limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 9

2019年04月08日 15時40分33秒 | 日記
「Y、伊東の力量ではクラスをまとめるのは無理か?」その日の昼休みに中島先生が僕に聞いた。ダージリンの入ったカップを手に僕は「そんな事はありません。山岡君も僕も力添えしてますし、竹内君や久保田君も動き出してます。女子は何も不満を持っていませんから、もう少し様子を見てはどうでしょう?空気と言うか雰囲気は良い方向へ向かいつつあります!」とキッパリ言う。「菊地は“混乱を助長しているだけだ!”と力説しておったが、お前の見解を聞くと、どうも違う様だな。事実、お前と5人の女子の仲を見て居ると、非常に良好な関係が出来ている。この状況をクラス全体に広げれば、何も問題は無い。お前たちは“モデルケース”でもある。その当人が“もう少し”と言うなら確かだろう。菊地は何を見て“混乱”と言うのだろう?彼女の真意は何だ?」「分かりません。菊地さんの意見と言うか、主張を聞かなくては判断のしようもありません」「うむ、確かにそうだな。公平に意見なり主張を出し合って、方向性を決する。それしか無いか。もっとも、ワシはお前の言う事が正解の様に思う。進藤のノートを作った実績からしてもそうだ。助け合い、共に高め合う。お前達が自主的に勉強をやっている姿を見れば、“混乱”など無いのは明らかだ。ただ、男子と女子が打ち解け合う切っ掛けが無いだけだろう?」「そうです!それをどうするのか?を伊東君達とも日々議論してます。幸い兆しは現れ始めました。今少しで雰囲気はガラリと変わりますよ。先生、もう少し待ってもらえませんか?後1歩のところまで漕ぎつけているんです。ここで、妙な事になれば今までの努力も水泡に帰してしまいます。今しばらくのご猶予を!」僕は先生に必死に訴えた。ここで、先生を僕等の側に引き込んで置かなくては、勝てる勝負も逃す事になる。「分かった。お前がそこまで言うなら間違いはないのは明らかだ。菊地が何を言うかは分からんが、伊東を降ろすのは見送り、続投させようじゃないか!結果が直ぐに出るとは限らんし、性急な事をしては逆効果かも知れん。Y、お前たちの“モデルケース”を拡大させる事を進めろ!そのために必要な事はワシもバックアップしよう!頼んだぞ!」「はい、お任せ下さい!」これで先生を引き入れる事には成功した。少なくとも菊地嬢の尻馬に乗る心配は半減しただろう。思わずため息が漏れる。「Y―、中国の三国時代みたくならないよね?」さちが聞いて来る。「そうしない様に“男子も一体”となって、動き出してます。クラスを分裂に導く様な真似ができますかいな!女子もご協力をお願いしますよ!」「それは、言われなくてもやるわよ。あたし達だって一員なんだからさ!」道子が後押しをしてくれる。「こう言う姿こそが、クラスを一体化するための鍵だ。やはり、お前の言う事は間違いない!」先生も後押しを惜しまない。もっとも気がかりだった“先生の去就”は僕等に傾いた。“第1ハードルクリア!”僕は心の中で呟いた。

