな堤でも蟻の穴から決壊は引き起こされる。増してや相手は“法律”や“実弾”を要所で使う化け物だ。防御を突破されたらひとたまりも無い。「まずは、目の前のハエを叩く!完膚なきまでに潰して置かねば我々が危うい」長官の言葉は重かった。これが津波の第1波だった。続けて押し寄せる大波は、僕等を恐怖のどん底へと招く者となると思いもしなかった。