その日の放課後、伊東、長官、竹内、久保田、笠原さんに僕の6者会談が密かに行われた。「参謀長、担任の“去就”は間違いないのだな?」長官が口火を切った。「大丈夫です。我々の後押しをしてくれます!最大の“後ろ盾”を得ましたよ」と僕が言うと「こっちもOKだ。今井が乗った!ついでに3組に逆情報まで流したぜ!」と久保田が胸を張る。「逆情報とは何だ?」すかさず長官が誰何する。「原田と今井。宿命のライバルって言っても勉強は、原田の方が上だが、スポーツに関しては常に凌ぎを削り合った間柄。腕力では原田は今井をもっも恐れてる。だから“実力行使に出るなら俺が相手だ!”って凄んだ訳さ!さすがの原田もビビッてたぜ!」竹内がにやけて言う。「おい!原田が“契約破棄”を通告したらしいぞ!網にかかって来たし、女が昇降口で菊地嬢と話し込んでる!」滝が飛び込んで来た。「やっぱり、そう来たか!今井が相手なら、当然引く筈だ。菊地嬢は?」久保田が滝に聞く。「顔面蒼白だよ。ガタガタ震えてた。原田が逃げ出したんだから、援軍は来ない!孤立無援で明日を迎える事になる」「滝さん、原田の耳に入る様に逆情報を流してくれ!“男子が大同団結して明日を迎える”とな!」長官が直ぐに反応する。「了解、直ぐにかかりますよ」滝は6組へ向かった。「ワシからも小佐野を通じて、逆情報を流す。参謀長、敵の空母は1隻だけ、護衛艦も僅かだし直援機も居ない。そうなれば、一斉砲撃すれば撃沈出来るな!」「問題は、どのタイミングで仕掛けるかですよ。菊地嬢を逆上させられれば尚効果的に、優位に立てますからね。竹ちゃんと久保田達が動くと同時に笠原さん達にも態度を鮮明にしてもらう。そして長官と僕で沈める。この筋書きでいいんじゃありませんか?」「大筋はな。だが、最後の魚雷は参謀長が発射して欲しい。話はケースバイケースになるだろうが、上手い事沈めてくれよ!」長官の注文は厳しい。「分かりました。何とか意に沿う形でやって見ましょう。でも、最後のオチは伊東が“採決”をして落としてくれよ!」「それは言われなくてもやるさ。委員長の職権でな!」「長官、あたし達は男子の動向を見てから動けばいいの?」笠原さんが聞く。「千里が見極めて動けばいい。発言もしなくていい。ともかく続いてくれれば、ワシらで決着させるから心配はするな」長官が優しく言う。「俄然有利とはなったが、相手は強敵。1歩間違えば奈落の底へ真っ逆さまに変わりはない!皆、心してかかってくれ!」長官が周囲を一瞥して言うと「おう!」とみんなが応じた。機は熟した。

決戦当日の朝、僕とレディ達は最終の打ち合わせに入った。「僕が合図するまで動いたり発言したりしないで欲しい。菊地嬢を出来るだけ、けん制して逆上させるのを待つんだ。落ち着いて行動してくれよ」「Y、これで本当に最後だよね?バラバラにならないよね?」さちが代表して聞いて来る。「大丈夫だ。今日を境に潮目は変わる。悪い方向へ行くことはもう無いよ」僕は静かに言い聞かせた。「ともかく、Yの指示通りに。みんな、頼んだわよ!」道子が不敵な笑みを浮かべながら言う。5人のレディ達は黙して頷いた。そして、ホームルームは始まった。「今日は、クラスの諸問題の解決について審議を行う。菊地からの提案について、忌憚のない意見を出し合って、より良い方向を決めてくれ!伊東、小松、進めろ!」正副委員長が登壇して、いよいよ決戦の幕が切って落とされる。

「では、審議に入る。菊地!主旨説明と意見を述べてくれ」伊東が菊地嬢を指名した。彼女は自信タップリに話始める。「皆さん、入学式からおよそ3ヶ月が経過しましたが、未だに私達のクラスは一体感に欠ける有り様。特に男子の日和見的姿勢は、眼を疑いたくなる惨状です。まるで“見えない壁”があるかの様にクラスを分断しているのは、みなさんもお気づきですよね。何故、この様にまとまりに欠けるかは、お分かりでしょう?委員長の力量に明らかに問題があるからです。私は、この状態を改善するために、委員長を解任して新たな体制を構築する事をここに提案します。強力な指導力と強いリーダーシップに寄って、“壁”を取り払い、男子を教育し直して無駄な時間を空費させず、融和を図り、秩序を作り替えるのです!それが出来るのは、私を置いて他には居ません!クラスのために誠心誠意努めて参ります!どうか御承認を宜しくお願いします!」拍手は無い。女子も反応は出さない様だ。「何か質問は?意見はありますか?」伊東が問う。ここからが勝負だ!今井君が手を上げた。「僕は、委員長を変える必要性を感じません!何故なら・・・」と言いう途中で、男子が次々と席を立って黒板の前に並んだ。「ここに居る者達は、みんな伊東の続投を希望するからです!」と力強く言い放った。残って居るのは、長官と僕のみだった。男子は今、初めて団結を明らかにに示したのだ!「山岡君!Y君!貴方達はどうなのよ?」「言う間でも無い。ワシは、伊東を支持する!」長官も席を立って正面に並んだ。「さあ、あたし達も行きましょう!」笠原さんを支持する女子達も前に並んだ。未だに態度を保留しているのは、菊地孃のグループと僕等のグループだけになった。「何よ!この卑劣極まるやり方は!あたしを誰だと思ってるの?実力では伊東なんかに劣る筈の無い、真のリーダーよ!従わないなら覚悟はしてるでしょうね?」菊地孃は逆上し始める。予定の路線だ。もう少しで形勢ははっきり決まる。僕は5人のレディ達に合図を出した。道子を先頭に5人も前に並んだ。「貴方の腹の内は?」菊地孃が、目の前に立った。後に、みんなから言われる事になるが、その時の僕の表情は¨人を殺めるが如く鬼気迫るモノ¨だったと言う。眼を合わせると微かに菊地孃は怯んだ。「最初にもう一度言うが、クラスメイトを上から見下す様な発言は止めろ!立場は対等なんだ!特にレディ達に対しては、そう言う口は2度と聞くな!」僕は席を立って1歩前に出た。完全に菊地孃は怯んで居てジリジリと後退する。「アンタに委員長の椅子に座る資格・権利は無い!私利私欲のために、クラスを混乱に陥れ様とするな!誰のためでも無い¨みんなのため¨を思って、日々額に汗して駆け回った伊東こそが¨真のリーダーであり委員長¨だ!アンタは、クラスのためと言うが、どれだけの事をして来た?具体的に言って見ろよ!」菊地孃は沈黙するしか無かった。「何も言えないと言う事は¨何もしても来なかった¨と見なすぜ!口先ばかりで中身の無い者に委員長たる資格は無い!茶番劇で転覆を企むとは笑止千万!座して結果を見るがいい!」菊地孃は膝から崩れ落ちた。僕も前に並んだ。「委員長!採決を!」長官が言う。「採決を取る必要性は無いでしょう。反対多数!本件は否決されました!」伊東が宣言すると自然に拍手が広がった。伊東は長官と僕に握手を求め、互いに固く握手を交わした。先生も満足したのか笑顔で拍手をしている。事は決した。菊地孃の¨クーデター計画¨は頓挫し、僕等は主権を維持したのだった。

それから半月後、7月も半ばを過ぎて梅雨明けも目前になった頃、「ねぇ、ねぇ、ねぇ、赤坂くーん!」有賀の良く通る声が教室に響く。「何だよ!」赤坂はうんざりしたかの様に答えるが、表情はそうでも無い。2人は何気なく話始める。「よく続くぜ。今やお決まりの¨アカサカくーん攻撃¨だが、アイツもまんざらでも無さそうだし」久保田が苦笑しつつ言っている。「そういう久保田君は、誰かに言ってもらいたく無い訳?」副委員長の小松が突っ込みを入れる。「あからさまなヤツはごめんだ!」と言うが久保田も穏やかに、自然体で話している。「空気が変わったな。道子、これ程までにガラリと変わるとは以外だよな?」竹ちゃんが言うと「やっとここまで来たねー。¨見えない壁¨があった何て思えないわ。でもさ、これが本来有るべき姿。もっと進化させなきゃ!あれ?さち、堀ちゃん、Yはどこ?」「明美先生のお呼び出しよ!」「Yと何をしてるのかな?」2人は首を傾げて居た。「噂をすれば何とやら、Yのお帰りだ!Y!何をやってたのよ!今日こそ白状しなさいよ!」雪枝が噛みついて来るし、中島ちゃんは挟み撃ちの体制を取る。「Yー、明美ちゃんと何の話?」「あたし達を差し置いて何をこそこそしてるのよ!」堀川とさちも加わり、僕は完全に包囲された。「野暮用だよ。梅雨明け後のお茶の相談さ。アイスティーが作れないかと思ってね」僕は正直に話すが、4人は納得しようとしない。「嘘をおっしゃい!問答無用!行くわよ!」さちの号令の下、僕は両手を掴まれて身動きを取れなくされて、吊るされる。「誤解だ!誤解!」「何してたのよ!正直に吐きなさい!」「あたし達を見捨てるつもり?」さちと堀川が尋問を始める。「やれやれ、参謀長も形無しだな」竹ちゃんが笑って言うし「4人相手に良く続くものだわ!」と道子がため息混じりに言う。誰もが¨見慣れた光景¨として茶化す事も無い。垣根は消えて男子も女子も仲良く雑談や勉強にいそしんでいる。やっとここまで漕ぎ着けたのだ。ただ、菊地孃だけは数名で孤高を保ってはいたが。「4対1で良く渡り合えるな!絶妙のバランスだ。俺はとても真似出来ねぇー!」竹ちゃんが呆れて言うと「Yだから出来る芸当よ。彼以外には誰もがやれる事では無いの。誰か1人に決めるなんて、Yには無理な相談よ!1人ぼっちが何よりも辛いのを知ってるからこそ、ああやって必死にバランスを取る。優しすぎるのが、良いとこでもあり、欠点でもあるのよ」道子は僕等の方を見ながら呟いた。「そうかも知れねぇな!参謀長の性格からしても、1人に絞るのは主義じゃあるまい。4人を平等にしなきゃ治まらないんだろう?」「さちも堀ちゃんも雪枝も中島ちゃんも、本気で怒ってなんかいないの。Yとじゃれてるだけ。あの光景を見てても“誰も茶化したりしない”今の雰囲気があるからこその“お遊び”なのよ。Yが日々真剣に考えてるのは、4人の事もそうだけど、クラス全体の雰囲気を壊さない事。自分の事は常に後回し。でも、いい加減Yも楽になって欲しいし、堀ちゃんの事を思うとYを堀ちゃんに託したいのが、あたしの本音。竹ちゃん、どうにかならないかな?」道子が竹ちゃんをみて言う。「俺もそうは思うが、4人を説得する自信はさすがにねぇよ!現状維持にしとかないと、道子としても不安じゃないか?」「うーん、理想は堀ちゃんなんだけど、あれを見てると何が“正しい”のかを言う自信は無いのよ。Yは“おもちゃ”としては他に換えようが無い、唯一無二の存在だから」「取り敢えず見守るしかねぇな!参謀長としての力量を考えれば“誰も届かない”知識と分析力に洞察力を持ってるし、4人の女子を支え飽きさせないと言うか、こっちも“誰も届かない”力を発揮してる。彼が倒れない様に俺達で見てるしかねぇよ!」2人が言い合う中、僕達はギャーギャーとじゃれていた。「大人の女に何か渡さないわよ!」さちの眼が吊り上がる。「だーかーら、誤解だってば!」僕の良い訳は通用しなかった。

金曜日の帰り道、7人で“大根坂”を下り始めると僕の鞄からノートや参考書の類が次々と引き出されていった。それを見ていた竹ちゃんが驚いて「参謀長、略奪に合ってるがどう言う事だ?」と尋ねて来た。「別に、貸してるだけさ。さちが“世界史”、雪枝が“日本史”、中島ちゃんが“生物”を持って行っただろう?早ければ明日には返してくれる。写し終えたらね」と言うと「Y、いつもの入れとくね!」と堀川がノートを押し込みに来て左横に並んだ。「堀ちゃんは反対に“数学”のノートを貸してくれるんだ。今晩、要点を丸写しにするのさ」と何気なく言う。「こりゃあ、どう言うシステムなんだ?」竹ちゃんが不思議そうに聞くと「みんな苦手を克服するためにやってるのよ」と道子がフォローを入れる。「さちと雪枝はYのノートと参考書で自分のノートの補完をするの。中島ちゃんは補完もするけど、Yの字を見て“習字”をしてるの。彼女“Yの字を真似て綺麗に描く”って目標があるし、生物は得意ではないから、復習も兼てね」と堀川が解説をしてくれる。「相変わらず抜け目のないヤツらだな!相互援助もここまで来ると脱帽するしかねぇ」「Y、あたしと雪枝とでノートと参考書交換するから、返すのは月曜でいい?」さちが聞きに来て右側に寄り添う。「ああ、だが、月曜日に忘れて来るなよ!こっちが困るから」「今まで忘れた事ある?雪枝はともかく」さちが勝ち誇るかの様に言うと「あー!あたしを悪者にするなー!」と雪枝が立ちはだかる。中島ちゃんは熱心にノートに見入っていて、みんなから遅れ始めていた。竹ちゃんがノートを覗きに立ち止まる。「なーに見入ってんだよ!」「Yのフルネームの書き方を研究中!3通りの書き方があるのよ。縦方向に伸ばす書き方と全体を押し潰したように書く方法。それと普通に書くやり方。マスの大きさや書類によって書き方を自在に変化させてるけど、字の崩し方はみんな一緒。パッと見て読みやすい書き方をYから拝借させてもらうの!」「少しは効果はあるのか?」「勿論、あたしの字少しづつ変わってるよ。見て見る?」中島ちゃんは竹ちゃんに自分のノートを見せた。「ほー、これは、これは、随分変わったな!」「でしょ!少し肩の力を抜いて、落ち着いて書くと全然違うの!コツはYも教えてくれたよ」「中島、置いて行かれるぞ。急ごう!」「あっ!待ってよ、みんな!」中島ちゃんが走って追いついて来る。竹ちゃんも道子の隣に戻った。「4者4様か。参謀長、疲れないのか?」「休養は取ってるよ。地理の時間は重要な“休憩時間”だよ」「えー、サボリかよ!テストで赤点にならねぇのかよ?」「平均より上は取れるし問題無し!」「Yらしいけどね。基本を押さえてる教科は“手抜きで構わない”って言うし、実際点数取るし。メリハリは付けてやってるならいいんじゃない?」さちが言う。「地理もだけと、日本史や世界史に関しても、中学時代に高校の参考書を読破してるって言うから、半分休んでるも同然なの。ただ、2人のためにノートを作ってはいるけどね」堀川が笑って言う。「タダ者じゃねぇな!参謀長の頭の中はどうなっているんだ?」「それはね、大きな金庫があって、無数の引出しに別れてるのよ。その中はありとあらゆる知識が整然としまわれてるの。だから、どんな時も慌てずに推理や作戦が立てられるって訳」雪枝が僕の頭を突いて言う。「脳の構造が違うのか?」「いや、人はみんな平等だよ。違いなんて無いさ」僕はキッパリ否定した。「4人相手で疲れねぇのかよ?」竹ちゃんが心配する。「別にどうって事は無いさ。今までもやって来てるんだし」僕は肩を竦めて言う。さちと堀ちゃんが微笑む。「参謀長、1人に絞るのは、やっぱり無理か?」竹ちゃんが諦め半分に聞く。「竹内君!あたしにYを諦めさせるつもり?」「あたし達からYを取り上げるの?」さちと堀ちゃんの眼が、たちまち吊り上がる。「そっ、そうじゃなくてもさ、友達なんだからその・・・、参謀長の自由な意思をだな・・・」「あたしと堀ちゃんは¨共同戦線¨を締結して決めたの!Yはね¨共有財産¨として管理するの!雪枝も中島ちゃんも同意見だよ!」「Yを独占出来るのは、あたし達だけ。他には見向きすらさせるもんですか!」さちと堀ちゃんの剣幕に、さすがの竹ちゃんも引き下がるしか無い。「道子、どうすりゃいいんだよ!参謀長が潰れちまう!」と竹ちゃんが言った瞬間「それってあたしの事?」さちが鋭く一瞥をする。「いえ、その様な事は・・・」道子がクスクスと笑う。「竹ちゃん!無理、無理!4人からYを引き剥がそうとすれば、タダでは済まない。Yは4人にとって¨父親¨の様な存在であり¨ホーム¨なの。あたしにしてもそう。例え竹ちゃんと喧嘩しても、逃げ込む先はYのとこになるわ。かけがえの無い¨家¨。それがYなのよ」「うーん、でも、それじゃあ参謀長の¨自由と個人の意思¨は封印されたままじゃねぇか?」「いえ、Y自らが¨選んだ道¨だもの。本人はまったく気にしてはいないの。自分の事は¨常に後回し¨なのよ。それを止めさせ様としても、Yは拒否するはず。そういうヤツなのよ」道子は諦め顔で言う。「ならば、俺達で見守るしかねぇな!道子、参謀長がどう言う時に体調を崩すか?知ってるよな?」竹ちゃんが小声で言うと道子は「分かってる。竹ちゃんには、まだ話してなかっわよね。Yは、保育園の時に半年間起き上がれなかった事があるのよ。原因不明の大病でね、今でも時々崩れる事はあるの。先月もおかしい事はあったのよ!」「だったら、尚更、気を付けねぇといけねぇな!陰からしっかりと見てやらねぇと義理を欠く事になる!俺達に出来る事はキッチリ果たしてやろうぜ!」竹ちゃんは道子を見つめて言った。「うん!それがあたし達の恩返しね!」道子も頷いた。

期末試験が終わると同時に梅雨が明けた。夏空と強い日差しが照り付けた。そんな中、“夏期講習”の日程が発表された。僕等は“任意”だったが、“強制執行”となる者も多数いた。残念ながら、久保田や竹ちゃんは真っ逆さまに落っこちてしまった。「面目ねぇ、夏休みも勉強かよ・・・」竹ちゃん達はガックリと肩を落とした。「まあ、そう悪くもないぜ。僕等も全日程に参加する事に決めたよ!」と竹ちゃんの肩を叩いた。「えっ!お前さん達も出るのかよ?!」「ああ、レディ達も含めてね!竹ちゃん付き合うよ!」「そう言ってくれるとありがてぇ!どんな援軍より頼りになる。ところで参謀長、例の“開発”も同時進行か?」「ああ、水面下で滝と共同開発してる“例のヤツ”の事だろう?基本設計は終わったから、製作にかかる予定だよ。どっちにしても休み中に終わらせないと、マスイ事になるからね」僕は小声で言った。僕と滝は“盗聴器”の開発を連日、打ち合わせて続けていた。1度は諦めたものの、やはり今後の事を考えると、原田の居る3組の動向を把握するには“何かしらの手立て”をして置かねばマズイと言う結論に至ったのだ。時期的にも夏休みに入り、校舎内に人気はまばらにもなる。“工事”をするにしても、都合に見合ったのだ。「出来るなら矢を射て置く事に越したことは無い。何とかやって見てくれ!」と長官も期待しているのだ。「Y、先生が呼んでるよ!」中島ちゃんが知らせに来た。「朝っぱらから何だろう?」「厄介事で無けりゃいいが、キナ臭い匂いがするぜ!」竹ちゃんが心配する。僕は生物準備室へ急いだ。「失礼します。何かありましたか?」と言うと「済まんが探って欲しい案件がある!」と先生が頭を抱えて言う。「赤坂が狂った。成績が急降下した上に、白紙答案を出した。極秘裏に赤坂の周囲を調べてくれ!何か出るはずだ!」先生は苦虫を噛んだように言う。「あの真面目人間が白紙答案ですか?」僕も内心驚いた。「クソ真面目が災いしたとしか思えん!自力での浮上は不可能だな!」「では、彼に浮上するきっかけを与えろと?」「そうだ、医者代わりに動いて貰いたい。勿論、この話は必要最小限の範囲に留めてくれ。本人に悟られぬ様に水面下で“治療方針”を決めて、夏休み中にケリをつけるんだ!」竹ちゃんの予想は大当たりだった。厄介にして最大の難物の今後を救え!と言うのだ。相手はクラス1の真面目人間赤坂君。コードネームは“ねぇねぇのおもちゃ”だった。